5 自己紹介こと事故物件紹介
「と、とにかく自己紹介をしてみるか!」
俺は三人に向かってそう言った。
もしかしたら百万分の一ぐらいの確率で、俺が何か三人の事を勘違いしている可能性もある。
みんな実は、いい人なのかもしれない!
するとまずミユサが手をあげた。
「ミユサです。ミユサ・アマナ。東方のヒノボシの国から来たです。まだちょっと言葉に訛りがあって恥ずかしいですが……。あ、そうです、シンさん――じゃなかった、旦那様とは将来を誓った仲です」
「いやー、そうなのか!? 俺も初耳だなぁ! ジョークが上手いよミユサは! ははは、東方の賢者なんだって!? 噂は聞いてるよー!」
俺は彼女の熱烈なアピールを、笑ってごまかすことにした。
――俺は絶対パーティメンバーと、男女の関係にはならないぞ。
これは俺が60回目のパーティを追放された辺りから心がけているルールである。
……男女関係は、パーティ崩壊のきっかけになりやすい!
100回も追放を経験した俺にとって、それは常識的なことだった。
俺がそんなことを考えていると、同じテーブルに座るリュッカが「面白い人ッスね!」と笑う。
……よし、完璧にごまかせたな!
やや不満そうな顔をしているミユサを無視して、俺は次に仮面をした黒装束に視線を送って「じゃあ次は……」と先を促した。
すると彼女はこちらに視線を返して、言葉を発する。
「……なんだ? こっちをじろじろ見るなよ、気持ち悪いな」
「察しろよ! 自己紹介だよ! 次はお前の番だよ!」
「ええ……? ボクなんかの事を知って、いったいお前は何をするつもりなんだ……?」
「パーティを組むつもりだよ!! 仲間同士の円滑なコミュニケーションの為に自己紹介は必要だろ!?」
「……そうなのか? それは全然考えた事なかったな……」
こいつはこれまで人間と会話をしたことがないのか?
そんな疑問が浮かぶ俺をよそに、彼女は自己紹介を始めた。
「エルンだ。エルン・リュウガサキ。ミユサと一緒に国を出て来た。見ての通り、一応女だ」
……見ての通りも何も、仮面してたらわからんが。
俺はそう言いたくなるのをぐっとこらえて、彼女を褒める。
「よ、よし。いい自己紹介だったぞ。ちなみにお前はパーティではどんなことができるんだ?」
「は? ……殺してやる」
「なんで!? 今の会話で俺に殺意を抱く場面あった!?」
俺の言葉にエルンは「あっ、えっ」と言葉を詰まらせた。
横からミユサが口を挟む。
「エルンちゃんは暗殺者なのです。今のは『気に食わないヤツがいたら誰でも殺してやるよ?』っていう意味で……」
「口下手が過ぎるだろ!」
雑に褒めたのが気に障ったのかと思ったわ!
……それにしても、暗殺者か。
「その口ぶりだと、結構腕には自信があるのか?」
「……お前の体で試してやろうか?」
「できれば他の方法で教えて欲しいんですが。ていうか言葉で説明してくれるのが一番いいです」
思わず敬語になる俺に、エルンは「難しいな……」とつぶやいた。
難しいのかよ。
そして彼女は少し考えると、唐突に懐から白い布を取り出してこちらに見せた。
「これをやろう」
「なんだこれ」
俺はそれを受け取る。
広げると、縫合されたその布には三つの穴が空いていた。
この形には見覚えがある。
「……え? パンツ……?」
俺がそう言うと、同時に隣に座っていたミユサがスカートを押さえる。
「……エルンちゃん! まさか!?」
「ミユサのパンツだ。いままで履いてたやつだぞ」
「マジか!? うおおぉい!?」
俺が慌ててテーブルの上にパンツを放り投げると、ミユサがそれをキャッチして握り隠した。
……正直ちょっと嬉しかったけど!
でも俺が持ってたらヤバイだろ!
何も言わずに手渡すなよ!!
「……と、ボクはこういう事ができる」
「エルンちゃんはなんでいっつもわたしのパンツで試すんです!?」
いつもやってんのかよ。
ミユサが真っ赤になって泣きそうになりながらそう言うと、エルンは頭を掻いた。
「前、初対面の人にやったら怒られたから……」
「わたしだって怒るですよ!?」
当然だろう。
ミユサは恥ずかしそうにスカートを押さえる。
……ミユサはなんだかミステリアスな子だと思っていたが、二人の様子を見ていると彼女も人並みの少女なのかもしれない。
そんなことを考えながらミユサを見つめていると、こちらの視線に気付いたミユサにプイと視線を逸らされる。
……あ、そうか。
今彼女は下着を着けていないのか。
しまった、ジロジロと見ていたらセクハラになってしまう。
セクハラには気を付けないと……パーティ崩壊の原因の一割ぐらいはセクハラ関連だからな……。
……もちろん俺がしたわけじゃない。
いつも巻き込まれていただけだ。
自己紹介はこれで四人中の半分が終わった。
しかしそれだけで、早くも前途多難の雰囲気を感じるのだった。