1話.アイドルグループ『スターナイツ』で活動してます
アイドルものが書きたくて始めました。
今回はTSではなく男の娘です。
頭を空っぽにして読んでくださいね。
一応恋愛要素ありですけど、ドロドロした関係にはなりませんので、お気軽に。
「「「「「ギャァァァァァッ!! レオナちゃーん!!」」」」」
「この割れんばかりの歓声が聞こえるでしょうか!」
「「「「「ユリアちゃーーーんっ!!」」」」」
「本日のメインイベントッ! 『スターナイツ』のメンバーが来てくれましたっ!」
「「「「「ユナ様ぁぁぁぁっ!! 踏んでぇぇぇぇっ!!」」」」」
テレビでは昨日の事が今放映されている。
「お姉ちゃ……コホン、お兄ちゃんしょうゆとってー」
「はいはい」
僕の名前は姫咲 拓都。
私立鶴見川高等学校の二年生だ。
「ありがとー! にしても『スターナイツ』大人気だよね。この間もシングル一位でミリオンセラー達成、これでトリプルミリオンだよね?」
「そう、だったかな?」
凄いのは作詞作曲を担当してくれている渋谷さんだと思う。
「もうお兄ちゃん、自分の事でしょ!」
「美香、障子に耳あり壁に目ありだぞ」
「それを言うなら壁に耳あり障子に目ありでしょ。大丈夫だよ、誰もお兄ちゃんがあのレオナだなんて思わないから」
僕は自分で言うなと思うけど、超人気アイドルグループのセンター、……星美レオナなのである。
話せば長いのだが、事の起こりは二年前だった。
「タクト、アイドルやってみない?」
「嫌だ」
「決まりね」
「嫌だって言ったよね!?」
「姉さんの目に狂いはないから」
「人の話を聞いて!?」
「それじゃ一年。一年やってみてダメだったら辞めて良いから。ね? 騙されたと思ってやってみて? ね?」
一年という期間限定のアイドル。
最初は路上で歌とダンスを披露するだけだったのに。
それからSNSで話題になり、あれよあれよとテレビに出演するようになり、気付けばCDを販売する事になって、色々なステージに呼ばれるようにまでなっていた。
問題なのは、俺が男としてではなく、女性として活動している事だ。
いやね、僕も素顔を出したくないと言ったけど。
だからって女の子としてデビューするとか思わないじゃないか。
まぁ、姉さんは元から女の子として成功すると見ていたそうだけど。
男なのに細いというかガリガリで、童顔というか中性的な顔。
声はのどぼとけすら出ていないし、ソプラノ声だ。
でも、男だ。
世間の人達の目は肥えているし、女装した男なんて一発でバレると思っていたんだけど。
……今までバレていないという不具合。
いやね、僕は人前で決して喋らない、ファンサービスもしない、握手会とかもやらないという、クールビューティーを地でいくスタイルにしてきた。
だってどこでバレるか分からないから。
それが人気を加速させる事になるとか予想できる?
