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軍神と呼ばれた俺ことベルモンドがアル中騎士に転生し、辺境都市で数々の偉業を成し遂げ、新たな伝説を作りしこと  作者: 三島千廣
第10回 俺こと、ベルモンドが都市に攻め寄せてきた賊軍を撃滅し、その武勇を世にあきらかにすること
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籠城

 正式にアンヌ王女から将軍に拝命されたベルモンドは多忙を極めた。

 神が降りたと錯覚させたために、兵たちの忠誠度はそれほど心配はないが問題は山積みだった。

 まず、偵騎を四方に走らせて、防備を厚くする。

 フライドブルクは都城というものであり、四方をぐるりと土の壁で囲まれている。

 土といっても、かなりの部分が焼かれたレンガを積み上げており、長年、外敵の侵攻がなかったため、あちらこちらほつれがある。それをふさぐために、ベルモンドは官民を動員してつくろった。


 たいしたときを置かず偵騎が城に戻る。

 敵はすでに五舎、すなわち五日後にはフライドブルクに到達するのだ。

 五日では練兵を行って軍を強化する暇もない。ベルモンドはアンヌに言い含められた属将たちを、本営に集めて軍議を行い、自ら練りに練った作戦を伝えた。

 転生前は軍神と崇められたベルモンドもここでは十九歳の小僧に過ぎない。


 だが、初代ロムレス王のため、幾多の難敵を屠った彼には絶大的な自信があり、「お手並み拝見」とばかりに傲慢な態度を崩さなかった将たちも、彼が口を開けば、その威厳と老練すぎる手並みに、神が降りているという偽言を芯から信じることとなった。


 ――軍は掌握できた。あとは現実がどうなるかだ。


 フライドブルク軍の兵力は三千だがお世辞にも強兵とはいえないほど初戦の敗退で弱体化してしまった。

 残る策は実戦で鍛え上げ精鋭にするしかない。

 放った偵騎から得ることができた情報によれば、このとき黒刃賊の全軍は三万をはるかに超える数であることが知れた。


「我が軍の十倍とは」


 佐将であるフォルマンが苦さを口元に滲ませてつぶやく。

 アンヌが封じられた際に王都からつけられた武官は、四十過ぎで賊徒の討伐もそこそこ経験があるだけに、その憂悶は深く、濃い。

 彼は王命によってアンヌを守るよう指示されているため、地生えの人間ではなくとも逃げることは許されないのだ。

 だが、ベルモンドはこの数を楽観も憂いもしなかった。


 ――戦闘が長引けば有利なのはこちらだ。


 過日、【明けの明星】を屠ったときもそうであったろうに、中核の部隊はともかく、敵の大部分は日和見の流民など食うためについてきた者がほとんどだ。こういう連中は勢いに利がある場合は、凄まじく侮れないが、正規兵のように危機に会って底力を発するはずがないと経験で知っていた。


