23.三つだけの魔法(6)
ブルーナは、わたしの指定した三つの作業を見事にクリアした。ほめたら怒られた。
「やってみてどうだった?」
わたしは思わずにやにやして聞いた。
「やることに迷わなかったわ」
ブルーナは悔しそうに顔をゆがめている。そのため、人相がとても悪いのだが、それがまた可愛らしく思えた。
「いつもは、あれもこれもやらなきゃって頭がいっぱいいっぱいだったのだけれど、三つだけに絞ったら、目の前のことを終わらせればいいだけだからとても捗ったの」
「三っていうのはね、魔法の数字なんだって?」
「魔法の?」
ブルーナがきょとんとする。
「人が覚えやすくて、忘れない。頭に残る魔法の数字だよ。
それにね、三時までって時間を限定したでしょ?それも効果的なんだよ。急ごうと思うから、自然と動きが早くなるの」
「ふうん」
ブルーナは、興味深そうに言った。
「それじゃあ、仕事に戻ろうか。あとは発注表の整理がまだ残ってたと思うし」
わたしが立ち上がると、ブルーナがエプロンの裾を掴んだ。
「わ、わたくしにかかればこの程度余裕だけれど、あなたがどうしてもと言うなら、夜に訪ねてあげてもいいわ。領地で採れた果物が余っているから特別に」
わたしは彼女を抱きしめ、ブルーナはまた悲鳴をあげてじたばたと動いた。
赤侍女の執務室に戻ると、ちょうど第二王子のジェムリヒトが出てきたところだった。
ブルーナは先ほどまでぷりぷりと怒っていたのだが、さっと表情を取り繕い、淑女の礼をする。その変わり身の早さに感心しながら、わたしも続けた。
ジェムリヒト王子は、わたしたちに声をかけることなどなく、すたすたと通り過ぎて行った。
「あら、早いお戻りね」
赤侍女長が妖艶に笑った。ブルーナがぴしりと固まる。
わたしたちは提出物を渡し、終えた仕事の報告をした。
「ブルーナ」
赤侍女長が呼ぶと、彼女はわかりやすくぴしりと固まった。それを見て赤侍女長は呆れたように片眉を下げる。
だが、今日出てきたのは、叱責の言葉ではなかった。
「今日の仕事の成果は上々ね」
ブルーナははっと目を丸くした。
みるみる涙が滲んだが、それをこぼすことはなかった。
「互いによく学べたのではないかしら。自分との仕事の違いについてと、それを踏まえてこれからどう行動していきたいか。
明日中に報告書を提出して頂戴」
侍女長はそう言うと、私たち二人に笑いかけたのだった。
その夜、わたしは生まれてはじめての、友だちとのパジャマパーティーを楽しんだ。




