2話
土曜日。俺は吉野と二人で公園にやってきた。
「なあ白崎。どうしてお前と夜桜を見なきゃならないんだ」
「悪い悪い。夜桜のが綺麗かなあと思って」
「だとしてもこの人混みじゃスケッチも何もないだろ! 暗いし!」
「まあまあ、裏手の方に穴場があるんだって。意外と明るいから真っ暗じゃないし。多分誰もいないと思うよ」
ぶつぶつ文句を言いながらも吉野は俺の後ろをついてきた。
公園の裏山を少し上った先の、公園が一望できるスポット。整備されていないため多少荒れてはいるが、ライトアップされた桜がよく見える。
「おお……本当に誰もいない……やるな白崎!」
「だろー? さて、折り畳み椅子を……ん?」
よく見ると先客がいる。暗くてよく見えない。
「ひどいよ神庭くん! なんでダメなの?」
「ごめん、ごめんね八木さん。君のことは好きだよ。でも、恋愛的な意味じゃないんだ」
おいおい。これは修羅場じゃないか?
「ちょっと、隠れようぜ吉野」
「え? なんで」
「なんか、痴話喧嘩みたいなのが起きてる」
「は?」
「しーっ、声でかい」
茂みに二人で隠れる。俺はハートが強い方だと思っていたが、出ていける空気じゃなかった。
完全に千春と八木だな。なんでここにいる。
穴場だったのに。
「っ……だったらなんで! こんな所まで連れてきたのよ! 勘違いするでしょ?」
「それは、八木さんが花見をしながら人気のない場所で話したいっていうから……」
「普通わかるでしょ! 誘ってオッケーなら脈ありかなって思っちゃうでしょ!? ……もういい」
「待って、一人で歩いたら危ないよ」
「ばか! 優しくしないで」
転びそうになる八木を千春が抱き止める。赤面する八木。俺は何を見せられているのか。
「神庭くん……本当に、私じゃダメなの……?」
八木が声を震わせ千春を見上げる。
遠目でも最高に可愛い。なんで相手が俺じゃないんだ。これで断るなら神経を疑う。
「ごめん……」
馬鹿か千春。
「……もういいよ。諦めるから。でも、1つだけ教えて」
「なに?」
「神庭くんて、その、女の子に興味なかったりする……?」
流石に千春も驚いて、目を見開いた。
「そんなことないよ。どうして?」
「だって、しょっちゅう告られてるのに、誰とも付き合わないし……」
「あんまり、彼女ほしいとか思わなくて」
「そうなんだ……。これからはマネージャーとしてちゃんと仕事するから。ごめんね」
八木は振り返ることなく走り去っていった。
「なあ、もういい? 今来たみたいに出ていけばいいじゃん。足痛い」
小声で吉野が囁く。
「それもそうだな」
深く考えずに返事をした。
「いいか? 自然に出るぞ」
そっと茂みから出ていこうとしたが、思い切りガサっと音がした。