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向日葵の畑で  作者: 田代夏樹
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エピローグ

「佐橋さん。二人きり、いえ三人だけでお話があるのですが」

「いいわ、あたしも聞きたいことあるし」

山崎と涼子が向日葵畑に入るのを待って、佐橋が口を開いた。

「結局、瞬ちゃんが事故を起こした理由はなんだったの? 本当に単独事故なの? お医者様には守秘義務があるの、知っているわ。でも知りたいの。もしかしたらあたしのせい? 午前中に花束を用意しなさい、なんて言ったあたしのせい?」

「私たちは警察ではありません。事故の原因なんて実は興味がないのです。それに」

香子が言葉を引き継いだ。

「貴女のせいではありませんよ。それに、秘密にするほどのことではありません。山崎さんもご自分からネタにしているみたいですし。理由を知ったら、貴女はほっとするより、むしろがっかりすると思いますよ」

美樹は恐々と次の言葉を待った。

「・・・山崎さんは、ただ浮かれていただけです」

「はぁ?」

「自分の恋する人と実は相思相愛だと知って、それから久し振りにエッチができるかも知れないと思って、朝からはしゃぎまくっていたようです」

「・・・そんな理由?」

「そうです。本当にただの運転ミス。恋は盲目と言いますが、ブレーキポイントを見落とすほど浮かれるとは・・・」

「・・・馬鹿みたい」

「男というのはそういうものかも知れませんね」

「・・・あきれた。いつもバイクに乗る時は集中集中、って言ってたくせに」

「それより、佐橋美樹さん。貴女はどうして嘘をつかれたのですか?」

「嘘? なんのことかしら」

「私たちは医師ですよ? 骨格を見れば男性か女性かは一目瞭然です。その胸や腰はナチュラルボディ、作られたものではありません」

「あーあ。お見通しかあ」

「でもどうしてです? 嘘をつかなくても山崎さんに告白させることぐらいできたのでは?」

「どうかしらね。瞬ちゃん、そうとう鈍感よ。それにあたしの大人の色香にふらふらしてたし」

「私たちは」

香子と薫子は顔を見合わせた。

「私たちはあなた方、三角関係の強制的終了だと思っているのです」

美樹は何も言わなかった。

「貴女と石崎さんは友人関係。山崎さんはその二人にそれぞれ魅力を感じ、そして二人も山崎さんを好きになった」

「・・・あたし、旦那がいるわよ。夫のこと愛してるわ」

「そう。だから貴女はその三角関係から身を引いた。トランスジェンダーだと嘘をついてまでして、山崎さんの気持ちを自分から遠ざけた」

「もし山崎さんがそれでもいい、なんて言い出したらどうするつもりだったのですか?」

「そうね、あれは賭けだったわ。もし瞬ちゃんがそれでもいいって言ってくれたら、その時は旦那に頼むつもりだった。私も覚悟したわ」

「と同時に、ご自分の気持ちも山崎さんから隠した」

「だって・・・」

佐橋の頬を伝わる涙。

「だってしょうがないじゃない・・・」

涙は後から後からこぼれた。

「好きになっちゃったんだもの。夫も好き、愛している。でも瞬ちゃんも・・・。ねえ駄目なの? 不倫しているわけじゃない、一線を越えたわけじゃない。私の気持ち、心の中だけの思いなのに。誰に言っていない。誰にも迷惑かけていない」

香子が佐橋にハンカチを差し出した。

「佐橋さん、恋をするのは素敵なことです。ご自分の恋心を無理やり抑え込んで、若い二人の恋の成就を願った、貴女は本当に素晴らしい女性だと思います」

「でもね、ご自分のことももう少し大切にしましょう。前に言ったでしょう? いつでも相談に乗りますよ、って。貴女の胸に秘めた思い、辛いこと、なんでも聞かせて下さい、って」

「あのときから気が付いていたの?」

「私、医師ですし、女ですから」

「・・・吹っ切れるかしら?」

「・・・そうですねえ。差し当たり山崎さんのインを刺してぶち抜く、というのはどうでしょう? きっとスッキリしますよ」

「あたしにできるかしら」

「私がレクチャーしますわ。まずはウチのレーシングチームでニンジャのチューンアップを・・・」


山崎が振り向いた。

「あちらの話も済んだようですね」

「行ってみましょう」

三人は連れ添って向日葵畑の中を歩いて行った。

「きれいね、向日葵」

「涼子ちゃんと瞬ちゃん、この向日葵畑の中で出会ったんですって。ロマンチックよね」

「向日葵の花言葉、ご存じですか?」

「なんです?」

「私はあなただけを見つめています」

「わあ! 素敵」

美樹は明るい顔で言った。

「涼子ちゃんにぴったりね、明るく、眩しいくらいの素直さ。瞬ちゃんだけを見てた」

「私は石崎さんには、黄色い向日葵というより白い林檎の花を連想しますね」

「そお? ・・・ちなみに林檎の花言葉は?」

「選ばれた恋、だったかな?」

「花言葉、ではなくて。小さくて可憐、純真無垢で可愛らしいわ」

「向日葵は、むしろ佐橋さんにお似合いですよ」

「あたしがそんな風に見える?」

「ええ。天真爛漫、はつらつとしていてエネルギッシュ」

美樹はにっこり笑ってこう言った。

「ありがと。でもね、折角お友達になれたのだから、さん付けは止めてね。あたしのことは美樹ちゃんって呼んで」

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