ツーリング
四月二十八日、二十一回目の診察、治療。俺はリクライニングシートではなく、診察室の丸椅子に座り、薫子先生の前にはデスクとパソコンがあった。催眠療法は行き詰っていた。俺は先日の扉峠のこと、事故の推定原因、ハンバーグレストラン休業のことを話した。
「そうですか、現場をバイクで走っても思い出せませんか・・」
「ええ、駄目でした」
「すみませんね。安易にバイクに乗ったら思い出す、なんて言って」
「いいんです。久し振りにカワサキに乗って楽しかったし。判ったこともある」
「単独事故だってこと?」
俺は首を振った。
「バイクが好きだってこと」
薫子先生は静かに微笑んだ。
「明日からのゴールデンウィーク、三、四、五はキャンプしてきます」
二日と六日、有給は取れなかった。まだほとぼりは冷めていないらしい。
「何処です?」
「蓼科。思い出すまで、もう少し通って見ます、長野」
「そうね。いいと思います。キャンプ場の場所、教えて頂けます?」
え?
「私も行きます。プライベートですが、治療に役立つかも知れません。それに・・・」
「それに?」
「私もキャンツー派なんですよ」
俺はスマホを取り出し、住所と番号を教えた。しかしこんな直前で取れるのかな?
「それからペンションの場所と電話番号も」
「ペンションの方が無理でしょ。もう一杯ですよ。たぶん」
「山崎さん。お忘れですか? 石崎涼子さんという女性は、そのペンションで働いていたんですよ?」
ああ、そうか。うっかりしてた。ペンションという手掛かりがまだあった。
診察を終え病院を出ると、俺はペンションに電話をした。愛想のいい、元気なおばさんが電話に出た。
「山崎さん? どちらの? 東京は足立区の、オートバイの?」
「あ、あの、去年の八月、バイクで事故って泊まれなかった、山崎です」
「あー。あの、バイク事故の山崎さん?」
やっぱり修飾語としてはいい響きではない。
「はいはい、どうしました? またご予約ですか?」
「いいえ、あ、あの。一昨年の夏、そちらで石崎涼子という大学生がアルバイトしてましたよね?」
「え? 石崎さん? ああ。石崎さんなら去年もお願いしましたよ?」
去年も?それはいつだ?俺は八月の頭にそこに居るはずだった。
「去年も?ですか?それはいつからいつまでの話です?」
「・・・貴方、石崎さんのお知り合い?」
「いや知り合いというか、何というか」
「どんな関係?」
「それが知りたくて、ですね」
「いやねえ。いたずらなの?お教えできません!」
切れてしまった。失敗した。話の持って行き方が悪かったのだ。ちくしょう。自分に悪態をついた。
仕事が終わると、見覚えのない番号から着信があった。薫子先生から、二十時過ぎにもう一度電話します、とメッセージが残されていた。そして二十時ちょうどに電話が鳴った。
「山崎さん。総合病院心療内科の田村です」
「薫子先生ですね。ちょうど良かった。私も話したいことがあったんです」
「何でしょう?」
「あ、先にすみません。今日、ペンションに電話をしたのです。涼子ちゃんは一昨年の夏だけでなく、去年の夏もアルバイトしていたらしいんです」
「あら」
「もしかしたら私が泊まる予定だった日は、彼女もペンションに居たのかも知れません」
「裏付けは取れましたか?」
「それが、私と涼子ちゃんの関係を聞かれて、教えてもらえませんでした」
「・・・今は個人情報の管理はうるさいですから。住所や電話番号は勿論、根掘り葉掘り聞かれても教えてもらえないかも知れませんね」
「ええ。でも来週はあっちにいるので、直に頼みに行ってみます」
