第8話 妖怪達の相談事
週末になると魅雲が言っていた妖怪達が守の部屋に来ていた。
顔ぶれがどう考えても伝承に伝わるモノ達で、座敷童子・河童がそして如何言う訳か、海外のハーピーまでもがいる。
「一体どんな組み合わせ?」
『そっちの羽持ちは我にはわからんのう、何者じゃ?』
「西洋の妖怪だね。ハーピーで合ってるんじゃないかな? それにしても、座敷童子って東北以外にもいたんだ。あー、取り合えず適当に飲み物ときゅうりでいいかな? 取って来るよ」
いうやいなやそそくさと台所に向かう守。
人が妖怪を受け入れる為におもてなし用のお茶を容易する、と見せかけての逃走だ。彼からしてみればこれ以上周囲が妖怪だらけになられても困る話ではある。
「うちの幼女に相談なんだろうけど、駆け込み寺みたいになったら困るな」
「きゅ?」
「あぁ大丈夫だ気にするな、たまりは俺の家族だからな」
困るという言葉に、自分は居て良いの? と気にしたたまりに大丈夫とフォローする守。たまりも妖怪だから気になってしまったのだろう、最近守の所に着たばかりか些か守の発言は時期が悪かった。
「さてはて……お話が軽い感じだと良いんだけどな」
「きゅー」
そうだねっと同意するように鳴くたまりにほっこりしながらも、水が沸くのを待つ守だった。
そして一柱と三匹はというと。
『あの霊団の所為で居場所を奪われたと』
「そうなんですよ、妖怪同士で安全そうな場所を取り合ってるような状態でして」
『……うちの家も……壊された』
「あたいはあの霊団が通った場所に寝床があったのさ、通った後はとてもじゃないけど住めるような環境じゃないね。瘴気がたまりすぎだよあれは」
其々が別々に話を持ってきたのだが、結局の所原因が霊団であり結果の居場所が無いというのも同じだ。
『しかしのう……此処は人の子の家じゃ、我がどうこうできる話でもない』
「なんとかなりませんか? 住み心地の良い川か池でもあれば」
『ふむ……河童のそなたであれば同族と共に、我が前に管理しておった土地の池にでも行くとよいじゃろ』
「その様な場所が! ぜひとも!」
「河童の旦那は良い話ですんだようだね、あたいの場合はどうかな? 何かないかい? 神様」
『西洋の妖怪に関してはわからぬでのう……木々が有れば良いのならば、同じ場所の森でどうじゃ? あそこで在ればまだまだ妖怪も住み着いておらぬし、人も来ぬ』
「なるほど、河童の旦那の近くってわけね。良いわ、あたいも仲間つれて其処に行こうかね」
『ふぅ……よもや妖怪を排除して人間のみの土地にしておったのが、今度は妖怪の保護地域になるとはのう』
『……私は?』
『座敷童子じゃな……そなたは人と共に無いと駄目じゃからのう』
『……うん、人がいる民家がいい』
『まぁ我に任せよ、良い場所が見つかるまでじゃが、此処に居れるよう守を説得しよう』
『……神様ありがとう』
空気を読んだのか実の所守は部屋の前にいた。途中からではあるが座敷童子の話に関しては聞こえてしまっていた。
「はぁ……やっぱりそういう話なんだな」
「きゅぅ?」
「ありがとうな、大丈夫だよ」
守の事を心配したたまりを撫でながらも如何した物かと悩む守。ここで座敷童子を受け入れてしまえば、先ほどの懸念がある。しかし受け入れないと言うのもまた無理な話だ。
「取り合えず部屋にはいるか」
「きゅー!」
たまりが居るから大丈夫だよ! そんな風に鳴くたまりに背中を押されつつ部屋に入っていった守。中では何やら良い感じに仲がよくなっている一柱と三匹。
「随分と打ち解けたみたいだな」
『守遅かったではないか、はよう飲み物とお菓子を寄越すのじゃ』
「はいはい、お供え物はコーラとポテチで良いんだよな」
『よく解っておるではないか! 今の我のぶーむはその二つじゃ!』
