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男だけど期間限定でアイドル♀活動してます  作者: ソラ・ルナ
第一部

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15/35

15話.ユナは想像以上に凄い人でした

本日2話目です。

 着替えてダンスルームに行くと、音楽が聞こえてきた。

 このメロディは、パイレーツ・オブ・カリビアンか。

 部屋に置いてあるエレクトーンを使い、ユナが弾いている。


 軽快な音楽がユナの指から奏でられていく。

 僕はこの曲がとても好きだ。

 だから、自然と体が動き出す。


「わっ、姫咲君!?」

「お兄ちゃん!」


 僕が踊り始めても、ユナは手を止めなかった。

 視線だけ僕に向け、少し笑った気がする。

 そこから、音が更に強くなった。

 これは、僕を挑発している。

 この音についてこれるか、と。

 望む所だっ!


「す、凄い、姫咲君……!」

「ユナさんの音と、お兄ちゃんの踊りが絶妙にかみ合ってる……!」


 パイレーツ・オブ・カリビアンは、その名の示す通り海賊達の生き様を描いた映画のメインテーマ曲である。

 リズム良く流れる曲に、思わず体を動かす人は多いだろう。


「やるわね……! ならもっと上げていくわよ!」


 更に力強い演奏に変わる。僕も動きをアップさせていく!

 ターン! という音で演奏は終わり、僕も動きを止める。


「うわぁ、うわぁ! ユナちゃんは当然だけど、姫咲君もカッコ良かったよ!」

「うん! お兄ちゃん流石!」

「ありがとう」

「……やるわね、姫咲。まさかここまで踊れるとは思わなかったわ。ユリアが言う程はあったようね」


 良かった、バレてないようだった。

 美香の言う通りにダボダボのジャージに着替えてきたのは正解だったようだ。


「姫咲、次は『スターナイツ』の歌を踊ってくれないかしら? 勿論歌えとは言わないわ」

「え!?」

「貴方の腕は大したものよ。この私が言うのだから間違いない。貴方なら、もしかしたらレオナも仲間に入れるのを認めるかもしれないわ。だからこそ、貴方が踊る『スターナイツ』の踊りを見てみたいと思ったのよ。こんな事を思ったの、レオナ以来よ。誇って良いわ」


 マズイ。不味すぎる。

 現実問題として、僕とレオナが出会う事は出来ない。

 同一人物だから当たり前だ。

 だけどユナは、僕とレオナの素質を踊りから見極めた。

 僕とレオナを別個として見て、僕の踊りを見て認めたんだ。

 レオナを認めた時と同じように。


「悪いけど、僕は仮に認めてもらっても『スターナイツ』には入れないんだ」

「あら、それはどうして? 私達の好みを把握する程度には、好きなんでしょう?」


 ……そうだ、僕は『スターナイツ』が大好きになっている。

 それを否定する言葉は出てこない。

 だけど、僕とレオナは共存出来ないんだ。


「まぁ、良いわ。それでも踊りを踊る事は出来るでしょう? この私に、見せて頂戴。貴方の本気の踊りを」


 その目はとても真剣で。レオナに挑む時と同じ、上を目指す真摯な想い。

 この目を見て、下手に踊る事なんて出来るだろうか。

 ……出来ない。ユナがどこまでも上を目指している事を知っているから。

 『スターナイツ』に対して、特別な想いがある事を知っているから。

 レオナとユリアと共に進む道を、歩んでいきたいと思っている事を知っているから。


<<美香、ごめん>>

「!!」


 その一言で察したのだろう。

 美香はしょうがないなぁっていう表情をして、頷いてくれた。

 僕は、本気で踊ると決めた。


「音楽は『starlight』で良い?」

「bestchoice! 良いわ、最高の選択よ。姫咲、見せて頂戴」

「姫咲君……!」


 ユリアが良いの? という表情で見つめてきた。

 僕が頷くと、そっか、という表情になった。

 さて、やるからにはもう一度着替えてこよう。

 僕の、本気の衣装で。


「美香、音楽を準備しておいてくれる? 僕のダンス衣装に着替えてくるよ」

「分かったよお兄ちゃん。その、良いんだね?」


 その言葉には、絶対にバレるよ、という副音声が入っている。

 僕はそれでも、頷く。

 そうして、準備に自分の部屋へと戻って来た。


 この衣装は、先生がくれた男としてデビューした場合の、もしもの衣装。

 ずっとタンスの肥やしになっていたけれど……今日初めて、袖を通す。

 よし、体型があまり変わっていない事もあって、バッチリ着こなせた。


「えっ……お兄、ちゃん?」

「姫咲君、なの?」


 二人がとても驚いた顔で見てくる。

 そんなに違うだろうか?