「そのことで。キャンプ場の予約は取れませんでしたが、運よくペンションの予約は取れました。聞き取りをするのでしたら私も同席した方が良いでしょう」
運がいい。
「助かります。電話のご用件はそのことでしたか」
「もう一つ。キャンプ場集合ができなくなったのと、ペンションの場所は解り難そうなので、ナビゲーターをお願いできないかと思いまして、そのお願いです」
「全然構いません。一緒に行きましょう。待ち合わせは、・・・そうですね。中央は高井戸から入って、三鷹の料金所、ゲートを越えてすぐ左でどうですか?」
「どうせなら練馬から関越で藤岡、上信越で佐久まで行って回り込みましょう。いかがです?」
うわ。この人、相当走り込んでるな。わざわざ遠回りルートを選んでる。面白い。
「オーケーです。となると三芳パーキング、かな?」
「はい。三芳で。九時にしましょうか」
「了解です」
五月三日。快晴。パーキングは混んでいたがバイクを停める場所はありそうだった。係員に誘導され、指示された場所にカワサキを止める。午前八時八分。ちょっと早く着き過ぎた。なんだか気が焦ってしまい、予定より早く自宅を出たのだから当たり前だ。
俺はトイレで用を足すとパーキングを眺めた。バイクを停めているのはこちら側だけのようだ。これなら見逃すことはないだろう。停まっているバイクを確認し、出ていくバイク、入って来るバイクを眺めていた。
八時半、頭のてっぺんが熱い。俺は荷物からキャップを取り出し、それを被って日陰へと移動した。先生が来るにはもう少し時間が掛かるだろう。その時、バイクの団体が入って来た。ハーレー軍団だ。どうもハーレーが趣味の連中は集団行動が好きみたいだ、そう思うのは俺の偏見だろうか。軍団の最後尾はブルーのGSX250Rと銀色のアルミタンクのバイクだった。なんだろう。誘導員に指示されて団体が車のスペースを陣取った。少し離れてブルーと銀色が停まった。一緒に入って来たものの、軍団ではないようだ。あのGSXが薫子先生のだろうか。荷物は少ない。
確認のために近づくと、銀色の正体が判った。セパハン、アルミタンク、シングルシートにバックステップ。エンジンのフィンが主張する、シンプルな空冷。大きめのオイルクーラ。シングルシリンダから突き出たマフラーはとてもノーマルとはほど遠い。ブレーキもホースからディスクまでガッツリ強化されている。こいつは、SRはSRでもSRレーサーだ。
「おはようございます。早かったのですね?私たちが先かと思ってました」
薫子先生は、モスグリーンフライトジャケットにカーキー色のカーゴパンツ。足はワークブーツ。ワイルドで白衣とは違った魅力だ。そしてもう一人。
「おはようございます。久し振りですね山崎さん」
香子先生は青と赤の革ツナギ。肩肘膝は勿論、脊髄パットも入った、まんまレーサースタイルだ。
「薫子から聞いていませんでした?」
「SRに乗っているとは聞いていましたが・・・。まさかレーサーとは」
「これでツクバやモテギのレースにも出てるんですよ」
マジか。
「一息入れて下さい。出発は九時で」
二人は頷いてヘルメットを脱いだ。爽やかな髪の香り。俺はノックアウト寸前だった。
「次の休憩は上里?甘楽?」
「甘楽にしましょう。先、出ますか?」
「私、香子先生の後ろにつきます。お尻見て走りたい」
「いやー、もう! セクハラですよ」
二人は見た目と違って、高速道路走行はただのクルージングだった。二人の巡航速度は時速九十キロ程度、俺には眠くなる速度だ。でも、これが普通なのだ。バイク屋の定例会に馴染むと、普通という感覚が別のものと入れ替わる。俺は自分に、普通という感覚が残っていることに感謝した。