この幼女神は本当にジャンクフードに溺れてしまった。人であれば体重が気になる所だが相手は神だ、そのようなモノ一切関係がない。気にせず食べれるとは実にうらやましい話である。
「で、如何いう話だったんだ?」
『其れに関しては大方問題がないのじゃ』
「私は居場所を用意してもらえましたからねぇ。本当助かります」
「あたいの所もだね、これからはこの神様を祭るかねぇ」
『えぇぃ恥ずかしいではないか』
「人に拝まれるのは慣れてても妖怪には慣れてとか」
『守も変な事を言う出ない! 我は元々土地の神じゃ、人と共に在ったのじゃぞ、当たり前ではないか!』
「きゅきゅぅ」
『やれやれではないぞたまり!』
軽い感じで接する事が出来る神。古今東西このような神が居たであろうか? 軽口を聞いていても、彼等にこの幼女神を敬う気持ちがあるから、許されているわけではあるが。実に愛され系幼女神といえよう。
「とりあえず河童とハーピーに関しては解ったけど……座敷童子は?」
『……ん、少しの間でいいから此処に置いて?』
「あー……如何いう事?」
会話をコッソリ聞いたからある程度は解ってるとは言え、聞いておかないと会話が繋がらないので守は一応聞いたようだ。
そして、多少言葉が足らない座敷童子に変わって幼女神が話を続ける。
『それなんじゃがのう、あの村は民家はあれど人がすんでおらぬじゃろ? 座敷童子は人が居らぬと駄目じゃからの、良い場所が見つかるまで此処に置いてやってくれぬか?』
「あーそういう事……候補はあるのか?」
『……無い』
『我も探すつもりじゃがのう……人と共にある妖怪とはいえ、現在の人の生活では合わん所がおおいからの』
「そうそう簡単に見つかりはしないって事か」
『あの村に人が住んで居れば直ぐ解決じゃったがの』
「廃村だからな……まぁ致し方ないというやつか」
『……ありがとう?』
「あー……どういたしまして?」
謎の疑問系お礼に疑問系で返答をする守、喋り方が微妙にうつった様だ。
「とはいえだ、伝承を見れば座敷童子を此処に置いたあと、新しい場所みつかったら不幸になるんじゃないのか?」
『その件は大丈夫じゃよ。まず我が居るという事、それに最初からそういう契約で此処に置く訳じゃからな、落差が起きるような事にはならんのじゃ』
『……ん、当然』
不安要素でもある伝承の座敷童子が去れば不幸になる。これについては諸説色々あるようだが、この座敷童子と守達には問題が無いようだ。
『……大丈夫、うちが居れば守は幸せになる』
「何ともありがたい話だな」
『何を言うか、我が居るだけで既に幸せなのじゃぞ?』
「きゅきゅきゅー!」
守を中心に謎の幸せ合戦が始まる。きっと周りから見ればそれは微笑ましい状況だろう。守からしたら、いみがわからん! と叫びたいかもしれないが。
『……という事で最初の幸せ。……これ上げる』
座敷童子が取り出したもの、昔ながらのお守りである。書いてあるのは〝安全祈願〟どこかの神社で買ったのだろうか?
「うん……まぁありがとう大事にするよ」
『……大事にするのは良いけど、確りと持ってて』
「あー……何処かに着けておくか」
折角なのでとスマホのストラップに括り付ける守、スマホであれば必ず持ち歩きするからだ。それをみて座敷童子は何やら満足そうな顔をしている。
「しかし何だな、神様と座敷童子と並ぶと姉妹みたいだな」
『何を言うか! 我のこの姿は今だからじゃぞ』
『……神様と一緒』
違う反応をする一柱と一人。まぁ幼女神が幼女姿なのは力が無いからであり不本意この上ないという事だろう。座敷童子としては格上の相手とその様な風に言われるのはうれしいらしい。
とはいえ、住人がまた一人増え、他の妖怪達が無事に住める場所が少しでも在る。あの事件の傷跡は少しではあるが解消したようだ。
ただし、彼等が知った事についてではある。
もしかしたら、知らない場所に傷跡が残っておりそれが広がっていないか? と少し不安になる守達であった。