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軍神と呼ばれた俺ことベルモンドがアル中騎士に転生し、辺境都市で数々の偉業を成し遂げ、新たな伝説を作りしこと  作者: 三島千廣
第9回 俺こと、ベルモンドが窮地に至った姫と軍民を鼓舞し敗北を覆すこと
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平穏の終わり

 ――たぐい稀なる才あり。

 信頼できる数少ない臣であるテオドールの報告を最初に聴いたときアンヌは我が耳を疑った。


「貴方は軍盤をその騎士と指したそうですが、たかだか数度向かい合っただけで、そこまで断ずることができるのですか」


「いえ、王女殿下。軍盤はただの遊戯ではありません。臣は、祖父から軍盤を習いましたが、これには指す者の精神性と智を窺うことができます。あのベルモンドという男には奥深い智と広々とした器量を感じました」


 アンヌはその美貌をわずかに曇らせて、目の前の政治家をジッと凝視した。

 ベルモンドという騎士の驍名はフライドブルクにおいて知らぬ者はいないというほどに鳴り響いている。

 この小さな辺境都市で個人の武勇がここまで短時間に巷間へと染み入るように広がるのは未だかつてないことだ。


「けれど、貴方が下調べした時点では、そのベルモンドという男、相当な悪名があったのでしょう。短時間で、そこまで人が変わるとは思えません」

「さあ、少なくともわたしは自分の目で見てベルモンドを判断しました。臣、個人としての感情を省きましても、悪評などはまったく信のおけないいい加減なものだとつくづくに思います」


 手放しの褒めようである。

 テオドールはこの地方の名士であり、年齢も分別がつくに充分だ。

 人間にウマが合う合わないがあるにせよ、テオドールの入れ込みようは、普段を知っているアンヌからすれば異常であるといえた。


「とにかく王女殿下が股肱にするならばあの男が最適です」


 テオドールは政庁たるウィスタリア屋敷では、水のように落ち着いており、滅多に笑貌を見せぬ男であるが、ベルモンドを語る時だけは、まるで子供が信頼するガキ大将を自慢するようなあどけなさがあった。

 アンヌは椅子に座ったままテオドールの話を聞くような聞かぬような態度で受け流し、わずかに困惑した。

 ――ならば実際に会ったほうが早い。


 そして実際にベルモンドその人を視たアンヌの捉え方は、一語に集約するなら「不可思議」としかいえない茫洋が胸に色濃く残った。


 独特の(にぶ)さがあるが、それが負に繋がらない独特の深みがあった。

 とても十九歳とは思えぬほど、人格が練られているという印象だった。

 義侠心があり、胆力も備わっている。無法者からか弱き女を救おうと率先して立ち向かう職務に対する強い忠誠心も素晴らしい。

 さらに庭園で腕試しに放った剣士たちを赤子の手を捻るように捌いた技量も突出していた。


(それにどことなくかわいげもあるしね)





「いま戻った」

「おかえりなさい」

「おかえりなさーい」


 ベルモンドが帰宅すると、今か今かと待ち受けていたジャクリーヌとマリーヌがパタパタと足音を鳴らして駆け寄ってきた。

 マリーヌは頭にスライムのユキを乗せながらベルモンドの膝頭に組みついている。


 ホワイトスライムのユキも主人の帰宅をよろこんでマリーヌの頭の上をぽよんぽよんと跳ねていた。


「だいぶ大きくなったな」

「マリーがえさあげてるから! ユキ、すっごくくいしんぼさんなんだよ!」


「そうか。食えば育つ。マリーヌはユキを兄妹だと思って世話しているのだな」

「うんっ。ユキはマリーのおとうとっ」


 マリーヌは頭上にいたユキを胸の前で持つと、幼児ゆえの遠慮のなさで力いっぱい左右にむにゅうと引っ張り広げている。

 ユキから「きゅ、きゅー」と切なそうな声が上がるがマリーヌはきゃっきゃと笑ってなおも力を入れる。


(おまえは弟にそんな過酷なことをするのか)


「もう、マリーヌったら。ユキちゃんをイジメちゃダメでしょ!」

「あーん、マリーのおとうとー」


 ジャクリーヌがユキを救助するとかばうように胸に抱きしめた。

 ユキに表情というものがあれば、九死に一生を得たように安堵に満ちていただろう。


「で、あなた。今日はお仕事どうだったの? お屋敷に行くとか言っていなかった?」

「……まあ、いろいろと大変だったよ。メシでも食べながら話すよ」


 きい、と軋んだ音を立てて扉を開ける。ベルモンドが気を抜くことができる、場所から漏れる灯は平凡で、そしてなによりもあたたかだった。



 フライドブルクが平穏だったのはその日までだった。

 翌日、王女たちの居住区でもあるウィスタリア屋敷に急使が届いた。

 国内でも邪悪さで有名な黒刃賊(こくはぞく)が領内に現れたとのことだった。


 永遠に続くと思われた平穏はここに破られ、急使に跳ね起きたアンヌ王女は寝台から飛び降りて足首に軽い捻挫を負う始末だった。


「――っ、賊の位置は。砦の見張りはなにをしていたのですか」


 捻った足首の痛みにネグリジェ姿のアンヌは顔を顰めながらも鋭く問いただした。


「マルイーネ砦とワッシャー砦の兵二百余は壊滅。生き残りの兵がかろうじて情報を」


 執務室で蒼い顔をしたアンヌの前に、時刻は深更であるというのに一番で駆けつけたテオドールが助言する。


「王女殿下。疾く招集を。事態は風雲急を告げております」

「都市長と議員たちを集めてください」


 このときのアンヌの気分はいかばかりだっただろうか。

 先日、ようやく頼みになりそうな騎士である逸材をようやくひとり見つけたばかりだというのに、このツキのなさはなんなのか。


 ようやっと幼児が苦労して積み上げた積み木の上へと不意に落雷が落ちたようなものだ。


 アンヌは現ロムレス王の子には間違いないが、空虚となった飛び地の王領を埋めるために、無理やり市井から連れ出されて即興で飾り立てられた駒にしか過ぎない。


 すなわち、ほかの王族と違って累代の家来がいないのだ。

 フライドブルクは王女が命じた都市長とその属官である議員が行政を切り盛りしている。


 つまり彼らが三年前に封地されたばかりのアンヌのために水火を辞さす尽くすかといえば、疑問しかない。




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[一言] この街兵数そんなにいるのかな?
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