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14.森乙女の祭り(1)

「ララちゃん。奇遇だね。仕事中?」


 深山さんは、にこにこして言った。ーー眩しい。わたしは思わず目を細める。


「今ちょうど終わったところです。きょうは買い出しを頼まれていて......」


 わたしが答えると、深山さんは手元を覗き込み、メモを奪った。


「うわぁ、大量だね。おつかれさま」


 彼は、わたしにメモを戻すと、喫茶店に寄らないかと言った。わたしは驚いて目を瞬かせた。深山さんは甘いほほ笑みを浮かべている。


「--あの、生鮮品もあるので、すぐに城に戻らないといけないんです」


「そうか......。ただ、君にも関わってくる大事な話があるんだ。城の人間には聞かれたくなくてね。

 もちろん引き止めたことは伝えるから、十分、いや、五分でもいいから、時間をくれないか?」


 深山さんは、真剣な目をして言った。






 わたしたちは、広場から少し離れたところにある店に入った。


 白い石壁の爽やかな外観からは想像のつかない、がやがやとした立ち飲みの店だ。


 年若い人は少なく、豪快な雰囲気の壮年の男性が思い思いに飲んでいるという感じだった。



 木漏れ日の国は、からりとした気候で、やや暑い。


 だからなのか、主に平民の間では、前の世界でいう欧州と同じような、昼寝の習慣があった。


 午前中で仕事は一旦終わり。昼から酒をあおり、それを活力としてまた夕方から働いていく。そういう文化だった。



 一方、王城での仕事は、現代日本と同じように、朝九時からはじまり、夕方五時に終わるようになっている。





 深山さんはビアとつまみを、わたしは生搾りのオレンジジュースを頼む。


 しばらくすると、薄くスライスした茄子を焼いて、チーズを巻いて留めたものや、ししとうをシンプルに焼いて塩胡椒をかけたものなどが運ばれてきた。


 深山さんに勧められて口にする。たくさん歩き回って疲れていたのか、手が止まらなくなった。


「ああ、ーーそういえばもうすぐ、祭りだったね」


 深山さんがぽつりと言った。彼の視線の先、窓の向こうには少女たちがたくさんの花を抱えて歩いている。





 この国にはさまざまな祭りがあるが、来週はその中でも特に大きなもののひとつ、「森乙女の祭り」があるのだ。


 ルスリエース王国の守護聖女とうたわれる、初代王妃レーヌの誕生を祝うもの。レーヌもまた、異界から、ーーわたしと同じ場所からの召喚者だと思われる。



 初代王・カディは、砂の王国で、王族に保護されて暮らしていた。カディには植物を操る力があり、それが砂漠の気候にも耐えうる強い穀物や果実を作ったという。


 あの国が今日まで生き残っているのは、カディの魔法あってこそだと言われている。


 だが、カディは迷い人レーヌと出会い、さまざまな不信感を王族に抱くようになり、最終的には彼の王国を出奔する。


 そして、二人はルスリエース王国を建国し、老いるまで幸せに暮らしたと言われている。





「僕がこの国に来たのは、半年近く前だからね。森乙女の祭りを見るのははじめてなんだよ。君はどう?」


「わたしも領地から出たことがなかったので、見るのははじめてです」


「ーーそう。よかったら一緒に回らない?」


 深山さんが、緊張したような少し硬い声で問う。どきりと胸が跳ねた。


 だが、これまでの男性に頼りがちな自分とは決別しようと決めていたので、わたしは、それに答えずに訊いた。


「ーーあの、大事なお話と伺ったのですが。今はまだ、仕事中なのです」


 わたしが言うと、彼は面食らったように眉を下げ、頭をかきながら笑った。


「すまない。気が急いたようだな。じゃあ、手短に本題を話そう。ーー君は、ここがゲームの世界だと言ったら、信じてくれる?」


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