休憩を挟んで佐久に着くと、出口からすぐのスタンドでガスを入れ、ルートを確認した。普通なら国道の141号を南下し、299号メルヘン街道を使うところだが。二人は蓼科スカイラインを選んだ。
狭いワインディングを二人はカッ飛んで行く。レース用にチューニングを施したマシンと言うのは、シングルの400ccと言えどもこんなに速いものなのか?いや彼女の腕もあるのだろう。正直びっくりした。そして。SRレーサーについて行くGSX。非力なはずの軽量マシンは、やはり、キレている。そのとき初めて、GSXもチューンされたマシンだということに気が付いた。わざとノーマルっぽく見せているなんて。でも、俺のカワサキも負けてはいない。元々のポテンシャルはNinja400の方が上だし、オヤジさんの手が入ったファインチューニングエンジンは、以前とは高回転での伸びが違う。そしてハイグリップタイヤ。多少の悪路でも滑る気がしない。俺たちは一気に白樺湖まで走り切った。
「まだお昼には早いわね。諏訪まで抜けちゃいましょう」
県道の40号に乗り換え、霧ヶ峰経由で諏訪市。そこで昼食を取って茅野市。今度はメルヘン街道で北上。佐久まで往復だ。だが八千穂で大渋滞にはまってしまい、途中で引き返して来た。返りの道はロケーションポイントで写真を撮りながら、ペースダウンして走った。そしてペンションに着くと、二人はチェックインせずにこう言った。
「ありがとうございます。これで場所は解ったわ。次はキャンプ場に連れて行って下さい」
「え?」
「今夜晩御飯を頂いたら、そっちに行くわ。私、焚火がしたいの」
薫子先生はキャンツー派だっけ。今日の走りですっかりイメージが壊れた。キャンプ場まではここからはバイクでなら十五分も掛からない。俺は二人をキャンプ場に案内し、受付を済ませた。
「じゃあ、七時くらいにまた来ますね」
その言葉と白煙を残して二人はアクセルを開けた。やれやれ、凄い先生たちだ。そう呟くとテントを設営し、荷物を放り込んで茅野市の方に向かった。温泉は途中にあるが、食料品の調達が近場にないの、難点だ。さっさとしないと七時なんてあっという間にやって来る。俺はアクセルを開けた。
小さな焚火台を囲んで、小さな声で俺たちは話し合った。前に話してくれた通り、俺の治療の進展については情報を共有してくれている。つまり、香子先生も俺の記憶を知っているってことだ。
「じゃあ、ペンションのご主人とは?」
「今日、話をしておきました。私たちは医師で、貴方の担当医だということ、貴方が事故で記憶を思い出せないでいること、思い出したことの中に石崎涼子という女性ライダーがいること。石崎さんは白いカワサキに乗っていますよね、って言ったら驚いてらっしゃいました。去年はアルバイトに白いバイクで来たそうです。それで信用していただけました」
「あとは明日、貴方がペンションに来ていただければ、事故の山崎さんと貴方が同一人物であることを理解してくれます」
「すっかり段取りして頂いて、ありがとうございます」
俺は頭を下げた。
「十時に来て下さい」
それから少しバイクの話をした。そうだ、場所は違うけどこうやって女性二人とバイクの話をしたのだ。思い出した記憶と目の前の景色がオーバーラップする。
「香子と走ると、ほんと休憩ないから」
「ないんじゃないの、少ないの」
「もっとゆっくり走ってさ。今日だって、いい景色の場所沢山あったのに、結構素通りしてたよ?」
「止まってないだけでちゃんと見てるわ」
「写真も撮ろうよ」
「後半は撮ったじゃない」
