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16

 吉田は果たしてもみじ回廊にいた。


 もみじ回廊の上流をとぼとぼと歩いていたのだ。青く生い茂った紅葉の下はひんやりと歩きやすくただぼんやり下を向いて歩いていた。


 秋になると美しい色合いを魅せるもみじ回廊だが、今日は誰もいない。


 愛は混んでいる秋よりむしろ今時分の方が素敵だと言っていた。


 その時吉田の足元を黄色いものがすっと通った。


「ヤマキチョウ?」


 慌ててその黄色い何かを目で追ったが、とらえる前に眩しい空へすっと消えてしまった。


 ヤマキチョウだったのかもしれない。そろそろ飛んでいる頃だ。


 そうだよな、愛。


 例年なら最初のヤマキチョウについて報告してくる。そして二人で季節の移り変わりを感じ合うのだ。でももう確認は俺がするんだ。愛はどこにもいないのだから。


 気づくと吉田は円形ホールの近くまで来ていた。


 おずおずとホールを見たが、もう始まっているのか、ホール前には誰もいない。


 吉田は少しホッとしたが、太陽は容赦なく酔っぱらいのアル中の頭をじりじりと焼き、頭のてっぺんからアルコールを抜こうとしている。いや、アルコールどころか魂まで抜かれそうだ。


 吉田は額に流れ出る汗を手で拭った。


 ここであいつらがライブをしている。


 俺抜きでライブをしている。


 暑さだけではない汗が流れ落ち、なんだかクラクラして来た。


 ホールから目をそらすと、早足で通り過ぎようとした。


 早足はだんだん駆け足になり、とうとう全速力で逃げ出していく。


 俺はもう太鼓たたきじゃないんだ。


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