↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

36/38

36 吸血鬼とバーサーカー

「……人型の凶悪モンスターと出会えるなんて、運が良いッスねぇ。大陸に来て良かった……」


 リュッカはそう言うと、剣を構えて楽しげに笑った。


「この肌が焼けるようなチリチリとした感触に、背中に走る死の気配――!」


 リュッカは奥歯をカチカチと鳴らす。


「”生きてる”……って気がする!」


 ……完全に目がキマっているリュッカを見ながら、シャロンは目を細める。


「……さては死にたがりの人間ね? たまに見るわ」


 そう言うと彼女はその顔に妖艶な笑みを浮かべる。


「なら私の血の眷属としてあげましょうか? それなら、永遠に戦い続けることが――」


 彼女が言い切る前に、リュッカは飛びかかっていた。

 その剣を顔の前で受け止めつつ、シャロンは苛立たしげな表情を浮かべる。


「……情緒がないわね」

「え? 今なんか言ったッスか? お喋りしてると舌噛むッスよ」


 リュッカは自分で剣を振りつつそう言いながらも、二撃、三撃と打ち込んでいく。

 間髪入れないリュッカの剣をシャロンは受け止めながらも、後ろへと下がっていった。


「ありゃどっちが魔物だかわからんな……」


 踊るように剣撃を繰り出すリュッカに押されて、シャロンは顔を歪める。


「この……! 調子に乗るな!」


 シャロンが目を見開くと、その眼球に魔法陣が浮かんだ。


「――ドミネーション・エア」


 シャロンの呪文と共に真空の刃が発生し、リュッカに襲いかかる。

 しかしリュッカはそれに向かって前進した。


「……いいッスね! そうこなくっちゃ!」


 何本かの切り傷を負いながらも、器用に風の刃を避けつつ距離を詰めるリュッカ。

 シャロンはそれに舌打ちしながらも、爪で防ごうと構える。

 しかしリュッカは踏み込むと同時に笑った。


「――オラぁぁぁあ!」


 リュッカの肌に、呪われた刻印の紋様が浮かび上がる。


「なっ……!?」


 一閃。

 シャロンの爪が斬り裂かれ、その右腕が宙に飛んだ。

 ――しかし。


「エア・シュート!」


 シャロンの風の魔法が炸裂して、リュッカを弾き飛ばす。

 リュッカは三回ほど地面に転がりながらも、砂煙をあげつつ立ち上がった。


「あはははぁ! まずは一本! まさかこれで終わりじゃないッスよね!?」

「この……人間如きが!」


 シャロンがそう言うと、リュッカに切断された部分から瞬時に腕が生える。

 吸血鬼の尋常じゃない再生力……!


