当然すぎた勝利
ベルモンドは剣を失ったまま両手を突き出しているパトリシアの眼前に立ち、切っ先を顎の下に当てた。
「どうした、これで終わりか」
柵の向こうでふたりの対決を見守っていた騎士たちがワッと歓声を上げた。
「すげええっ」
「あの副団長をやっちまった-!」
「ベルモンドってあんな強かったのか?」
「酔っぱらってなきゃ実はスゲーんだな!」
「だっせ、だっせぇえええっ。副団長、なんか笑える」
「パトちゃんカッコ悪ぅ」
部下たちの囃し立てる声がパトリシアに聞こえないはずもなく、彼女の動揺は態度と口調に大きく表れた。
「あ、あ、あ、うそ、うそです、こんなの……もう一度、もう一度です。今のは、今のは、ちょっと油断しただけなんですよ! あ、あははっ。私としたことが、こんな……!」
「そうか。ならば、何度でもお相手しましょう」
――パトリシアの腕がたいしたことがないとわかるとベルモンドからすればこの場の立ち合いはただのお遊戯と化した。
「たああっ」
「このおっ」
「えいいっ」
「りゃあっ」
――それからの立ち合いは一方的だった。
ベルモンドはその場から一歩も動かず斬りかかってくるパトリシアの剣を弾く作業と化した。
「あつ、くっ、あっ……」
ついにはパトリシアは手が衝撃で痺れ、木剣を取り落とすようになり、勝負はそこまでになった。
「副団長。もう夕方になりますよ。そろそろお開きにしては」
「わ、私に負けを認めろと……? く、くううっ。あ、そ、そうでした。私は、今日は遠征から帰って来たばかりでほとんど寝ていないんでした。そうでした。だ、だから、この勝負は……」
「なしにしろと? はぁ、まあ、騎士団の副団長である貴女が自分で言いだしたことを反故にして良心に一片の呵責もないというのであれば、俺は別に構いませんが」
「私が構うっ!」
パトリシアはぼろぼろと悔し涙を流しながら、手にした木剣を地面に叩きつけた。
それからパトリシアは囃し立てていた騎士たちを鬼のような目つきで睨んだ。
後難をさけた騎士たちは雲の子を散らすようにパッと逃げ去り練兵場にはベルモンドとパトリシアのふたりきりになる。
「約束は、騎士に取って約束は……絶対なのです! 私はボージョン家の名を穢すことはできない。だが、ベルモンドよ。あと一度だけ私にチャンスをいただけないでしょうか? 確かに私は今日、最初からあなたを見くびっていました。その心が身体に影響を及ぼし、勝敗を分けたのです。一カ月の猶予をください。すべてを鍛え直して、もう一度貴方に挑ませてほしい」
「まあ、なんでもいいが。どっちにしろ反故にするんだな?」
「……そうは言っていません。約束は果たせませんが、代わりと言ってはなんですが、私の一番大事なものを貴方に捧げます」
「は?」
誰もいなくなった練兵場には夕日が落ちていた。
「こっちへ来てください」
「は?」
ベルモンドはパトリシアに手を引かれると小屋に入ってゆく。
小屋の中は雑然としていた。
あまり、日ごろは使っていないのだろうか。
換気がしておらず、黴臭い空気が漂っている。
「目を瞑ってください」
「なぜ……」
「いいから!」
「はい」
言われるがままにベルモンドは目を閉じた。