俺は笑った。二人とも仲良いんですね。嫌味じゃなく本音だった。
「一卵性双生児だと考えてることも結構判るんですよ。それに同じ環境で育っているからいつも一緒でしょ? 強いていれば趣味が違うくらいで」
「バイクが趣味じゃないんですか?」
「香子はレースでバリバリ、私はキャンプでのんびり。そのくらいかなあ」
いや、貴女ものんびりとは走っていないから。
「私もキャンプは嫌いじゃないんですよ。原体験は家族で行ったキャンプだから。楽しい思い出もあるし・・。でも焚火。服が焚火臭くなるのがどうも苦手で」
「私も匂いはアレだけど。やっぱり焚火の揺れる炎を見てると心が和むわ。好きだなあ」
「今日は折角ペンションに泊まるのに、薫子のおかげで焚火臭いよ」
あれ? 笑いながら何か記憶に引っ掛かった。焚火の匂い、ペンション。ペンションに泊まれば焚火の匂いは服に移らない、か。なんだろう。何か。俺は二人に話してみた。二人は瞬時に医師の顔になり、真剣な面持ちでこう言った。
「やはり、昨年の夏にペンションを予約、宿泊したというのは女性か、性的パートナーとの関連があると思います」
「うん。服装、匂い、コンドーム。間違いないでしょうね」
うわあ、ゴムのことまで知ってる・・・。
「いや、私の嗜好は女性ですって。お二人ともドストライクですから」
「じゃあ、今回も避妊具持参ですか?」
「違いますって。そんな、女性とツーリング行くからって、ゴムなんて用意しませんよ」
香子先生の眼鏡の奥の瞳が光った気がした。
「山崎さんが用意したものではない、という可能性もありますね」
ますます解らなくなった。
焚火の残り火を見ながらウィスキーを飲んだ。一昨年の夏は、太一君とこうして焚火を見ながらウィスキーを飲んだんだ。パチッ、炭が弾ける。それは思い出すことができた。去年の四月までのことは思い出すことができたんだ。昨年のゴールデンウィーク中に起きたことが、記憶の再生を邪魔している。それが何なのか。俺はそれを怖がっているのだろうか? 怖がる、思い出したくない、何かを見たのか、体験をしたのか。忘れたいこと、忘れられない約束、約束? 約束ってなんだ?
「あれ? 酔ったかな」
焚火台の上で炭は小さく割れ、もうほとんど消えかけていた。これなら火消壺も要らないだろう。足元の木の枝を拾って小さな炭を突っつく。ウィスキーをもう一口。炎はもう見えない。空を見上げる。満点の星空。吐く息が白い。約束、そのワードが心に残る。誰と交わしたのか、何の約束なのか、破ってしまったのか、破られたのか。約束を反故にされたのならば、その感情は怒り、悲しみ、虚しさ、か。破ってしまった約束なら、後悔、切なさ。うーん、忘れたい感情と言えるのだろうか。約束、じゃなくて秘密、かな? 秘密にすることを約束したのかな。秘密、知られてはいけないこと、いや知ってはいけないこと、か。星が流れた。明日も晴れますように。俺はテントの中のシュラフに潜り込んだ。ジッパーを引き上げて大きなあくびを一つしたら、あっさりと眠りの底に着いた。
怖い何かに追いかけられていた。何だか解らない、ただ猛烈に怖い何か。俺は逃げ回っていた。カワサキのアクセルをひたすら開ける。カーブが迫って来る、ブレーキを掛けると停止寸前まで減速、アクセルを開けてもカワサキのエンジンはついて来ない。俺の握っているアクセルはいつの間にかSRのアクセルに変わり、こんなバイクであんなに速く走っていたのかと改めて驚く。左カーブ、めちゃくちゃ遅い。出口でアクセルを開けて体重を左から右へバイクを切り返す。ブレーキのタイミングが遅れてハードになる。タイヤが滑って崖が迫る。落ちるっ!
