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31 オーリンズの平和に感謝を

「よう、ルーキー! 生きてたか!」


 俺たちが冒険者ギルドへと戻ると、レンダーはそう言って出迎えてくれた。

 ギルドの中には十数人ほどのマフィアたちが拘束され調書をとられており、中には傷の手当を受けている者もいた。


「いやあ……大変そうですね」

「なに、いつものもんさ」


 ギルドがいつもこんな状態だとすると、どうやら仕事に困ることはなさそうだ……。

 圧倒される俺に、レンダーは笑った。


「それでそっちの戦果はどうだ。一人でも捕まえられたか?」


 レンダーの言葉に俺は内心胸をなで下ろしていた。

 どうやら新人に期待される成果はそれぐらいのようなので、今回の依頼は成功と判断してもいいだろう。


「それがちょっと問題があって……」

「問題? どうかしたのか?」

「……ギルドの中に入れちゃったら混雑しそうなんですよ。三十人近くいるので」


 俺の言葉にレンダーは鳩が豆鉄砲(ゴブリンが炎魔法)を喰らったような顔になった。


 彼と共に玄関まで行き、外に並んだマフィアたちの顔を見せる。


 マフィアたちはギルドの前に大人しく整列していた。

 彼らはミユサの呪術によって拘束され、また中にはこちらに恐れをなして自主的に他者の捕縛に協力する者もいた。


 ……何せ逃げ出そうとしたら即座に追撃しようと待ちわびるリュッカが隣にいるのだから、彼らには反抗する気一つ起きない。

 そうしてマフィア自身に捕らえさせたマフィアも含め、ちょっとした小隊程度の一団がギルドの前にできていたのだった。


「……すげぇな。今まで初仕事からこんな成果をあげる大型ルーキー、いなかったぜ」

「うちのパーティ、ちょっと規格外なんで」


 俺は素直に自慢する。

 普通であればそんな実力を無駄に誇示するような事を喧伝しても目を付けられるだけで、利益はない。

 だが仕事相手となれば話は別だ。

 こちらの実力を正当に評価してもらわないといけない。


 レンダーは腕を組むと、その顔に感心した表情を浮かべた。


「いや助かった。ここまで数を減らせれば、双方のチームともやりにくくなるはずだ。手足になるコマが減るのは、組織としては致命的だからな」


 レンダーはそう言うと手を差し出してくる。

 俺がそれを握り返すと、彼は笑った。


「オーリンズの平和に感謝を。ありがとう」

「……どういたしまして」


 おそらくそれはこの街特有の決まり文句なのだろう。

 ……それが定型文になるぐらいは、この街の治安が悪いという事でもあるが。


 俺たちはギルドの職員に協力して、捕まえたマフィアを引き渡した。

 あまりにも人数が多すぎて、それらの作業が終わる頃には夕方ちかくになっていた。

 彼らを捕まえる為に街で暴れた時間と同じぐらいの時間がかかったようだった。



 * * *



「……大金だ」


 報酬は多すぎた為、四人分の口座を作ってもらい半分以上の金額はギルドに預けることにした。

 幾ばくかの報酬を現金でもらう俺たち。

 ……少なくともこれでしばらくは寝る場所や食事に困ることはなさそうだ。


「まともな宿に変えないとな」

「……わたしはそのままでもいいと思うのですけど」

「ははは」


 ミユサの言葉に俺は乾いた笑いを返す。

 実際問題として、プライバシー以外にもセキュリティの面でも不安は残るし、ボロ宿の狭い一室にいつまでも世話になるわけにはいかない。


 それにしてもミユサはともかく、エルンもリュッカも俺のことを男として見てないのだろうか。

 楽といえば楽なのはたしかであるが、複雑な気持ちにならないわけでもなかった。


「……前のパーティとは大違いだな」


 俺のつぶやきに、ミユサが首を傾げる。


「旦那様が追放されたっていうパーティですか?」

「ああ」


 ふと追放されたパーティのうちの一つを思い出す。

 あのとき追放されたのは、たまたま男は俺一人のパーティだったのだが……。


「パーティメンバーが男嫌いでな……。どんなに危険な場所でも、俺は一人別で寝る必要があった」

「旦那様……可哀想に……。ならやっぱりその分、今はミユサと一緒に寝る必要があるのでは?」

「いやその理屈はおかしくないか?」


 俺とミユサがそんなやりとりをしていると、ギルドの別の窓口から女性の声が聞こえてきた。


「――それはっ……! 困ります……! お願いです、助けてください……!」


 見ればそこには、メイドのような姿をした金髪の女性の姿がある。

 ……あの顔、どこかで見たことあるような。

 俺は少し気になって、何やら揉めている彼女のもとへ近付いた。


 俺が近付くと、彼女はこちらに気付いて振り返る。

 青い瞳に端正な顔立ち。

 右耳に付けた特徴的な星型のピアスが、俺の記憶を呼び起こした。


 彼女の名を口にする。


「……キュエリ」

「あなたは……もしかして……シン……?」


 俺は思わず顔をしかめる。

 なぜならその女は、以前組んでいたパーティで俺を追い出した張本人だったからだ。

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