6 反転の祝福(ギフト)
俺は気を取り直しながら、自己紹介を続ける為にもう一人の金髪の女剣士に視線を向けた。
すると彼女は頷いて、自ら自己紹介を始めてくれる。
「どうも皆さんよろしくお願いします! 改めまして、わたしの名前はリュッカです。リュッカ・カロン! 見ての通り前衛でして、武器はあらかた使えるッスよ!」
「おお、そうなのか! なんて頼もしい!」
「趣味は戦うことッスね! 戦うのは楽しいッス!」
「そうかそうか。新大陸は強いモンスターがいっぱいいるらしいから、相手に不足はしないぞ!」
「はい! 全員と戦ってみたいッスね! あっちで生き残ってるって事は、つまりモンスターよりも強い人たちってことですし!」
「うーん。ナチュラルに冒険者を戦う相手の中に含めるの、やめよっか? 戦うのはモンスターだけにしようね?」
……やべぇよこいつ。
目を離したら冒険者にも斬りかかっていきそうだ。
俺は胃が溶けそうな気持ちになる。
俺、本当にこいつらとパーティ組むのか?
……まあ気持ちを切り替えよう。
次はいよいよ俺の自己紹介の番だ。
俺は咳払いしつつ、自己紹介を始めた。
「俺はシン。シン・ノクス。錬金術師をやっていて……その、簡単なポーションぐらいなら作れる」
そう言った俺の顔を、三人はじっと見つめてくる。
……以上なんだが?
……。
他に言えるような特技とか、ないんだが?
……。
なんでお前ら黙ってこっちを見つめてくるの?
沈黙に耐えきれず、俺は口を開いた。
「えっと……パーティを組むのには慣れてるから……何かあったら言ってくれ。手続きとか雑用とか……そういうの……俺、得意だから……」
正確には得意なわけではない。
ただ単にずっとやらされてきただけだ。
100回クビにされた、元パーティの中で……。
いたたまれなくなった俺が床をじっと見つめていると、突然ぐいっと頭を引っ張られた。
「うわっ!?」
「……旦那様、かわいそうに。そんな卑屈になって」
ミユサは俺のことをギュッと抱きしめた。
……胸がっ! 背が低いのに胸がデカい!
……落ち着け!
ここで平常心を失ってしまえば、変態扱いされてしまう!
特にここは女性だらけのパーティ!
「変態」とか「キモい」とか言われて、追い出されてしまうのは確実……!
俺がそんな葛藤を抱え硬直していると、ミユサは腕の締め付けを緩めてくれた。
「でも旦那様がこれまで経験した苦労は、きっとこれからの力になるのです」
「……たしかに雑用とか理不尽な扱いに耐える力は鍛えられたと思うが」
「いえ、違います。先ほど言ったように、追放の呪いを逆転した力です」
「逆転の力……って本当に? それはいったいどんな力なんだ?」
俺は半信半疑でミユサに尋ねる。
すると彼女は首を傾げた。
「さあ……?」
「わかんないの!?」
「わたしが与えた力とは言っても、それは旦那様の適性に合った祝福が自然に使えるようになるだけで、詳しいことはわたしもわからないのです」
「……祝福? 祝福ってもしかしして……あの『ギフト』か? あれって生まれ持った特殊能力じゃないのか?」
祝福とは、名前の通り神から授かった祝福とされる特別な力のことだ。
魔法や剣技とはまったく系統が異なる力のことで、一部の人間が持っていること以外に詳しいことは解明されていない。
ミユサは俺の言葉に笑みを浮かべる。
「はい。祝福は後天的にも得ることができるです。その一つが呪いの反転。旦那様に溜まった数年分の呪いは、経験値と言われる祝福の力の源泉となるのです」
「……そんなことが」
……東方の賢者、スゲー物知り!
なら俺にもめちゃくちゃ凄い力が宿っている可能性もあるってことか――!?
ワクワクしてきた俺の後ろで、それに水を差すような聞き覚えのある声がした。
「――おやおや? 見習い錬金術師が騒がしいねぇ。またパーティごっこをしてるのかい? 健気だねぇ」
俺が振り返ると、そこにはニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべた金髪の男が立っていた。
「……シーブルム」
それは昨日も会った、イヤミな兄弟子の姿だった。




