8 アットホームで素敵なパーティです
「しかし謎ですね。旦那様にはもう一種、呪いを増幅させるタイプの魔法がかかっていました。それは最初の呪とは別の物です」
シーブルムが去った後、ミユサはそう話した。
彼女の話によれば、シーブルムは兄弟子という立場を利用して俺に呪いをかけていたらしい。
つまりアイツが今まで得ていた功績は、俺から運気を吸い上げて成し遂げた成果ということだ。
到底許せるものではないのだが、さらにそれに加えてもう一つの呪いがかかっていたという。
「……別のヤツがまたかけてたって事か?」
「はい。おそらく」
……許せん。
シーブルムと、また別の誰かによって俺はこの三年間ひたすら苦労していたのである。
それはアイツの家が燃えた程度で許せるようなものではなかった。
――絶対に酷い目に遭わせてやる。
それには新大陸に行くのが好都合だ。
アイツのパーティはもうすぐ新大陸へ冒険に出るという噂も聞いているし、俺に呪いをかけたヤツもあちらにいる可能性が高いと思う。
なら俺たちも新大陸に行った方が、彼らの後を追うことができるだろう。
そしてもう一つ。
新大陸は、こちらの法が適用されない。
つまりどんな仕返しもやりたい放題なのである。
だからその為にも、俺は船に乗って新大陸へと行く必要があった。
俺は三人に向かって語りかける。
「みんなには新大陸を目指すパーティとして集まってもらったはずだ。だが船に乗るには条件がある」
それは国によって制定されたルールだ。
「その条件は、パーティを組む事……なんだが、その冒険者ランクの平均がBランク以上でなければ許可が出ない。弱い奴らが行っても無駄死にするだけだからな」
冒険者ランクは冒険者を目指す者すべてに与えられるランクで、基本的にAからEの五段階ある。
その上とその下には特殊ランクとしてSとFがあるのだが、ややこしくなるので説明からは省いておく。
「ランクは依頼をこなした数や内容、そして実力によって評価される。……そして俺のランクは……その……残念ながらEランクなんだ……」
俺はそう言って彼女たちから目をそらした。
俺のランクは、AからEの5段階の中の5。つまり一番下。
「……い、いや、これにはワケがあってな? 俺は今までまともなパーティ活動をする前に追放されてしまっていたから、活躍の機会が与えられていなかっただけなんだ。だから本当はもっとできるはずで……」
俺は誰にともなく言い訳をした。
その言葉にミユサが微笑む。
「大丈夫ですよ、旦那様。旦那様がどれだけ弱くて何もできない愚図の素人であったとしても、ミユサは絶対に見捨てないですから……」
「もうちょっと歯に布を着せてくれると嬉しいんだけど!?」
ミユサの直接的な言葉に心を抉られ、泣きそうになる俺。
……そうだ、俺は弱い。
底辺の錬金術師なのだ。
だがそんな俺でも、強いパーティに潜り込めば新世界に渡ることができる!
なぜならパーティの平均値が基準だからだ!
「そこで質問なんだが……お前たちの冒険者ランクを教えてくれないか」
この街の周辺で活動しているなら、自動的にランクが割り振られるはずだ。
俺の言葉にリュッカが手をあげた。
「わたしはAランクッスよ」
「おお! マジかよ!」
これはとんでもない拾い物だ!
Aランクともなるとほとんどが新世界に行ってしまうことが多いので、街でパーティを組めることはほとんどない。
Aランクと組めるだけで、冒険者見習いにとっては栄誉と言ってもいいだろう。
「わたしこの辺の賞金首を狩り尽くしたので、自然とAランクになってたんスよね。中にはマフィアのボスとかもいて」
「そっか! でもなんかヤバそうな話だからその先は詳しく聞かないでおこうかな!」
「命乞いを聞いてあげる代わりに別の組が手を出そうとしてるヤバイ裏家業とかも聞いちゃったんスけどねぇ」
「あー聞こえない聞こえない!」
俺は彼女の言葉を遮る。
今なにか俺も命を狙われかねないようなヤバイ事を聞いてしまった気もするが、きっと気のせいだろう。
……どうせ新大陸に渡ってしまえば関係ない事だし!
俺は自分にそう言い聞かせながら、ミユサとエルンの方を向く。
「それで、ミユサとエルンはどうだ?」
俺が話を振ると、二人は顔を見合わせた。
「わたしたちはこの街に来てからそんなに冒険してないのです」
「ボクも前のパーティで本格的に活動する前にクビにされたからな」
「……ということは、俺と同じEランクか」
俺はそう言って腕を組む。
噂ではミユサはSランククラスの実力を持つと聞くし、俺の呪いをシーブルムに返したその腕前は本物だろう。
その連れであるエルンもまた、同程度の強さでもおかしくない。
つまり彼女たちはまだ、この街で評価されていないのだ。
現在のパーティランクをまとめると、A・E・E・Eで、平均ランクはD。
これを平均Bランク以上に上げなくては、新大陸には挑戦できない。
「なら方法は一つ……ギルドの依頼をこなすんだ」
俺は三人に向かって提案する。
「地道な方法だが、少しずつ依頼を受けていけばそのうちランクは上がる。……なに、俺たちならきっとすぐに渡航可能ランクになれるさ!」
俺はそう言って前向きに三人を励ました。
すると三人は俺の方を見て頷く。
「ちょっと面倒くさいですね」
「ボクがやらなきゃダメなの?」
「強い人と戦うならいいッスけどそれ以外はちょっと」
「……お前ら、協調性なさ過ぎるだろ!!」
俺は机に顔を突っ伏した。
……そうだ。忘れていた。
こいつらはギルドの問題児なんだった……。