 ――すなわち、一撃すれば全体像が見える。


 ベルモンドは防備を厚くする準備の合間に教会を訪れ、負傷兵の様子を見た。

 彼らの傷がドス黒く変色し、なんとか逃れてきた五百近い敗残兵のうちで助かるものは少ないだろうと理解でき、怒りがベルモンドの身を染めた。

 そして、おそらくは明日、黒刃賊が攻め寄せてくるという直前にベルモンドは父の懇願によって家族のささやかな食事会を行った。


「まさかおまえがここまで更生してくれるとはのう。酒が酌み交わせぬが、心残りだが、賊徒を平らげたのち、そのときは思う存分呑むがよい」


 実父のナゼールはジャクリーヌの料理を肴に昼日中だというのに、口髭を酒と涙で濡らし、べろべろに酔っぱらった。


「ベルモンド。マリーヌは我が妻が預かる。ジャクリーヌとしばしであるが語らえ」


 ナタンはそういうとむずかるマリーヌとその頭上で跳ねるホワイトスライムのユキを連れて去っていった。


 軍の総大将であるベルモンドもそれほど時間は取れない。

 周囲の家ではベルモンドがフライドブルク軍の総帥に選ばれた際に、かなり盛大に祝ってもらったので、グズグズしている暇もなかった。


「時間がないからそろそろゆくぞ。家のことはまかせた」

「はい……」


 ジャクリーヌの憂悶は深い。

 確かな情報を持っていないにもかかわらず、彼女は戦地に赴く夫がどれほど危険な場所で戦うかを本能的に察していた。


「どうした?」


 扉に手をかけたベルモンドの裾をジャクリーヌが引く。

 彼が着るのは大仰な鎧甲冑ではなく、いつもの騎士団の制服だ。

 ベルモンドが士気を鼓舞するために着用する将にふさわしいものは、ウィスタリア屋敷にある。

 夫の背があまりにもいつもと変わらぬため、ジャクリーヌはたまらず動いてしまったのだろう――。


「必ず、勝つ」


 振り返って言った。


 ――だから、これが最後の別れじゃない。


 ふたりは唇を合わせると溶け合うように、強く抱き合った。





 ベルモンドの予見が的中した。黒刃賊のラバールは怒涛の勢いでフライドブルク城に襲いかかった。


 ――予想通り攻城兵器の数は少ない。


 賊は雲梯や井闌を持参していた。

 雲梯は城壁にかける長いハシゴ車のことであり、井闌は塔の上に箱があり、そこに入った兵が城壁の守備隊を攻撃するいずれも古代から存在する攻城兵器だ。


 だが、ベルモンドが目視したところ、数えられる程度であり、自在に活用できるほど攻城兵器の扱いに関しては習熟していない様子だった。


 ――敵の用兵は稚拙である。


 眼下に広がっている三万余の敵兵の内、黒々と固まっている中軍の一部が黒刃賊の精鋭だろう。

 その他は烏合の衆である。


 外壁に上ったフライドブルクの兵たちはこれほどの軍勢を目にしたことがないのか、怯えを露にしていたが、ベルモンドはひとり静かさを持ち続けていた。


「案ずるな。あのような卑軍でこの城は落とせぬ」


 黒刃賊は統制を欠いた動きで、日没直前までフライドブルクを攻めたが、たいした戦果もなく引き揚げた。


「見よ。あの陋劣な敵将の采と賊軍の稚拙な動きを。敵は、こちらを動けもせぬ居すくまった亀だと舐め切っている。門を開け。本物の騎士の戦いを見せてやる」


 ベルモンドは門を開くと、守備兵をほとんど残さず、全軍で出撃した。

 余力を残さぬ攻撃である。


 ――戦いは緒戦がもっとも重要だ。


 通常の将ならば、残った城のことを考えて、投入する兵力を惜しむが、そこは歴戦のベルモンドである。

 戦場における呼吸と進退、それに流れを知り尽くした、この大陸でもっともいくさ慣れした男にすれば、今、戦わずいつ戦うというほどの絶好機であった。


 黒刃賊にしてみれば、背後から籠り切りの城兵が押し寄せてくるとは思ってもいなかったのだろう。

 騎兵を主体とした荒れ狂う波濤のような勢いでフライドブルク軍は黒刃賊を散々に打ち破った。


 後拒もロクに定めずダラダラと動いていた黒刃賊はひとつの槍となったフライドブルク軍の攻撃の前にほとんど抵抗することなく撃殺された。

 ベルモンドは外壁の上から細かく指示を送って巧みに敵兵の動きを封じ切り、近場に築いていた敵陣を完全に破壊し、浮浪の徒がほとんどだった黒刃賊は万余の死傷者を荒野に晒して、潰走状態に陥った。


「初戦、フライドブルク軍大勝です!」


 伝令の声に屋敷の王女を含む上層部は沸き立った。


「敵軍は万余の死者を出して後方に退きました。ベルモンドの将軍の采配は神のごとしでございます」


 それまで十代であるベルモンドの指揮に疑問を持っていた貴族や名士たちは、もはや手放しでベルモンドのことを褒めちぎった。

 王女であるアンヌも侍女たちと共に手を取り合って、年齢にふさわしい嬌声を上げる。


「まだ、終わったわけではありません」


 ひとり、名士のテオドールのみは冷静だった。行政の達人で老齢の都市長だけがかろうじてテオドールの言葉にうなずいていたが、前回野戦で大敗していただけあって、この勝報は市民にとっても明るいものだった。


 一方、ベルモンドは緒戦の快勝に湧く軍民たちとは違って、ひとり黙考していた。


 ――やはり敵の本部隊は手強い。


 ラバールの虎の子である三千の黒刃賊そのものは、他の兵と違って強固だった。

 ほぼ無傷といっていいフライドブルク軍であったが、それでも追撃の際に戦った黒尽くめの精鋭との戦いで毒を受け、戦線に復帰できそうもない数十人の重傷者があった。


(あの毒刃をなんとかしなければ、最終的な野戦になったとき、厄介なことになる)


 翌日から敵将のラバールは隊伍を整えて城を包囲すると、慎重な攻めを行うようになった。

 三千の兵が籠る城を減じたとはいえ二万の兵が包囲するのである。


 慣れているベルモンドはともかく眼下の敵影の黒々とした影を見る守備兵の憂悶は濃かった。


「さあこい。この城は落とせはしない」


 ベルモンドは城壁に無数の大釜を用意させると赤々と火を焚いて湯を沸き立たせほくそ笑んだ。

 城壁にハシゴをかけて果敢に上ってくる敵兵に向かって、湯を見舞った。


 この攻撃はロクな鎧もなく、素肌に刀や戦利品を入れるための頭陀袋を背負っているだけの流民軍には効果的だった。

 城壁のあちこちから怒号と絶叫が流れ、敵兵はアリのように次々と落下し命を落とした。


「よし。次はたっぷりとあいさつしてやれ」


 ベルモンドがそう命じると、城壁を囲んでいた敵兵に弩の雨がこれでもかとばかりに放たれた。


 徴募したばかりの農兵には射程距離と速射性の高い弓よりも、扱いやすく技術が必要ない弩が配備され、今ここにその真価が発揮された。


 盾などの防御策をこうじていないために、黒刃賊には弩によって発射された矢が面白いようにあたった。

 城を巡っての激戦は七日間続けられた。


 七日目の夜、城壁の兵を交代させたベルモンドは属将を呼び集めて軍議を開いた。


「七日の間、賊軍は南門に攻撃を集中させた。これに策あってのことだろう」

「策とは?」


 佐将のひとりが疑問の声を上げた。


「現在、敵兵のほとんどが南門に集中している。これは我が軍の防御を南に引きつけ、明日は不意に他門に迫り一挙に城を落とそうとする策略だ」


「と、なると敵はどこか一カ所を力攻する、と」


「東には河水が流れ、北には山林が城近くに広がり、大軍を展開させにくい。となれば、残りは西に集中するであろう」


 ――これだけ方針が決まっていればフライドブルク軍も方針を立てやすい。


 ベルモンドは偵騎の数を倍増させて、敵陣の動きをより一層細密に探り、南北東に偽兵ために旗を多数立てさせ、自らは西門へ移動し指揮を執った。



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[一言] どこからこれだけの流民を集めたのやら。
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