7 呪い返しの専門家
「兄弟子に対して呼び捨てとは、生意気なヤツだなぁ? キミさぁ、こっちはBランク冒険者様だよ? わかってんの?」
俺に声をかけてきたのは、昨日イヤミを言ってきたシーブルムだった。
彼はこちらに近付いてくると、ミユサたちの方に目を向ける。
「キミたちもさ、こんなヤツと付き合ってたら自分たちの評判が下がっちゃうよ? 悪いこと言わないからやめときなって」
シーブルムの言葉にミユサが反応する。
「いえ? わたしと旦那様はお付き合いどころかもう婚約までした仲ですが?」
「は? へ?」
「男だからって旦那様に色目使うのは許しませんですよ? お?」
ミユサの睨み付けながらの婚約宣言に、シーブルムは目を丸くした。
俺はミユサをなだめるように口を開く。
「……いや、あいつが言った『付き合う』っていうのはそういう意味じゃなくて……話がややこしくなるからミユサは黙ってような――」
「――いえ、ですが旦那様。そもそもわたしは呪いを悪用する者を放ってはおけないのです」
そう言うとミユサは立ち上がった。
シーブルムはそれを鼻で笑う。
「ふ、ふん……呪い? 何を言ってるのかサッパリ――」
「――どこで習ったのかは知りませんですが、おあいにく様です。あなたが旦那様にかけた呪いは全て解かせていただいたのです」
「……な、なんだと……!? いや、その……」
シーブルムは一瞬驚いた後、言葉を言い淀ませた。
「……な、なんのことかわからんなぁ! お、お、おいシン! なんだこの失礼なヤツは!」
シーブルムは俺に助けを求めるが、正直言って俺もよくわかっていない。
……だが一つわかるのは、彼女が東方の賢者と呼ばれるほどの呪いの専門家であるということだけだ。
ミユサは右手でシーブルムを指差した。
「生半可な呪詛は、呪い返しを受ければ自らに降りかかる。――どうぞ、末永く……お呪われください」
「な……にを……言って――!」
ミユサは邪悪な微笑を浮かべる。
シーブルムが何かを言い返そうとしたそのとき、ギルドの扉が勢いよく開かれた。
「――おい! シーブルム! シーブルムはいるか!」
「ど、どうした!?」
シーブルムが振り返る。
どうやら彼の知り合いのようだった。
「そんなに急いで、何かあったのか?」
「バカ! 『何かあったのか?』じゃねぇよ! お前の家……燃えてんぞ!」
「……は!?」
入って来た男のもとに、シーブルムが駆け寄る。
「家って……俺の建てたばかりの豪邸がか!?」
「それ以外に何があるってんだよ! おい、お前今回の冒険で持ち帰った宝はどうした!? まさか……!」
「い、家の宝物庫に置いてある!」
「このバカ野郎! なんでまだ換金してないんだ! 換金はお前の仕事だろうが!」
顔を真っ青にしたシーブルムは男に腕を引かれ、ギルドの入り口へと向かう。
そして出る直前に、こちらを振り返ってミユサの方を指差した。
「お、おまえっ! その……覚えておけよ!」
「……いいからさっさと行くぞ! バカ!」
男に言われて、シーブルムは引きずられるようにしてギルドを出ていく。
「……お、俺の豪邸がぁ……! ローンもまだ残ってるのに~……!」
力無いシーブルムの言葉だけが、空しくギルドのエントランスに響いた。
ミユサは誇らしげに胸を張ると、俺の方にその顔を向ける。
「……どうですか? 旦那様」
俺は呆気にとられていた。
……ミユサの言葉から推測するに、俺を呪っていたシーブルムに呪いが返却されたということだろうか?
……ていうかアイツが俺に呪いをかけてたの?
マジ?
一度に色々な事が起こって、理解が追いつかない。
……だが、一つ言える事がある。
「――シーブルムの焦った顔は、傑作だった」
俺はミユサに向かって親指を立てる。
「……グッジョブ、ミユサ」
俺は笑う。
するとミユサもまた、満足げに笑って親指を立て返すのだった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ミユサ・アマナ
筋力 E
ひよわです
体力 E
ひんじゃくです
器用 D
花嫁修業はしてるです
魔力 SS
百年に一度の逸材らしいです
直感 D
東方では虫の知らせと呼びますね
偏愛 SSS
――愛というのは呪いに近いものだと思うのです
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