3話
「神庭、奇遇だなこんな所で」
吉野は何事もなかったかのように振る舞うが、バレバレだと思う。
「えっと君は隣のクラスの……吉野くん? なんでここに」
「偶然だよ偶然! スケッチに来たんだ俺たち」
「あ……」
俺に気付いた千春は、目を伏せた。
「久しぶりだな千春。お前、あんな可愛い子振るなんてどうかしてるぜ。もったいない」
吉野が唖然としている。だって本当のことなのに。
「白崎くんには関係ないでしょ。もったいないとか、そんな言い方八木さんに失礼だよ。大体盗み聞きなんてタチ悪い。本当、無神経な所変わらないね」
千春が言い返すと思わなかった俺は、思わず面食らった。吉野が俺と千春を交互に見て慌てふためいている。落ち着けよ。
「出ていくタイミングを逃しただけだ。好きで聞いていたわけじゃない」
「そ、そうそう。わざとじゃないんだ神庭。俺が謝るから大目にみてくれないか」
「吉野くんは、白崎くんと仲いいんだね」
「え? ああ、まあそこそこ?」
「二人でここに来ちゃうくらいに?」
やけに突っかかってくるな。
「おい千春、自分だって八木と来たじゃないか。何ピリピリしてるんだよ」
「白崎ー! 頼むから穏便にいこうよ」
吉野が声を潜めて言った。お前、そんなビビリだったっけ。
「白崎くんは僕のこと嫌いでしょ」
「昔はな。今は別に何とも思ってない。関心ないんだ」
吉野が口を金魚みたいにパクパクさせている。前世は金魚だったんだろうか。
「そっか。僕は白崎くんのこと大嫌いだよ」
「そうか」
そして千春は静かにその場からいなくなった。
「おい白崎! お前感情がないのか? サイコ野郎か?」
「そんなことないさ。失礼だな」
「関心ないとか面と向かって言わないだろ普通」
「あいつなんか大嫌いって言ったぞ」
「あれはもう積もり積もってる感じだったよ! お前のはなんか、マジで感情がない。神庭に同情する」
「それはさておき邪魔者が消えて良かったな。さあ描くぞ」
「なんかもう怖いお前」
今思えば、千春からかなりの恨みを買っていたのかもしれない。呪いとしか思えない。
次の朝俺は、女になっていた。