9 それにつけても金の欲しさよ
パーティメンバー三人にギルドの依頼をこなすことを断られ、俺は頭を抱えていた。
俺はその顔をミユサに向ける。
「……ミユサ、俺の為だと思って引き受けてくれないか」
「旦那様、新大陸は諦めて一緒にこの街で暮らしませんか? 子供は男の子と女の子十人ずつぐらい欲しいです」
「多いわ! ていうかお前はなんの為にここにきたんだよ! 新大陸に行く為じゃなかったのか!?」
「もちろん旦那様と出会う為です。運命ですから」
……ダメだ話が通じない。
くそう、ミユサのヤツそんなに新大陸に対してこだわりがないのか……!
……いや、だが彼女の気持ちを利用するのもよくない気がする。
俺は諦めて、エルンへと顔を向けた。
「なあエルン、人助けだと思って俺に協力してくれないか」
「ボクがそう言われて助ける人間に見えるのか?」
「ですよねー」
暗殺者に頼んだのが間違いだった。
「リュッカ……は」
「……強い敵が現れたら、呼んでください!」
……頼むだけ無駄だな。うん。
そうして俺は腕利きのパーティメンバーを集めたものの、初手から詰んだのだった……。
* * *
「……くそー、だけどあいつらは絶対強いはずだ。何とかしてあいつらにやる気を出させることができれば……」
俺は彼女たちを置いて、ギルドの掲示板の前にやってきていた。
そこにはいろいろな依頼が貼り出されている。
冒険者を目指す者や新大陸から帰ってきた冒険者たちが、ここの依頼をこなして報酬をもらうのである。
「リュッカは強い敵が相手ならついて来てくれるはず……。ミユサは……俺が誘えば着いてきてくれるか……? エルンにいたってはどうやったら動いてくれるのかさえもわからんから、置いておくとして……」
俺はそう言いながら掲示板の貼り紙を見るも、どうにも良さそうな依頼はなかった。
「リュッカの興味を惹くような、強いヤツを倒すだけの依頼があれば……ってそうか」
俺は自身の作戦の穴に気付く。
もしそんな依頼があったら、アイツがもう一人で倒しに行っているだろう。
「クソ、作戦に致命的なミスが……」
「――おう、シンじゃねぇか」
掲示板を見ている俺に話しかける声があった。
「……げ」
「おいおい、そんなに嫌そうな顔すんなよ。元パーティメンバーだろ?」
男はガハハ、と笑う。
……俺がこの前クビになったパーティのリーダーだった。
名前をモーモンと言う、ヒゲ面のガラの悪い男だ。
「おいお前、どうせヒマしてんだろ? この依頼受けてくれよ」
彼はそう言うと、掲示板の中から一枚の紙を取って俺に押し付ける。
「ポーションの制作依頼だ。お前のポーションはマズイが、それでガマンしてやるよ。元パーティのよしみでな」
「……俺のポーションが嫌なら他のヤツに頼めばいいだろ」
「急ぎで数が必要なんだ。贅沢は言ってられねぇ。お前のゴミポーションに相場通りの値段を払ってやるんだから、つべこべ言わずにやりな」
モーモンはそう言うと、鼻で笑って背中を向けた。
「それじゃあ明日までに用意しとけよ!」
モーモンはそう言ってギルドを後にする。
俺は手にした紙を握りしめた。
* * *
「だぁーれがまともに受けるかバカやろう~! どんな味でもいいって言ったな!? いいぜそれなら、とびっきりマズいポーションを作ってやろうじゃねぇか~!! マズ過ぎて死人も目が覚めるような奴を作ってやるよ! クソボケ~!」
その夜、俺は自分の工房に閉じこもっていた。
この工房は冒険者見習い用の宿舎の近くにある廃屋を勝手に改造して使っているものだ。
つまり俺の所有物ではないのだが、他に誰も使ってないので怒られたことはない。
中に勝手に組み立てた精製装置を使って、ポーションを純化していく。
「とはいえ生きていくのにも、冒険の準備にも、金は必要だ。……すぐに新大陸に行けるかはわからないし、金が多いに越したことはない。……だけどモーモンにいいように使われるのはムカつくな、クソ」
俺は一人そんな愚痴を漏らしながら、ボコボコと泡を立てるポーションを眺めた。
……どうして俺がこんなことを。
「お前はいつもそうやって独り言をブツブツ言ってるのか?」
「そうだ俺は自分の考えを口に出すことで思考の整理整頓を――ってうわぁあ!?」
俺は驚いて腰を抜かす。
見るとそこには仮面のパーティメンバー、エルンの姿があった。