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軍神と呼ばれた俺ことベルモンドがアル中騎士に転生し、辺境都市で数々の偉業を成し遂げ、新たな伝説を作りしこと  作者: 三島千廣
第4回 俺こと、ベルモンドが近ごろ横行する領内の盗賊たちを討伐すること
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盗賊

「とにかく命には別条はないらしい」

「そうですね」


 病院への帰り道、パトリシアはやけに落ち込んだ様子を顕著にしていた。


 ともかくも、つき合いというか、ほとんど話したこともないのでベルモンドは彼女の人間性もよく知らないレベルだ。

 元々の性格が他人に気を遣って陽気に軽口を叩くというふうでもない。

 ベルモンドにできるのは黙然と寄り添って、歩くくらいだけである。


「ありがとうございます。気を遣っていただいて」

「俺はただ歩いていただけだ」

「いえ、かえって黙っていてくれたほうが気が楽でした」


 パトリシアは懊悩している。ベルモンドは一軍を預かっていた大将だけあって、そのあたりに関しては鋭敏だった。


「腹減ったのか? メシでもどうだ」

「ふふ……」


 女心はまるで詳しくないベルモンドだった。







 麝香騎士団の佐将ともいうべきパトリシアと若干の和を図ったベルモンドは公務と私事においても平穏を保った日々をわずかながら送った。


 ――相変わらず懐かない。


 義妹であるマリーヌは転生前のベルモンドの行状があまりにもひど過ぎたので、その後も関係の修復を図ろうとしたが、遅々として進まなかったことに、この男の限界があった。


 マリーヌはベルモンドがひとりでいる時には決して近づかず、壁際から半身を隠してジッと様子を窺っている。

 懐かないからといってベルモンドはこの義妹に悪心を抱くほど狭量ではなかった。


「マリーヌよ。ほら、こちらにおいで。飴をやろう」


 餌で釣ろうとしても警戒感を露にしたこの童女は、どたどたと足をもたつかせながら逃げ去るのみである。

 ベルモンドは子煩悩であった。


 軍務に明け暮れる日々で妻帯したことはなかったが、それでも関係のあった女に子を産ませたことがあった。

 だが、数人いた子はみな長ずる前に病で没し、ベルモンドは長らく幼児との関係性を保てなかったところに悔いがある。


 ――できればマリーヌと関係性を改善したい。


「すみません、妹が……」

「いや、そのうち慣れるだろうよ。気にしないでくれ」


 禁酒が続き、目に見えて明るくなったジャクリーヌがすまなそうに詫びるたび、ベルモンドは首を捻っていまだ三歳でしかない義妹にどう対応しようか首を捻るのも楽しみのひとつになっていた。


