13話.少しだけ日常に変化がありました
本日2話目です。
ユリアに男だとバレた翌日の学校。
「『スターナイツ』の歌、また一位だったよね! 凄いよねー!」
「うんうん! そのユリアちゃんにユナ様が同じ教室に居るなんて、ホント信じられない!!」
「レオナ様も来てくれたら勢ぞろいなのになぁ!」
「そんなん俺ら昇天しちまうわ!」
「はは! 違いない! レオナ様のクールな瞳に自分が映ったらと思うと……!」
「男子キモイんですけど!」
教室では『スターナイツ』の話題で盛り上がっている。
当人であるユリアにユナも居るわけで、その熱狂ぷりは凄い。
二人ともクラスメイトに囲まれているので、その姿は見えないけれど。
ユリアはともかく、ユナは辛辣なのに何故好かれているのかというと
「ほら貴女、ここを直せばもっと美しくなるのよ。女は美貌を磨いてなんぼよ。男を手玉に取るように、自分磨きを怠るんじゃないわよ」
「は、はいユナ様! ありがとうございますっ!」
「あのユナ様! 私、昨日言われた通りに変えてみたんですけど、どうですか!?」
「へぇ、少しは見れるようになったじゃない。なら……」
口こそ辛辣なんだけど、あれで自分を慕ってくる人に関しては結構気に掛ける所があるんだよね。
なので女王様然とした態度を好む男達だけでなく、女性人気も高い。
元気一杯で皆に愛されているユリアに、女王様なユナ。
そして毅然とした態度でクールなレオナ。
それが『スターナイツ』のグループだ。
「はーい、授業始めますよー。皆席に戻ってー。ほらそこの貴方達、他クラスでしょ、急ぎなさい」
「おわ、もうそんな時間!?」
「やっべ! 俺確か現国だわ、あの先生遅れたら真っ先に当ててくるんだよ!」
バタバタと自分のクラスへと戻って行く生徒達を見ていたら、ユリアがこちらへと視線を向けている事に気付く。
後ろの席なので、意識しないと普段は気付かないんだけど……昨日バレた事もあって、少し見てしまったんだ。
ニコっと笑うユリアは、やはり可愛かった。
今日は火曜日なので、仕事は入っていない。
火曜市と呼ばれるスーパーの特売日があるので、そこで一週間の買い物を済ませるくらいかな。
お金があるからといって、無駄に使ったりしないよ。
人生何があるかなんて分からないからね。
というわけで、放課後は妹と一緒にスーパーへ買い物に行くつもりだったのだが……。
「姫咲君、ダンス教えてくれる約束だよね?」
「え……」
6限目の授業が終わり、さぁ帰るかと鞄を持ち上げた瞬間、ユリアに声を掛けられた。
「いや、その……あれ、有効なの?」
「勿論。昨日踊りを見て、それでも良ければって言ったよね♪」
ああ、うん。確かにそう言ったけれど。
それは星美レオナだとバレていなかったからで。
バレてしまった以上、あの話は無くなったと勝手に思っていたのだけど?
「えっと……僕で良いの?」
とりあえず、レオナじゃないぞと言外に含めて言う。
「うん! 姫咲君が良いの!」
その言葉にクラスの皆がざわめく。
やめて、僕はこのクラスでそんな目立たない生徒なの!
「わ、分かったけど、僕が明野さんに教えられる事なんて、少ないと思うよ?」
「ううん、そんな事ないと思う。昨日の踊りを見て、それは確信したから!」
その言葉で、更にクラスメイト達のざわめきが大きくなる。
「やっぱ姫咲の踊りって凄いんだな」
「あのユリアちゃんがそこまで言うくらいだもんね」
「去年の文化祭も凄かったしな。顔は仮面被ってたけど」
とりあえず、この場をなんとかしないと騒ぎが大きくなりそうだ。
「えっと、それじゃどこで練習する? 僕の家も練習する部屋はあるけど……」
「ホント!? なら私、姫咲君の家に行きたい!」
ザワッ!!
うん、もう今度はクラス全体が震えたかのような気がした。
男達の視線だけで僕を殺せそうだ。
何もしないよ。ダンス教えるだけだよ。
そう言っても無駄なのが分かるくらいの殺意を感じる。
「ユリア。知らない男の家に軽々しく行くものではないわ。どんな男も、心に狼を飼っているものよ。私やレオナのように強いならまだしも、貴女はか弱いのよ」
「ユナちゃん」
流石に黙っていられなかったのか、ユナがそう言ってきた。
うん、気持ちはとてもよく分かる。
僕もレオナとして近くに居て、知らない男に対してユリアがそんな事言ってたら僕だって止める。
「それじゃ、ユナちゃんも一緒にどう? 姫咲君、本当に上手なんだよ」
「ユリアがそこまで言う程のものなの?」
「うん!」
「ふぅん……」
あの、ユリア? ユナにまで僕の踊り見せたら……その、ユナにバレる可能性が高くなる気がするんですけど?
そういった視線でユリアを見ても、ニコっと笑うだけだった。
ダメだ、伝わらない。
きっと善意100%でユナに勧めている。
そこに悪意が無い分、困る。
「残念だけど、私は暇ではないの。レオナに負けない為に、私は私でトレーニングを重ねたいもの。その為の時間はいくらあっても足りないわ。他の有象無象なんていくらでも勝てるけれど、レオナはそうでないのは、一緒にトレーニングをする事で身に染みて感じているわ」
「ユナちゃん……」
うう、ユナが僕、じゃなくて私の事を褒めてくれる度に罪悪感に襲われる。
「……とはいえ、ユリアもあのレオナが認めて加えた大事な『スターナイツ』の仲間。その仲間の為に使う時間ならば、割いても構わないわ。良いでしょう、今日はこの私も付き合いましょう」
「ユナちゃん……! うん! ありがとう!」
ええぇぇ。僕の意志は何一つ関係なく、二人が僕の家に来る事になってしまった。
急いで美香と姉さんにこの事をメールで送っておいたけど……どうなるの、これ。