喋らない事をクールに。
ファンサービスをしない事を孤高に。
握手会をしない事を媚びないと。
何故か良い方向にとらえていくファンの皆。
『スターナイツ』の他メンバーの二人は僕とは違う路線をいくキャラ付けをしている。
明るく元気で、この子がリーダーで良いでしょって今でも思っている御剣ユリア。
女王様気質で、メリハリがハッキリしている水鏡ユナ。
この二人と僕を含めた三人が、『スターナイツ』のメンバーだ。
「ねぇお兄ちゃん。明日は土曜日だし、レオナお姉ちゃんの姿で買い物付き合ってよー」
「アホな事を言うんじゃない。困るのは僕じゃなくて美香だぞ?」
「レオナお姉ちゃんと一緒に居られるなら、それくらいの障害乗り越えて見せるよ!」
「そのやる気をもっと別の事に向けなさい」
「むぅ……お兄ちゃんのいじわる」
悲しい事に、このマイシスターは星美レオナの大ファンなのだ。
実の妹に女装姿のファンを持つ兄の気持ち、分かる人居るだろうか。
この妹は見た目が親譲りで良く、高校生になったばかりにも拘らず抜群の色気を醸し出している、らしい。(友人談)
髪は一つにまとめたポニーテールで茶髪なのだが、別に染めているわけではなく地毛だ。
僕は黒髪なのだが、それは母が黒髪で、父が茶髪なので遺伝なのは間違いない。
「さっさと食え美香。遅れたら置いてくぞ」
「あ、待ってよお兄ちゃん!」
テレビを消し、学校へ行く準備を済ませる。
両親は昨日から帰っていない。
アイドル活動を全面的に手伝ってくれている為、忙しくしているのだろう。
僕は歌と踊りの練習以外、アイドルらしい事は何もしていない為、比較的自由にさせてもらっている。
それでも収入がとんでもないせいで、お金はすでに一生働かなくても良いくらい稼げてしまったので、今すぐにでもこんなアイドル活動辞めても良いのだけど。
「何言ってるのレオナちゃん。貴女が今アイドルを辞めるなんて、私が許しても世界が許さないわよ?」
「姉さん、期間限定って言ったじゃないか……」
「いい、レオナちゃん。それはそれ、これはこれ」
「いや良くないからね!?」
「一緒に頑張ってきたユリアちゃんとユナちゃんを見捨てるの?」
「そんなつもりはないけどさぁ……」
あの二人は、僕が女性ではないと薄々気付いていると思う。
他の人よりもずっと一緒に居る時間が長いし、むしろ気付いていない方が不自然だ。
だというのに、何も言わずに仲良くしてくれている。
そんな二人に感謝こそすれ、嫌な思いをさせたくない。
「だからもう少しだけ頑張りましょ? ね、レオナちゃん」
「くっ……姉さん、覚えてろよ」
「あぁん、レオナちゃんにそんな風に言われるの嬉しいぃん!」
「……」
厄介な事に、この姉は星美レオナのガチファンなのである。(重めの)
僕とレオナの区別をちゃんとつけているけど、レオナの姿だと割とスキンシップが激しいのが困りものだ。
「お兄ちゃん、準備できたよ! 行こっ!」
「ん、了解。それじゃ行ってきます」
「行ってきまーす!」
家には他に誰も居ないけど、僕も美香も行ってきますと言う。
まぁ、癖みたいなものだね。
それから学校へと歩いて五分程経った頃に、肩に衝撃が走った。
「よぉタクト! おはようさん!」
「おはよう。朝から元気だね博人は」
「おう! 昨日の信号機のライブ見て、元気もらったからな!」
「はは、そっか」
こいつは幼馴染の立川博人。
幼稚園から始まり、小学校、中学校、そして高校まで同じという腐れ縁だ。
クラスのムードメーカー的な存在なのに、いつも僕の事を気に掛けてくれる優しい奴で、僕も全幅の信頼を置いている。
僕と違って同じクラスの彼女も居るし、クラス公認の仲である。
ちなみに信号機とは、金髪の星美レオナ、赤髪の御剣ユリア、青髪の水鏡ユナからそう呼ばれる、『スターナイツ』の俗称だ。
男の集まりでそう呼ぶだけで、別に世間全体がそう呼んでるわけじゃない。
「信号機言うなひろ君。おはよーございます」
「ははっ、ごめんごめん。みーちゃんも相変わらず可愛いな!」
「はいはい、それは彼女さんに言ってあげてくださいねー」
「はははっ! 勿論毎日言ってるさ!」
「ひろ君はいつか後ろから刺されるかもしれないね」
「その時はタクトが看取ってくれるさ!」
「骨を拾うのではなく?」
「そうとも言う」
「いやまったく意味が違うよ……ホント二人は揃って……」
なんて会話をしながら、学校への道を歩く。
この三人で歩くのはいつもの事。
今日もまた、いつものようにクラスで退屈な授業を受ける……と思っていたのだけど。
本日は3話投稿予定です。
続きは20時頃に投降しますね。