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「本当に休憩取らなくて大丈夫?」
心配そうな愛を安心させるように、吉田はその為にアルコールを抜いたと言った。
「でも、演奏後だし、いつもは電車で帰ってたじゃない」
今日は二人でドライブも楽しみたいから静かに楽しんでくださいと、吉田はまだ心配そうに見つめる愛の頭をこつんと軽くつついた。
食事後、二人は吉田の運転する車で、山梨の家に向かって中央道を走っていた。
元々吉田は和太鼓の為に、アルコールはほとんど取らない。ライブ終了後の打ち上げのときだけだ。だからライブには電車で行く。帰りは朝。仲間からはなんで山梨なんかに住んでるんだと、その度に突っ込まれるが、吉田にもそれはわからない。ある日突然、思ったのだ。そうだ、河口湖に住もうって。
寝てるのかな。
運転の合間に、吉田は静かな助手席をちらりと見た。
愛は寝てはおらず、ブローチを嬉しそうに眺めている。
愛が可愛くて仕方ない吉田は、ちらちらと運転しながら愛を見つめた。
愛が吉田の視線に気づく。
「いやだもう、前を見て。危ないじゃない」
大丈夫だよ、と笑いながら運転に戻った。
愛が手にしているブローチは、この日の為に吉田がオーダーした七宝焼の黄色い蝶。
オーダーなんて柄にもないことをしたのは、黄色い蝶のブローチが売ってなかったから。
チョウチョなんて女の好きなものだから何処にでもあると思ったのに、すっかり当てが外れた。
愛は嬉しそうに、
「真人からの二匹目のヤマキチョウ、すっごい嬉しい!」
二匹目?
誰かと間違えてるんじゃないのか。
しかし吉田はそれ以上言わずに、ヤマキチョウのことを聞いた。
毎度愛に聞くのだが、待ってましたとばかりに説明する愛を見るのが好きなのだ。愛も吉田が聞くと嬉しそうに何度だって説明する。
「ヤマキチョウ。関東じゃ山梨でしか見れない貴重な蝶よ」
愛は大学で蝶の研究をしている。
河口湖に住む事は愛の希望でもあった。
それはただの黄色い蝶だよと苦笑する吉田に愛はムキになる。
「違うわよ、赤い点が羽にあるもの」
赤い点? そんなものあったかな。
吉田は黄色としかオーダーはしていないが、七宝焼で作る際に何か不純物が模様となったのかもしれない。
家まであと少しだ。