第6話 ペット拾いました……ペットなの? その終
きゅっきゅーー!
目の前に現れたモノに恐怖し叫ぶ、しかしまだ動く事ができずに丸くなり震えるだけの妖怪の子。
エダ……コワレロ……トリコメ……
ソレは漸く目的のモノを手に入れれると歓喜していた。そして自分達の体の一部を巨大な狼の頭に変形させ、その巨大な口を開けるとそのまま妖怪の子に向かう。
「させるかああああああああああ! 行け、俺の背後霊!」
『霊じゃないのじゃ! 我は神ぞ!』
後一歩遅ければ、その様なタイミングで間に合った一人と人柱。
幼女神はその刀・斑雲を手に取り其の姿を全盛期に戻している。まるで座敷童のような雰囲気を持つ幼女が、今や二十台前後のエロカッコイイお姉さんだ。守からしてみれば詐欺だと叫びたいが、今がその様な時じゃないので自重している。
駆け抜け一閃!
全盛期の力で何の障害も無いといわんばかり、その大きな狼の頭を切り落とす。
ナクナッタ……クチガ……クエナイ……
狼の頭を無くしたソレは今起きた出来事がありえないと一瞬呆けたのだが、すぐさま敵が居るのだと戦闘態勢をとった。
『ほう……そのまま呆けておれば楽であったのにのう』
「てか、頭飛ばしたのにピンピンしてないか? ダメージもそんなに無さそうだし」
『当然じゃろうて、アレは霊団のなりかけ。とはいえ、それでも悪霊の集合体じゃ、多少斬られたところで、悪霊の一部が離れただけじゃ』
「めんどくさいヤツなんだな」
集合体を相手にする時は、一気に殲滅するか、封印するか、端から順番にじわじわと切り崩しつつ浄化するか、主にこの三つだ。
そして現状とれるのは、三つ目の切り崩ししかない。一気に殲滅するにも封印するにも、火力や人手が足らない。
幾ら全盛期の力とはいえ、一時的に解放できたに過ぎない。どれぐらいで幼女モードに戻るか解らないので、全力全壊の一撃を叩き込むのは至難の業である。
『とりあえず、切り崩しつつ浄化じゃ。此の刀斑雲であればある程度は容易い』
「そうか、とりあえずあの妖怪の子を拾っておくよ。俺はどう考えても足手まといだしな」
『そうじゃな救出する時間は作るゆえ、後の事は我の後ろで確りと目に焼き付けておくがよい』
一閃また一閃と鞭のように刀を振るいつつ挑発する。剣閃に合わせて発動させる浄化の力が、ソレの体を少しずつではあるが小さくしていく。
『それにしても、我の神気を受けて此処まで動けるか。全く今の時代で此処まで力を内包するとはのう』
切られ削られ浄化され、ソレは今まで感じた中で一番の焦りと苛立ちを覚える。まるで自分が今狩られているではないかと。
キラレル……ケサレル? ……ワレラガキエル? ……イヤダ……イヤダイヤダイヤダイヤダイヤダ! アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!
恐怖したソレは叫ぶと同時に周囲から大量の悪意を呼び寄せた。
『なんということじゃ……此処に来て完全体に近づくじゃと? えぇいどうなるか解らんがやるしかないのう!』
まさかのパワーアップで切り崩す作戦が崩壊し手が無くなった。実際は後の事を考えて一気に消し飛ばす作戦は放棄しただけなのだが。
現状であれば、やるしかないだろう。ソレは放置できない力になりつつある。
『もってくれたまえよ斑雲……いざ!』
斑雲に今使えるだけの神気を全て注ぎ込む。神気を受けた斑雲が振るえ眩い光を放ちながら甲高い音を鳴らす。まるで鈴の音のような音は今から起こる事を楽しげに笑うかのような印象すら受けた。
『往くぞ……神業・破邪剛閃!』
全身からぶつかる様に突撃をし、上段から一気に振り下ろした一閃。
ゴォォォ!
風が唸る音と共に、光の柱が霊団を打ち抜く。しかし周囲に影響は無く、悪霊達のみにその力は振るわれた。
「すごいな……やったのか?」
思わず守がそう呟く。腕の中にいる妖怪もきゅーきゅーと目を輝かせて神の業を見ている。
『ぐ……やはり一回使えば力が抜けるのう』
光が収まりつつある中からその姿を現す。いつもの幼女が刀を片手にしている姿だ。
「何時もの姿だな。なんていえば良いんだ? おかえり?」
『ただいま。まぁ戦闘を終えて戻ってきてるから正解じゃろうて』
「きゅーきゅー!」
神の凱旋。
迎え祝うのは一人と一匹だがそれでも彼等は無事であった事に喜んでいた。
『そうじゃの……っ! 守危ない!』
収まりつつある光から黒い一閃。それは守の腕の中を狙っての攻撃だ。
あわやと言うところで、幼女神が守を押し倒して回避した。
『まだ残ってるモノがおったか、しぶといのう。今のもその妖怪の子を狙っておった、恐らく取り込もうとしたんじゃじゃろうな』
「いてて……何が残ってるんだ?」
『核となったモノが一匹以外に少数といった所じゃな……しかし、我にはもう戦う力が残っておらぬぞ』
今の幼女神は刀を杖代わりにしている。帰宅の為に残しておいた力も守を押し倒すのに使ってしまった。
「……誰か呼べるか?」
『周囲にはおらぬな呼ぼうと思ったら、……ちと遠いのう』
「逃げるのは?」
『おぬし等だけであれば、我はちょっと無理じゃな』
幼女神を置いて行くことは出来ない。彼女が取り込まれてしまう可能性があるからだ。そして取り込まれてしまえば、幼女神の宝玉を持つ守にも影響が出る。
「取り合えず掴まれ、あいつは攻撃はしてきたけどまだ動けないんだろう? なら今のうちに距離を稼ごう」
守が斑雲を受け取り、幼女に肩を貸して妖怪の子を抱きつつ早足で歩く。光が完全に収まるまではヤツは動けないと判断してだ。
キエタクナイキエタクナイキエタクナイ!
