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14

 吉田の家はすっかり精彩を欠いていた。


 雑草がはびこっている庭の中に、クロツバラが数本立っている。手入れを怠っている割にはしっかり茂っており、葉には虫が食べたらしき跡が残っている。


 精彩を欠いているのは庭だけではない。主を失った台所も、ビールの空き缶やらゴミが流しに山積みになっている。


 明け方まで飲んでいた吉田は少しは寝たものの、朦朧としたまま冷蔵庫に向かった。


 昨日買って来たビールが中で冷えている。冷蔵庫の扉も閉めずにビールを一気に飲み干した。


 一息ついてから缶を流しに投げ捨てようとして、流しが缶で溢れているのを目にした。


 冷蔵庫を振り返ると、中にはもう一本も入っておらず、今手にしているビールが最後のビールだったのだと気づいた。


「ビール……」


 気づいていたら考えて飲んだものを、今更どうしようもない。


 ウォッカでも買っておけばよかった。


 吉田は空っぽの冷蔵庫と空き缶をしばらく交互に見つめていたが、やがて観念して冷蔵庫を閉めた。


 吉田家の冷蔵庫には小さなマグネット式のデジタル時計が貼付けてある。吉田が愛にタイマーを頼まれて買って来たところが時計だった。でも愛は怒る訳でもなく、吉田らしいと笑った。


「ちょうど時計も欲しいと思っていたの」


 それ以来ずっと冷蔵庫に張り付いている。その時計が十一時半を表示していた。


 吉田の脳裏に昨日の電話での会話がよみがえる。


「円形ホールに明日十二時」


 行ける訳がない。もう半年以上叩いてないのだ。


 行ける訳がない。俺はもう太鼓叩きじゃない。立派な酔っぱらいだ。


 アル中だ。


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