「そうだよ。僕の本気のダンス衣装。『スターナイツ』の歌と踊りは、男女どちらが踊ってもカッコイイからね。僕も本気でやらせて貰うよユナさん」

「良い覚悟だわ。are you ready?」


 ユナの言葉に、美香が音楽を再生する。


「OK! Let's do it!」


 僕は、初めて僕として、レオナの踊りを踊った。

 いつものクールな踊りを、僕として。


「これ、は……」

「凄い……姫咲君、カッコイイ……」

「お兄ちゃん……こんなの反則だよっ……」


 歌の終わりに、決めポーズをして、踊りを終わる。


「ふぅ……」


 全力で踊りきった。

 後はユナがどう言うかだ。


「excellent! 姫咲! いえ、レオナ!」

「「「!!」」」

「素晴らしいわ。やはり貴方は最高のライバルねっ!」


 あ、あれ? 僕がレオナだとバレているのに、対応が変わらない?


「それにしても、まさか貴女が、いえ貴方がレオナだとは思わなかったわ。いえ、それを感じる場面はいくつもあったのだけれど。本当に素晴らしいわレオナ。今回の踊りは、今までで一番だった。まだそんな腕を隠していたなんて、全く貴方は」

「あの、えっと。僕がレオナだって分かったんだよね?」

「ええ。その踊りは、レオナ以外に踊れないわ。いえ、いつものレオナ以上の力を感じた。それが本当のレオナの、姫咲、いいえ、拓都の力なのね。excellent……」


 ユナは物凄く感動しているようで、目がうっとりとしてしまっている。

 どうしよう、予想の斜め上を行く展開で戸惑ってしまう。


「もしかして拓都、貴方があまり話さなかったのは、男だと知られたくなかったのかしら?」


 いきなり核心をつく言葉に驚くけれど、僕は正直に頷く。

 バレる事を覚悟の上で、踊ったのだから。

 これでメンバーが解散になったとしても、ユリアとユナはもっと上を目指せるはずだ。


「成程。というかユリア、貴女は先に知ってたわね?」

「うっ……その、ごめんなさい。月曜日に姫咲君の踊りを見る機会があって、その時に……」

「そういう事。今思えば、それならユリアの言動も全て納得がいくわ。突然家に行くなんて言うのも、レオナだと分かっているなら当然だものね」

「え、えへへ……」

「でもこれからは、拓都の家でも練習できるわけね。とはいえ、レオナの事が周りにバレないようにするには、私達のマンションの方が都合が良いわね」

「そうだね!」


 あ、あれ? 僕の予想と違う展開に進んでいるような?


「あ、あのユナさん」

「何よ改まって。拓都は私の事は呼び捨てなさい」

「えぇぇぇっ。いつも様と呼べって言ってるのに!?」

「貴方は別に決まってるでしょうが。ああ、愚民共が居る時はそれで良いわ。レオナとバレたくないのでしょう?」

「そ、それはそうなんだけど……。というかユナは良いの? 僕、男なんだけど……」

「それが?」

「それがって……」


 まさかそんな返しが来るとは。


「私はレオナを認めた。そして拓都も。その拓都はレオナだった。私の目に狂いが無かったという証左こそあったけれど、それ以外に何か問題があったかしら?」

「いやその、僕は男なんだよ? 女のフリをしていたんだよ?」

「何故していたのかは気になるけれど、それが何か問題あるのかしら? ビジュアルは確かに人気を出すのには必要だけれど。けれど、本質は歌とダンスでしょう? 私は顔が仮面で見えなくても、歌とダンスが全てよ。そして、レオナとは男女の垣根などとうに超えているわ」


 超えてましたかね!?

 僕は未だにユリアもユナも引っ付かれたらドキドキするんですけどっ!


「要は、私は問題ないという事よ。ユリアもその様子なら、問題ないのでしょう?」

「うん! レオナちゃんが姫咲君でも、全然問題ないよ! むしろ嬉しいくらいだよ!」

<<これは予想外の展開に……。まさかお兄ちゃんが受け入れられてしまうなんてっ……!>>


 なにか美香がボソッと言っていたけれど、聞き取れなかった。

 にしても、あんなに悩んでいた問題が、こんなにあっけなく解決してしまうなんて。


「……それじゃ、改めて宜しくお願いしますユリア、ユナ」

「うん!」

「ええ」


 そう言って、僕達は手を合わせる。

 お互いの顔を見合って、笑顔に。


「ふふ。それじゃ新生『スターナイツ』、皆で踊ってみます?」


 美香の言葉に、僕達は頷き合う。


「それじゃ、やろうかっ!」


 同じメンバーにはバレてしまったけれど、これで良かったのだと思う。

 観客にはバレないように、細心の注意を払う必要があるけれど……僕の正体を知る仲間も増えたし、やっていける気がする。

 今日の練習は、いつもより心が軽く、楽しかった。

これにて第一部完となります。

もし続きが読んでみたいと思われる方がいらっしゃいましたら、第二部も書こうと思います。


それでは、ここまでお読み頂きありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 第一部完結お疲れ様でした。 とても楽しく読ませていただきました。 次回以降も期待していますのでよろしくお願いします。
[一言] ひとまずの完結お疲れ様でした。 続きすごく読みたいです。
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