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灯りのともる家

 少ない情報を元に動いていた神殿騎士団だったが、そんな状況が動いたのは、ことが起きてから三日目だった。

 どうやら精霊神殿に対して国から最近の動きについての問い合わせがあり、その対処に世慣れない精霊神殿の者達は騎士団の団長を引っ張り出したのである。


 急遽、神殿において代表者による話し合いが行われることとなり、その間、御子探索は一時中断、探索指揮にかかりきりだった者達は休養を命じられた。

 ようするに、銀騎士ラルダスは三日ぶりに家に帰ることが出来たのだ。


 これまで、ラルダスは家に帰るということに何の意味も見いだせていなかった。

 誰もいない荒れ果てた空虚な場所にただ寝るためだけに帰る。

 そんなものに価値などあるはずもない。

 だが、今はその場所は明るく光り輝く安らげる場所であり、何よりも、笑顔のアイメリアが待っている。

 休養など必要ないと豪語していたラルダスだが、この日は浮き立つような気持ちで帰宅することとなった。


(不思議だ。たった一人、家を管理する人がいるだけなのに……)


 ラルダスは下級貴族の六男として生まれ、豊かではないがにぎやかな環境で育っている。

 だからこそ、一人の家というものに必要以上の寂しさを感じていたのかもしれない。

 帰りを迎えてくれる人がいてこその家、というのが、ラルダスの意識にあったのだろう。


「ただいま」


 以前よりも豊かになった庭をひと眺めして、そこにアイメリアの姿がないとわかると、すぐに興味を失って玄関扉を開けて帰宅を告げる。


「あっ! お帰りなさい!」


 すると、奥で何かの作業をしていたらしいアイメリアが、嬉しそうに小走りに出迎えに出て来た。

 その姿を見ただけで、ラルダスは無為な探索の疲れが吹き飛ぶような心地となる。

 そして、すぐに以前とは違う装いに気づいた。


「リボンか、似合っている」

「え? 本当ですか? ありがとうございます!」


 目ざとくアイメリアの頭に巻かれた布を褒めるラルダス。

 リボンではなくてスカーフなのだが、女性の服飾などに興味のないラルダスにその違いがわかろうはずもない。

 とは言え、アイメリアは、ラルダスが間違えたことなど気にすることなく、褒められたことを喜んでいた。


 不思議と、アイメリアが来てから家のなかの光や空気が違ってしまったようにすらラルダスには感じられる。

 あれほど騎士としての仕事にこだわっていたにも関わらず、家にずっといたいと感じられるぐらいに、家は特別な場所となっていた。


「団長の気持ちが少しはわかったかもしれない」


 ことあるごとに家に帰りたい、孫の顔を見たいと愚痴る騎士団長のことを理解出来ないでいたラルダスだったが、大切な相手が待つ家というものが、特別な場所であるということをやっと認識することが出来たのだ。


「え? 団長って、神殿騎士団長さまですか? ダハニアさまの直接の上官だって聞いています。ダハニアさま、ラルダスさまが帰れない日とか、わざわざ立ち寄ってくださったり、ときどき差し入れとかもお持ちくださるんですよ。騎士団長さまのご指示だとかで」

「そう……だったのか」


 後で礼を言わねば、とラルダスは思う。

 早く幹部試験を受けて昇進しろとうるさい騎士団長が苦手なラルダスは、よほどのことがない限り騎士団長の部屋には寄り付かない。

 しかし、アイメリアが世話になっているとなればそういう訳にはいかないだろう。

 ラルダス自身はうっかり失念していたが、若い女性一人を家に置いているというのは、あまり保安上よくないのだ。

 おそらく、その辺りのことを考えて、騎士が立ち寄る家という印象を周囲に与えるためにそうしていたのだろう。

 その程度のことは、ラルダスにも察することが出来る。


「俺は、あまりいい主ではない、な」


 自分の配慮のなさにため息が出るラルダスだったが、アイメリアは首を横に振って否定した。


「そんなことないです。ラルダスさまは私がやったことを一つ一つ褒めてくださるじゃないですか。それが、とてもうれしいんです」

「そんなこと、当たり前のことだろう?」


 ラルダスの答えに、アイメリアは思わず苦笑いを浮かべてしまう。

 義父のホフラン・ザイスは、一度たりとも使用人を褒めることはなかった。

 給金も、減らすことはあっても増やすことなどしない。


「当たり前じゃないです。とても素敵なことです」


 そう言ってにこりと笑うアイメリアを、我知らずじっと見つめてしまうラルダスであった。

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「クラス召喚されたけどぼっちだったので一人でがんばります!」
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