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1 101回目のパーティ募集

「――てめぇ! なんだこりゃあ!」


 ガシャン、と俺の作った薬の(びん)が地面に叩き付けられる。

 中に入った液体がぶちまけられてしまった。


「な、何ってそれはポーションで……」

「嘘つけ! てめぇ失敗しただろ! こんなマズイポーションがあるか!」

「や、薬効(やっこう)は他と変わらないはずなんだが……!?」


 俺は地面に散らかったガラス片を拾い集める。

 ガラスを溶かして再利用する為だ。

 それにしたって、何も割らなくてもいいのに。


 俺に向かって瓶を投げつけた男は、足元にツバを吐き捨てる。


「何かにつけて口答えしやがって……! その目つきが気に入らねえんだよ! 行き場のないお前を拾ってやったのは誰だと思ってやがる!」

「……すみません」


 俺は言い返したくなるのをこらえて謝った。

 男は舌打ちする。


「もういい! てめぇなんてどこへでも行きやがれ! うちのパーティに、てめぇみたいなへっぽこ錬金術師の席なんてねぇんだよ!」

「そ、そんな! 待ってください!」

「……は、な、せ!」

「――ぐっ!」


 突き飛ばされ、地面に尻餅をつく。

 見れば男は既にその場から立ち去っていた。

 こうなっては、追いすがったところで俺がパーティに戻れる可能性はないだろう。


「……ちくしょう、ちくしょう……!」


 そうして俺はパーティを追い出された。

 それはギルドに登録してから、通算100回目の追放だった。


「……もう、冒険者を目指すのやめようかな」


 俺は一人、路地裏で地べたに座りながら空を見上げる。

 幼い頃、同じく星空の下で冒険者になる夢を父と語ったことを思い出すのだった。




 * * *




 ――海の向こうの大陸には、楽園が広がっている。


 この国には古くからそんな伝説があった。

 その伝説が本当に実在するとわかったのは、つい30年程前の事。

 野心を持つ者は宝を求めこぞって新大陸へと向かい――そして誰も帰ってこなかった。


 だが人々は多くの犠牲をいながらも次第に攻略を進めていく。

 そしてその恐ろしさが判明するに連れ、無駄死にしないようにと時の国王は渡航(とこう)する為の条件を法律で制定した。




 そんな国で育った俺、シン・ノクスは当然のように新大陸の探索者――”冒険者”に憧れていた。


 冒険者になるには、ギルドに登録して最低四名からなるパーティに入る必要がある。

 他にも条件はあるのだが、そこがまず最初のスタートライン。


 命を預けられる実力を持った仲間たち――それを持っていることが、冒険者になる最低限の条件だった。




 ――そんな冒険者を目指し始めて、既に三年の月日が経過していた。





「おお、なんだ見習いのシンくんじゃないか! またパーティを追放されたんだって? これで何度目だい?」

「……100回目、です」


 ギルドの受付に行った俺に話しかけてきたのは、俺が冒険者を目指し錬金術の師匠に弟子入りしたときの兄弟子(あにでし)だった。

 名前をシーブルム・タクトンと言う。

 貴族出身らしく横柄(おうへい)な性格なヤツだったが、錬金術師としての腕は確かだった。


「そうだお土産をやろうか! 新大陸で採れた果物だ! とっても甘くて美味しいんだよ!」


 そう言って彼は硬い木片のような物を地面に投げ捨てた。


「……ま、果肉の方はもう食べてしまったんだけどね! 君みたいな見習いには皮で充分だろ? どうぞ、それを持ち帰っておうちで研究でもしていたまえ! ハハハハ!」


 俺は(くや)しさに奥歯を噛みしめる。

 シーブルムは国にその功績(こうせき)を認められたBランクの冒険者だった。

 (すで)に何度も冒険をしては珍しい物を持ち帰っている。


 こんなヤツが俺の憧れた冒険者の一人だなんて……!


 俺は諦めかけていた心を再び(ふる)い立たせる。

 俺は彼を無視して、再度受付に向かって歩き出した。


「……おやおや、諦めが悪いねぇ。まだ冒険者になろうってのかい。剣も魔法も才能がなかったから錬金術を学んだだけの、半端者(はんぱもの)のくせに」


 後ろからシーブルムが侮蔑(ぶべつ)するようにそう言った。

 ……それがどうした。俺には、それしかなかったんだ……!


 俺は彼に殴りかかりたくなる気持ちを抑えながら、受付のお姉さんに向かって言った。


「新しく錬金術師を募集しているパーティはありませんか。……雑用でもなんでもやります」


 俺の言葉に彼女は困ったような顔をする。

 もう100回繰り返した行為だ。

 俺はギルド常連となっており、顔と名前も……そしてその悪評(あくひょう)も知れ渡っていた。


 当然だ。100回もパーティをクビになったのだから、噂も立つ。

 俺としてはそんなつもりはないのだが、性格が悪いだとか気が()かないとか、ミスが多いだとかのさまざまな噂が立っていた。

 ギルドとしてもそんな俺の扱いに困っているようで、遠回しにパ-ティの紹介を断られたこともある。


 ……だが俺は諦めない。

 絶対に諦めるもんか……!


 受付の彼女は手元の書類に目を向ける。


「今ご紹介できるパーティ募集なんて……ああ、一つだけありますね。パーティ募集というか……ちょうど空いている人たちがいて新たに結成できそう……という募集ですが」

「ほ、本当ですか!?」


 俺はそれに食い付く。

 彼女は苦笑しつつ頷いた。


「……ええ。運悪く(・・・)、一つだけ」


 俺は彼女の言葉に首を傾げる。

 ……それを言うなら、「運良く」なのでは?

 だがそんなことはどうでもいい。


「……紹介してください! 俺に!」


 彼女は俺に向かって頷く。

 後ろからシーブルムの舌打ちが聞こえた。

読んで頂きありがとうございます。

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