「わあ!」
目が覚めた、テントの中。俺は目頭を押さえた。死という恐怖。死神とでも走っていたというのだろうか。テントの外に出ると、朝露で全てのものが濡れていた。そして朝の光で輝いていた。美しい景色だけど朝露は二時間もしないうちに消えてしまう。儚いな。ふとそう思った。
午前十時少し過ぎた時間にペンションに着いた。駐車場にはSUVや軽ワゴン、ツーシータのスポーツカーが並び、その中にGSXとSRがあった。テラスで美人の双子姉妹が紅茶を飲んでいる。パステルカラーの春物のジャケットとロングスカート。色違いコーデで、ここからではどっちがどっちだか判らない。ペンションのドアを開けると、たぶんオーナー夫妻であろう初老の夫婦が出迎えてくれた。見覚えはない。
「山崎瞬一です」
「ああ、そうだね。山崎さんだ」
そう言ってテラスに案内してくれた。おばさんは、ようこそ、いらっしゃい、そう言うとキッチンに入って行った。彼らは俺のことを覚えていてくれたのだ。嬉しい。
「おはようございます」
テラスでは田村先生たちが二人同時にハモって言うもんだから、俺はおはようございますと一人ひとりに二回言った。皆が笑った。
テーブルに並べられた紅茶、真ん中にクッキー。
「どうやらこのお二人の言う事は本当のようですね」
「ええ。私は本当に記憶を無くしているのです」
「石崎さんのことで他に覚えていることは?」
「信州大の学生で、青森の津軽出身。お兄さんがいて、彼は今、海外ボランティアに出ているはずです」
「ふむ」
彼はしばらく考え込むと、しかしこう言った。
「山崎さん、田村先生。しかし私としては、石崎さんの住所や電話番号をお教えするわけにはいきません。どうでしょう? 一度私から彼女に電話を入れて、彼女の同意が得られたら取り次ぐ、というのは」
仕方がないと思われた。自分でもそうするはずだ。香子先生と薫子先生の顔を見て、それで結構です、お願いしますと言った。彼は一旦中に入って電話の子機とノートを手に戻って来た。少し離れたところに座ると、ノートを見ながら電話機のボタンを押す。コール音だけが響き、しかし繋がらなかった。また後で掛け直してみましょう。そう言って電話をテーブルに置いた。
しばらく香子先生と薫子先生がオーナー夫妻に代わるがわる質問をした。俺がチェックインした日、誰か訪ねて来なかったか、問い合わせの電話はなかったか。
「前も同じ質問をされたけど、誰も来なかったし、電話も取り次いだ覚えはありません。気になったのはいらした時に、二度目ですからって、おっしゃってたのと。それから・・・」
「それから?」
「そう、夕食後に出掛けましたね。夕べの貴女たちのように」
「帰って来たときの様子は?」
「さあ、どうだったか。見ていないと思いますが。いつお戻りになったかはっきりしませんし」
短いあごひげを触りながら一つひとつ思い出しているようだった。
「翌朝は朝食を取られてすぐに出掛けられましたが、えらく張り切っているというか、ハイテンションというか、そんな感じでしたかねえ」
「あの、石崎さんは、去年はいつからアルバイトを?」
「七月中は就活だって言って、八月の二日から来てもらいました。四日に一度休日のシフトで月末まで」
「お紅茶、お代わりいかがですか?」
返事を待たずにおばさんがポットを引き上げて行く、そのタイミングでもう一度掛けてみましょうと電話機をオーナーが持ち上げた。リダイヤル。今度は繋がった。
「あ、石崎さんですか?蓼科ロッジの奥村です。久し振りですねえ、お元気でしたか?・・・そうですか。今年は四年生でしょう?夏のアルバイト、今年は来てくれるのかと思ってね。・・・ええ、じゃあ考えといて下さい。ところでね」
こっちを見て
「山崎瞬一さんという方をご存じですか?・・・え? 知っている? そうですか、実は今ここに山崎さんがいらしていて、是非貴女と話がしたいと。・・・え? あ、ああ。・・・そうですか。山崎さんにも事情がおありのようで。・・・そうですか。いえ、そんなことはないんですが。・・・はい。解りました。じゃあ、アルバイトの件はまた連絡してくださいね。・・・はい、よろしくお願いします。ごめん下さい」
会話の途中で目のやり場に困ったのだろう、背中を向けて話していたが、電話を終えると肩を落として振り向き、こう言った。
「会いたくないそうです。話もしたくないと。・・・山崎さん、貴方、彼女に何をしたんですか? 石崎さん、怒ってましたよ」
困った。またラインが切れてしまった。