 この月はそうして過ぎたが、フライドブルクという辺境の都市が平穏を永遠に保てるはずもなかった。

 ベルモンドが転生する千年前は戦争と疫病と飢饉で人口が八分の一にまで激減する時代であったが、現世もまた安寧の楽園とはいえない時代だった。

 かつて数百万程度であった時代に比べれば現世の人口は億を超えて安定している。


 しかし、ロムレス王国そのものは、次代の王位継承者を巡って政界にも暗雲が立ち込めていた。


「こうしてゆっくりおまえと膝を交えて話すのも久しぶりだな、ベルモンドよ」


 とある休日、ベルモンドの自宅を麝香騎士団の騎士団長であるナタンが訪ねてきた。


 今年で五十五歳になるナタンはベルモンドの叔父にあたる。

 フライドブルクの都市を守備する任を市より受けて奉職する四十八名の騎士を統率するこの男は、ベルモンドの父ナゼールの弟であり剛毅な男だった。


「酒は、ダメだったか。今のおまえはやめているんだったな。偉いぞ。河水の神がおまえの邪心まで清めてくれたようだな」

「叔父上。私のことは気にせず、遠慮なくやってください」


「そうか。ジャクリーヌ、すまないな。わたしばかりが呑んでしまって」

「いいえ、叔父さま。お気になさらず」


 叔父であるナタンはジャクリーヌが少女であったことから知っており、甥との関係が破綻しかかっていることを気に揉んでいた。


「いやあ、今日は酒が美味い。断っているおまえには悪いがな」


 ナタンはジャクリーヌの心尽くしの手料理に舌鼓を打ちながら顔を赤らめていた。


「どうやら以前の私は相当に酒癖が悪かったようですな」


「ふむ。記憶を失ってしまったことは寂しいが、それよりもわたしはおまえが見事に立ち直ってくれたことのほうがうれしい。フェリシテから聞いている。なんでも、商会の用心棒とじゃじゃ馬を凹ませ、酒場では荒くれ者を退治し、あの高慢ちきな上級騎士の小僧の鼻っ柱をへし折ってくれたそうじゃないか。いやあ、酒さえ呑まなければおまえはやる男だと信じていたよ」


 すでにジャクリーヌは寝室に下がっている。ベルモンドはボロを出さないように腐心しながら、叔父に対して従順に酌を続けた。


「パトリシアにはあの小僧はもったいないと思っていたのだ。いやあ、酒が美味い、美味いが……」

「それだけの話をしにきたわけではないですよね」


「……わかるか。実はな、ちょっとばかり気になることがあってな」


「噂程度ならば耳にしています。市外の農村を荒らし回る盗賊団に関してですか」


「そうか。もう、噂になっているのか。先月、市と協力して我らが賊の討伐に赴いたことは覚えているだろうか。その時に、いくつかの小集団は討ったが、大物をひとつばかり取り逃がしたのだ」


「叔父上。私は記憶を失っています。賊に関する情報を細密に教えていただけるとありがたい」


 この時、すでにベルモンドは一騎士としてではなく、兵略を熟知し、十数万の兵を自在に操っていた往時に戻っていた。


 ナタンもベルモンドの瞳の奥底に光る英知と胆力の輝きに気づき、居住まいを正した。


「賊の首魁の名はピエール。【明けの明星】という賊徒を指揮する怪傑だ」

「賊徒にしては仰々しい名を持つ群ですね」


 ベルモンドは空になったグラスを宙に浮かせてテーブルの上で無意識に舞わせた。

 前世は軍人であったベルモンドは数えきれないほどの賊を誅滅してきた。


 こういった話を聞くのは、懐かしく、血が騒ぐのだ。


「前回討滅した賊たちは、それぞれが数人から多くても二十を超えない程度だった。装備も貧弱で騎馬も持たず、我々麝香騎士団はフライドブルクの駐屯兵と協力して苦もなく倒すことができたが、ピエールはいささか毛色が違う」


「と、いうと?」

「かの者は周辺の賊を糾合して百余を超える勢いだそうだ。これ以上放っておけば、市や周辺の村々の禍になりかねない。この地は王都より遠く、また王朝は政治的にグラついていて討伐軍を頼んでも、やってくるのは秋になってしまうだろう」


「その前に我々だけで叩く、と」

「市も人数は出すだろうが、主力は我々騎士団になるだろう。幸いにも騎馬の数は充分そろっている。できれば明日にでもと思っているが。おまえの意見を聞きたい」






「私は賛成です。賊が力を蓄える前に討つことが民衆の不安を取り除くことになりましょう」


 ベルモンドの口を睨んでいたナタンは太い声で呻くと顎ひげについた酒精の雫を手のひらで払った。


「そうか。いや、相談できてよかった」


 それだけいうとナタンは静かに身支度を整え、夜の街に消えていった。


「あの、なにか難しいお話だったのでしょうか?」

「心配することはない。明日から少し公命で家を空けることとなる。ジャクリーヌ、あとは任せる」

「……はい」


 不安そうな顔で寝間着姿のジャクリーヌは不承不承返事をした。


 ――叔父上のお心は決まっていた。


 もうひとつ後押しする言葉を必要としていたのはわかっていたし、また、ベルモンドも奸悪は素早く除くことが大切であると経験から知っていた。



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