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軍神と呼ばれた俺ことベルモンドがアル中騎士に転生し、辺境都市で数々の偉業を成し遂げ、新たな伝説を作りしこと  作者: 三島千廣
第6回 俺こと、ベルモンドが村人を苦しめる竜を倒し、正義を世に知らしめること
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兆し

 少年は今にも泣きだしそうな空を見上げながら、手にしていた木槌をのろのろとした動きで止めた。


 年齢は十七、八だろうか。際立った特徴もないが、取り立てて人より劣った部分もない。群衆に紛れれば、すぐに埋没して溶けてしまいそうな程度には、薄かった。


 背には、かなり年季の入った宿屋が折からの強風に煽られながら、ギシギシと軋んだ音を立てていた。

 木の葉亭。

 それがこのちっぽけな宿の屋号だった。

 少年はフライドブルクに近い街道筋の宿屋を経営する若き主人だった。


「トール。いつまで気にしてるの? どうせこんなところまで来やしないわよ」


 対照的にトールと呼ばれた少年に声をかけた少女の容姿は美しかった。

 燃えるような赤毛に大きな瞳が特徴的だ。

 年齢は十五、六だろうか。

 背は少年と似たり寄ったりで百六十くらいだろう。

 このあたりの街道筋では珍しいくらいにパリッとしたシャツに紺のスカートがお洒落で少女には似合っていた。


「おーい、聞いてますかな? トールくん」

「……聞いてるよ、アリスン」


 一拍置いてトールが答えた。アリスンがかがむと、発育のよい胸が強調されるので、自然と注視してしまうことを恥じたのだ。トールは帽子を下げて自分の視線をごまかした。


「トールくん。あたしは噂の魔獣のことを話しているのだよ。えっちい目で人のお胸をジロジロ眺めているのは、どこのどなたさんですかなー」

「う、うるさいなっ。見てないよ別にっ」


 アリスンはトールの幼馴染みで木の葉亭の従業員だ。

 ほかには通いの雑用をするコリンという六十代の老人がいるだけで、基本はこのふたりが木の葉亭を回していた。

 この宿屋自体はトールの父の所有物であった。アリスン自身も宿の手伝いをさせるためにトールの父が購入した奴隷であった。


 だが、トールの父はアリスンの賢さと器量の良さ、それに息子であるトールと密かに思い合っていることを感じ取り、手続きをして彼女を解放奴隷として登録が済んだのは逝去する三日前だった。

 以来、この村で唯一の宿屋を経営するトールは慣れない主人を懸命に勤めて、日々悪戦苦闘していた。


「うーん、えちえちですなぁトールくんは。そろそろあたしに対して正直になってもいいのですぜ」

「や、やめろって。む、胸が当たってる」

「ふふふ、うりうりー」


「も、もうっ。やめてくれよ。それに僕だって竜のことは気にしてるよ。今だってうちにどんな冒険者が来るのか心配だったんだ」

「あらま」


 アリスンは鄙には稀なという美少女であり、村人の力もあってか、木の葉亭はほどほどに繁盛していた。

 そんな村を、つい、三カ月ほど前に危難が襲った。

 すぐ近くの街道に竜が出たというのだ。


 この竜は、夜な夜なフライドブルクに繋がるロムレス街道近くまで進出しては、旅人を襲った。

 よって、村の主要な外貨獲得方法であった旅人が迂回するようになり、財政は日々悪化の一途をたどった。

 そこで村人は近場の冒険者ギルドで竜を討伐する凄腕の男たちを雇ったという次第であった。

 となれば、その冒険者たちが泊まるのは村でひとつしかない木の葉亭しかないのだ。


「うんうん。村の命運を懸けた接待ですからね。あたしもトールがビビっちゃう気持ちわかるなあ」

「ぼ、僕はびびってなんかないよ! ただ、そんなすごい人たちなんてうちで満足してもらえるかなあって、心配で」


「もう、このお。トール。木の葉亭の清掃とお料理を一手に引き受けているのは誰だと思っているの? なにを隠そう、このあたしだー!」


 アリスンは大きめの胸を突き出すと自信ありげに明るい声を響かせた。


「だから、なーにんもきみは心配することないんだよ、きみは。お父さまにも頼まれてるし、あたしはやるときゃやるんだかんね」


「アリスン……」

「それにうちらの代わりにこーんな村までやってきてドラゴンをバシッと退治してくれる冒険者さんだよ。良い人に決まってるじゃん。心配ないない、いざってときはあたしがトールに代わってバシッとやるからね」


「は、はは。でもそれは、僕の仕事だから。ありがとね、アリスン」

「ん……」


 立ち上がったトールが力強い目でアリスンを見た。

 このあたりは霧が深い土地柄である。

 ややもして天気が崩れると、時には一寸先もわからなくなるほどの濃霧が現れることがある。

 ふたりが見つめ合って手を取り合った瞬間、雑木林の向こうの坂から、シルエットが姿を現した。


 数は四つである。

 トールはその霧の向こうに現れた四人の男を目にした瞬間、本能的に嫌なものを感じ、足が竦んだ。

 普通に歩いているはずだが、トールは男たちが近づくにつれて異様な喉の渇きを覚えた。


 ――ダメだ、これはよくないものだ。


 それがすべてを壊す凶報の兆しであった。



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