11 追放職人の錬金術師
「お、俺が作ったのか……? 昨日は何してたっけ……ええっと……」
目の前にある☆5ポーションを見ながら、俺は寝る前の事を思い出す。
昨日はエルンが来ていたんだ……それで……。
* * *
「こっちの黒い液体はなんだ?」
「それは廃液……つまりポーションには必要ない不純物だな」
「なるほど。お前みたいな不要品のことか」
「お前俺にケンカ売ってるんだよな? わざとだよな?」
ポーションの精製器を見ながら、エルンと俺はそんな会話をしていた。
エルンは錬金術に興味があるのか、さっきからじっとポーションが出来る過程を眺めている。
「俺だってパーティに役立てるように頑張ってたんだよ。だけど錬金術ってのはそんな簡単に習得できるもんでもなくて……」
「それで追放されまくったわけだ」
「お前は今度から特技を聞かれたら『死体蹴り』って答えるといいぞ」
耳の横から伸びた長い銀髪を揺らしつつ、機嫌良さげにエルンは口を開く。
「でもお前はミユサに『追放』の祝福をもらったんじゃないのか?」
「え? ああ。なんだ突然。まあ、そうらしいな。ただしそれがどんな力なのかはさっぱりわからないが」
俺の言葉にエルンは眉間にしわを寄せた。
「やってみたらいいじゃないか、追放」
「追放って、何をだ? お前を部屋から追い出せってことか」
「……お前ボクのこと嫌いなのかよ」
「これまでのお前の言動を思い返せ。そして俺に好かれているか、自分の胸に手を当てて考えてみろ」
俺の言葉に彼女はぷくぅ、と頬を膨らませた。
「ふんだ。ボクはお前なんかに追い出されるほどヤワじゃないけどな。……そうじゃなくて、これだよこれ」
エルンはそう言うと、爪の先でポーションの精製器をカツカツと軽く叩いた。
「このフジュンブツってヤツは、不要品なんだろ? お前みたく」
「最後の一言は余計だ」
「だったら、お前の祝福で『追放』したらいいじゃないか」
「……はは。簡単に言うけど、錬金術はそんな単純じゃないんだよ」
混合物の分離は至難の業だ。
薬草から成分を抽出して☆1ポーションを作るのだって、何百年何千年という時間をかけて過去の錬金術師たちが編み出した技法なのである。
それをそんな簡単に実践できるはずがない。
「それにその祝福とやらの使い方もわからないしな」
俺はデコピンするように親指と人差し指を合わせた。
「こうやって……『オラッ! お前は追放だ!』……なーんて言ったところで――」
俺がフラスコを軽く指で弾いた瞬間、精製中のポーションの中に大きな泡がボコリと浮かんだ。
「うおっ」
思わず声が出る。
泡が飛び出るとフラスコの中の空気が赤黒く染まった。
……やべ、なんだ!? 失敗か!? 手順はミスってないはず……!
焦る俺の横で、エルンは「おおー」と声をあげる。
噴き出した赤黒い空気が行き場を失って、フラスコの中で膨張する。
――ヤバイ!
俺はとっさに装置を止めて、配管を外した。
ぷしゅ、という音と共に部屋の中に赤黒い気体が漏れ出る。
エルンが顔をしかめた。
「……臭」
「体に害はないが、良いものってわけでもないからあまり吸わないようにな」
俺は袖で自分の鼻と口を押さえる。
窓を開けて、換気を行った。
「……はぁ。いったいなんだったんだ。調合のやり方は間違えていないと思うんだが」
「――ほら、できたじゃん」
「ああ? できたって何が……」
エルンの言葉に振り向くと、精製されたポーションの様子が変わっていた。
まずその量が減っている。
本来なら今使った材料なら一本分ぐらいの☆1ポーションができるはずだ。
だというのに、そこに残っていたのは十分の一ほどの量の液体だった。
そして次に、その色だ。
それは俺の知る☆1ポーションとは違う、深い青色をしていた。
「こ、この青色は……まさか☆5ポーション……?」