ソレの叫びが響き渡り、光が予想以上に早く収まりだしている。ソレは自ら呼び込んだ悪意や悪霊をを使い光に対して干渉し、自らが動き出せるようにしていた。代償として自ら以外を全て失ったが。
『っ! 守、動き出したのじゃ』
「距離稼げてないぞ! 此処からじゃ未だ援軍呼ぶのも無理だ」
『守よ、走って救援を呼びに行け……我が殿を勤めるのじゃ』
「……無理だろう? 自分で歩くのも辛そうじゃないか」
そう言って守は妖怪の子を幼女神に渡し斑雲を構える。
『守? 何をしておる?』
「今動けるのは俺だけだからな」
『やめよ! お主はあやかし退治の訓練をした武士とは違うのじゃぞ!』
「さっきの光の柱を見た絡新婦やそれ以外の妖怪が動き出してるさ……そういう話だっただろ? 時間を稼ぐ程度なら!」
『いいからやめよ!』
守が斑雲を悪霊の核に向かって振るう。
本来であれば守のように斑雲を振るう所か、人が斑雲を手にする事は出来ない、触れれば人は塩の柱になってしまうからだ。
そうであるのに守に振るう事が出来るのは、幼女神の宝玉のおかげだろう。
そして、その神気の使い方を目にした。激しく輝く力を、幼女神が振るったそれをだ。
「ああああああああああああああああああ!」
叫ぶと同時に宝玉から溢れた神気が守と斑雲を包み力へと変える。
悪霊の核の攻撃は的確に守を狙うが、あふれ出た神気が力を逸らしガードする。守に与えられたのは掠り傷程度だ。
怯むことなく突撃をしてからの…… 見よう見まねの破邪剛閃。
それは力の纏まりも無く、ただ形を真似て振るわれた一撃。それでも神気を纏った斑雲が悪霊を切裂いた。
アァァ……キエル……キエテシマウ……ヒトニ……ヤラ……
時間稼ぎの心算が止めを刺す事になった。幼女神が大ダメージを与えた残りカス状態だったとは言えだ。
『まったく……ひやひやさせおって』
「あー……なんか倒せた」
「きゅーきゅきゅー!」
「ただいまっと何かねむ……い……」
『守? 馬鹿か! 自分の知らぬ力を使うからじゃ! えぇい絡新婦はまだか!』
「きゅーーー!」
消耗は激しく戻ると同時に倒れる事となった。
「あー……おはようございます、どうやって帰ってきた?」
『絡新婦に礼を言っておけ、あやつが家まで運んでくれたのじゃ』
「あーそれは、ありがとうございます」
『いいのよ、どうも想定外の事が起こってたみたいだし? こっちも他の妖怪達との連携に手間取って遅れてしまったしね』
絡新婦があの場に居なかったのは、他の妖怪との話し合いの為だ。斑雲の件など色々と調整が必要だった。
「あー、斑雲なんだけど」
『良いわよ別に、少し皹が入った程度だし。寧ろ妖怪も神も良い戦闘データが手に入った、これから改良だ! ってはしゃいでたわ』
何とも凄まじい一匹と一柱である。
『それにしても、そのこ新種ね』
「そうだったのか? 狐かと思ったんだけど」
『そうね、管狐っぽいわね、でも尻尾が八本あるわよ?』
八本の尻尾を持つ管狐。妖怪図鑑にも載ってなかったな。
『周囲を調べてみた結果なんだけど、どうも未発見の殺生石の欠片が在ったみたいなのよ。それに管狐が触れてしまったようね』
「ってことは、狐同士で相性がよかった? で、管狐のデータを取り込んで新しく生まれた?」
『大体そんな感じかしら? まぁ小さな欠片だったみたいだし、九尾とは全く別物みたいね。八本の尻尾は微妙な名残かしら? まぁその子アナタに懐いてるし、面倒みてあげてくれる?』
「きゅきゅきゅーー!」
くるくると首に巻き突き頬に擦り寄る尻尾が八本ある管狐。完全に懐いているよう。
『まぁ刷り込みとは違うけど、窮地を助けてくれたんだもの、懐くのも当然よね』
『そうじゃのう……殺生石と言ってしまえば色々あるじゃろうが……その子を見てる分だと大丈夫じゃろ』
「あ……あぁわかったよ」
『そうであれば綺麗な竹が必要じゃな。管狐には必須じゃ』
神と妖怪の間で話がさくっと決められてしまっていたようだ。守は名前の通り御守りをする事が決定づけられていた。
『そうじゃそうじゃ、お主との約束も果たさねばな』
『ありがとう、そうね私の名前は〝魅雲〟よ、これから宜しくね。後、そのこの名前付けてあげてね。あぁ安心して私は普段は学校に居るから』
何はともあれ無事に問題を解決し、守の家は賑やかになるようだ。