魔王様、なぜ封印を解こうとするの?
「なぜだ――」
なぜだですと……。
「いやいや、むしろそれはこちらのセリフでございましょう」
意味不明なことをおっしゃる。
「グヌヌヌヌ」
「グヌヌヌヌではございません」
それこそこちらのセリフです。
高い天井と縦に長すぎる窓。大きいのに小さく見えるシャンデリアと奇怪な天井の絵。ナンセンスとしか言いようがないが、魔王様のセンスではない。
昔はナウでヤングだったのだろう。
魔王城玉座の間には普段通り魔王様の声が響き渡る。普段と違うところといえば……いつもは片隅に置かれていた女神の石像のオブジェが、今日は中央に置かれている。
これが今回の揉め事の種だ。女神の像など、本来は魔王城にとって禍々しい存在だ。月とスッポン。いや、猿と犬だ。
「魔王様は、魔王なのですよ」
魔族の王なのですぞ。悪者の王であり、女神とは敵対する立場の筈でございます。
「それくらい知っておるわ!」
「本当かなあ……疑いたくなってしまうぞ」
目を細めてみせる……私には首から上は無いのだが。
「デュラハンよ、卿こそ、予を魔王と思っておらぬのではないのか」
「御冗談を」
魔王様は正真正銘魔王様にございます。やることなすこと、しっかり魔王様です。
「たとえ、どんなに大きくなってもメダカはメダカ~♪ と同じでございます」
魔王様は魔王様~♪ 冷や汗が出る古過ぎて。
「……」
――封印とは、いずれは誰かが解くためにかけられたもの――。
「RPGで封印された扉とかモンスターとかって、どこかで必ず解かれたりするであろう」
RPGって唐突に言わないでほしいぞ。せめて「剣と魔法の世界」とか「ケンマホ」と濁してほしいぞ。
「言われてみれば……たしかにそうですね」
もし封印された扉や魔物がそのままでエンディングを迎えれば……。
「興醒めぞよ。プログラマーの一人笑いぞよ」
プログラマーって……なんだ。一流のグラマーな貴婦人のことか。
「封印の奥に何かあると思わせておいて、何も無かったって結末。プレイヤーが怒り狂うこと間違いないです」
それはそれで新種の「どんでん返し」なのかもしれない。流行るかもしれない。流行って欲しいとは思わないが。
「昔は□マサガとかによくあったぞよ。絶対に入れない扉とか城とか」
「おやめください」
□マサガって……冷や汗が出る。リメイクとかされて改善されていそうで。
「昔の大魔法使いが研究を重ねて編み出した『禁呪文』もそうではないか。使っちゃいけないとか言いながら、ちゃっかり古文書に書き示しておる」
それなー。使うととんでもないことが起こる魔法を、なぜこの世から消し去らないのか疑問に思うぞ。
「古文書がずっと魔王城の図書室に置いてあるぞよ。誰も読まぬが」
図書室の誰も読まない本……たしかに多過ぎる。
「そうですね。魔王城の図書室……最近は漫画ばかりですから」
頭が痛いぞ。これでいいのか魔王城は。いや、魔王軍は。レベル1のスライム向けの絵本や漫画が本棚にたくさん並んでいる~! 「ネズミ君の○ョッキ」や「とりかえ○こ」や「もこもこもこもこ」などたくさん……。
「そもそも、使っちゃいけない禁呪文なら書き記さずに葬り去ればよいのだ」
玉座の肘置きをバシッと叩いて怒りを露わにする意味がよく分からない……。平和主義者めと言いたくなる。言わないけれど。
「せっかく創りだしたから、こっそり自分が生きた証として残しておきたいのでしょう」
生きた証というか、自慢……みたいな。みんなの役に立つ「特許」とはちょっと違う。はた迷惑な禁呪文が多過ぎる。
「さよう。そして後世で誰かに乱用され、とんでもないことが起こってザマアみたいな」
「おやめください。ザマアって言わないでください」
未来が今よりも不幸になれと願う者など……魔法使いの風上にもおけないぞ。
いや、そもそも魔法使いって陰険キャラだったり一生独身だったりローブが臭ったり……風上には置けないのかもしれない。悪いことばかり考えているのかもしれない。
以前、魔王様が詠唱された禁呪文、『落ちろ隕石☆ゴートゥー涅槃!』など、星をも滅ぼすバカ丸出し禁呪文ではないか……。
「あのようなバカ丸出しの禁呪文を考えだした魔法使いと、その危険性を知らずに使う魔法使いに大きな声で、『アホ!』と言ってやりたいです」
「そうそう! その通りぞよ!」
魔王様が笑顔で共感してお笑いになるのだが……半分はあんたのことなんよ?
「アホ!」
「……」
少し、スッとした。玉座の間に罵声がこだまするのが心地良い。
「核兵器や化学兵器も禁呪文と同じぞよ」
核兵器や化学兵器――!
「街やビルが破壊される前に……世界観が壊れます――」
剣と魔法の世界に核や化学兵器は危険です。ビルもございません。魔王城は四階建ての洋館でエレベーターはありません。
「禁断の兵器を作り廃棄せずに持ち続けるということは、いずれは誰かが封印を解くのを待っておるのだ」
悪い顔をしてみせる魔王様にヒヤリとする。
「……禁呪文と同じということですか」
「さよう。禁呪文や封印された力、さらにはそれらを面白おかしく多用する物語や書物やアプリは、いずれ封印を解こうとする者を助長しておるのだ」
さらりとアプリと言ったぞ。
「……さすが魔王様」
すべてを悟っていらっしゃる。私などは考えもつかない一歩も二歩も先のことを考えていらしている。
「ですが魔王様、そこまでお分かりであれば、なぜ故に……、
――石化した女神像の封印を解こうとするのでございますか――」
魔王様は玉座の間に置かれた禍々しい女神の石像の封印を解くと言い出したのだ。今日はそのことで揉め事が勃発したのだ。
魔王様には封印を解かなくてはならない正当な理由がおありなのでしょうか――。
「男二人の会話では、もはやPVが限界……」
――ちょ待って、ちょ待って~!
「PVって、なんですか」
冷や汗が出るが聞いてみる。
「ページビューの略……」
「おやめください」
そんな目的のために封印を解くなど、言語道断でございます――!
インスタ映えを狙って核ミサイルを使おうとする輩のようです――!
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