 だがリュッカはそれに怯まず、再度踏み込む。


「まだ……戦えるッスよねぇ!?」


 リュッカの剣はシャロンを攻め続ける。

 それにシャロンは顔を歪めた。


 そんな様子を見つつ、ミユサが呟く。


「――このままではまずいですね」


 ミユサは目を細めて、二人の動きを追っていた。


「相手は再生を行っているのでダメージはありませんが、リュッカさんの受けている傷は決して浅くありません」


 見ればリュッカの足元からは血が流れ出ており、風の魔法で無視できないほどのダメージを受けていることがわかる。


「なら援護しないと……!」


 そう俺が言うと同時に、眼前に別の奴らが立ち塞がった。


「ぐ……ぉお……!」


 白眼を剥いてだらんと立つのは、シャロンが連れていた屈強な者たち。

 血の眷属……とか言ったか。

 おそらくシャロンに操られている下僕だ。

 俺は舌打ちをしてそいつらに対峙する。


「こいつらを何とかしないと、いくらリュッカでも長くは持たなそうだな……!」

「旦那様はご無理なさらずにです」


 ミユサが懐からいくらかの式札を取り出す。


「相手が鬼というなら、いくつか手段は持っているです」


 そう言って彼女は式札を頭上へと放り投げる。


「鬼(き)門(もん)封(ふう)縛(ばく)呪(じゅ)――聖(せい)天(てん)不(ふ)動(どう)王(おう)!」


 ミユサの言葉と共に光が降り注ぐ。

 その光は槍となって、血の眷属たちを貫いた。


「ぐぉお……!」


 ミユサの光の槍により、三体の眷属たちが地面に這いつくばるようにして串刺しになった。

 それを見たキュエリが横から声をあげる。


「……あなた、呪いに特化した魔術師かと思ったら戦闘も得意なのね……!」

「いえ、これはどちらかというと呪いに近いものですよ」


 ミユサはそう言って、地面に這いつくばる眷属たちを指差した。

 よく見ればその槍は体を貫通はしているものの、皮膚を傷付けていない。


「……血が出てないな。この光の槍、こいつらを押さえ付けてるだけなのか」

「はい。我が家に伝わる昔ながらの技で、相手が”鬼”であれば無力化することができるです。……とは言ってもほとんど魔力を使わない術ですし、あちらの親玉の方にも効くとは思えませんが」


 なんでもないように言うミユサに、キュエリが引きつったように笑う。


「吸血鬼の眷属だって普通の冒険者にとったらとんでもない化物だっての……。もう、何が来ても驚かないけど」


 俺は眷属たちが倒れている隙に、リュッカに向かって走り出す。

 懐から、残っていた☆5ポーションを取り出して彼女に投げつけた。


「――リュッカ! 使え!」


 そのときリュッカは血だらけでシャロンと切り結んでいた。

 普通なら、後ろから投げられたポーションの瓶に構うことなどできないだろう。


 ――だが、リュッカは普通ではない。


「はいッス!」


 リュッカはそう言うと、振り向きもせずに後ろ手に拳を放った。

 その拳は投げつけたポーションの薬瓶を叩き割り、その薬液をリュッカの体へと浴びせる。

 それを見て声をあげたのは、対するシャロンだった。


「……なっ!?」


 リュッカの傷付いた体が見る間に治っていき、削れた肉が盛り上がり皮膚が再生する。

 吸血鬼は再生能力を持つが、だからと言って再生能力がある相手と頻繁に戦ったりするわけでもないだろう。


 シャロンの瞳に恐怖の色が見えたのは、遠くから見る俺にもわかった。


「……ま、待ちなさい!」


 シャロンが叫ぶ。

 しかしリュッカは構わずシャロンの腕を切り飛ばした。

 ……聞こえてないらしい。


「待ちなさいって言ってるでしょこのバカぁ!!」


 シャロンは涙目になりながらも後ろへと大きく跳ねる。


「あなた……ちょっとそこの後ろの人! そいつ止めなさい! さもないと、人質の命がありませんよ!?」

「……人質!?」


 キュエリの表情に動揺が走る。

 それをシャロンは見逃さなかった。


「そう! あ、あなたの仲間! あなたと共にこの大陸へと渡ってきた二人……! 彼女たちは今も地下に隠していて――!」


 シャロンは腕を再生しながら叫ぶ。

 だがその言葉を遮る声は、別の方向から聞こえた。


「――なんだ、こいつら隠してたつもりだったのか?」


 シャロンがその声に振り返る。

 するとそこには、別方向から来る敵を処理しに行ったはずのエルンの姿があった。

 その後ろには数人の痩せ細った女性たちが、互いの体を支えるようにして立っている。


 彼女たちの前に立ったエルンが、呆れたように言った。


「隠していたにしては随分とわかりやすい場所にいたな」

「そん……な……」


 シャロンはそんなエルンの姿を見てつぶやく。

 俺はそんな彼女に、声をかけた。


「あ、前。注意した方がいいぞ」

「……え?」


 シャロンが俺の言葉に振り向くのと、リュッカの拳がその鼻頭を砕くのは同時だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。