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第5話 ペット拾いました……ペットなの? その弐

 クワセロ……ヨコセ……

 悪意をばら撒くソレ等に明確な意思は無く、原初の欲望のままに獲物を求めて移動していた。

 生きたい、食べたい、ただソレだけの為に行動している。


 クライツクセ……ウバワセロ……

 見つけたソレを喰らい奪う為に進んでいく。自らに取り込めば自分の望みが叶うと確信して。




 絡新婦(じょろうぐも)が戻ってくるのを待つ守と幼女神。手持ち無沙汰となってしまい、右へ左へうろうろしたりと、どうも落ち着くことが出来ないようだ。


「中々戻ってこないな」

『おちつけ守よ。少し前にも似たような事を言うておったぞ』

「そっちも何かと落ち着いてないじゃないか、読んでる雑誌が上下逆さまだぞ」

『こ、これはこうやって読む事により、暗号の解読方法の特訓をじゃな!』

「わかったから、とりあえず逆さまなの戻そうな」


 雑誌を無言で戻す幼女神。そしてまるで今のやり取りなど無かったかの如く雑誌を読み始める。


「それにしても、一体何を取りにいったんだろうな?」

『それは着たら解るじゃろ、なに悪いものでは無かろうて』


 悪霊を退治する物か封印する物、はたまた狙われてる妖怪をバレる事なく救出する道具。どの様な物にしろ、自分達にとっては必要なものに違いない。


 それにしても、待つ時間が長く感じる所為か、少しでも気を紛らわす為に守が昔の事を幼女神に聞き始めた。


「そういえば、魑魅魍魎の時代の霊団ってどんな感じだったんだ?」

『ふむ、そうじゃのう。あの時代であればそれはそれは、人もあやかしも全てのものが強かったのは前にも言うたな?』

「うん、どれ位かわからないけどな」

『そうじゃの、子供の素手と大人のハンドガン持ちぐらいには違うかの』

「それはなんとも……絶望的な話だな」


 その例えもあの当時の人間と今の人間の話である。人外ともなればその差は更に激しくなる。ソレこそ大人のハンドガンの部分が、軍人にサブマシンガンやアサルトライフルといった感じに。


『その様な巨大な力を持ったもの同士が戦っておったからの、当然悪霊も強くなる……結果、よく悪霊が集まり霊団となっておったという訳じゃ』

「なるほどね、その霊団は何をしてどうやって対処されてたんだ?」

『ふむ、何をして……か、何でもじゃな。作物を枯らせ、津波を起こし、川を氾濫させ、土砂崩れを起こし、竜巻を発生させ、火山を噴火させ、地震を起こす。大凡想像される天災といった部類を、何の前触れも無く起こすのじゃ』

「それは確かに災厄だな」

『今でこそ、災害は科学により分析されておるが、やつ等が起こす災厄に関しては、今の技術でも到底理解できんじゃろうな』

「前触れがあるとすれば、奴等が其処に居るって事ぐらいか」


 しかしそれは過去の話であり、今の時代にいる悪霊が霊団になったとして、何処までその力を発揮するかは不明である。


「で、どんな風に対処してたんだ?」

『それはのう、ヤツ等が暴れれば色々と問題が大きすぎるゆえに、この時ばかりは人も神も妖怪も無く全てが一時的に手を組んで対処しておったぞ』


 祭り上げようが、祈りを捧げようが、静まる事のない荒魂だ。むしろ鎮まる事がないという事は、その地に住むものにとって、荒魂よりも恐怖の対象と言える。


『まぁそういう訳での、ヤツ等を浄化なり封印なりする為に力を合わせましたっという事じゃ。其の後はまた対立なのじゃがな』

「なんとも、それを機に仲良くなろうって考えは無かったんだな」

『もちろんそう考える者はおったのじゃが、少数では何も出来ぬな。結局は自分達と違う姿や生き方をしているというだけで、相容れぬという訳じゃ』

「それで大量に犠牲者をだして、さらに霊団なんて発生させたら意味がないじゃないか」

『まぁそれが魑魅魍魎の時代というやつじゃ。力無き者は狩られる故にな、どうしても守る為に争うなんとも本末転倒じゃな』


 幼女神がそんな風に当時の事を荒げる事も無く話せるのは、現在の環境が在るからだ。

 妖怪は争いを避け人と距離を置き、人は人で安全地帯を確保し、妖怪の存在は既に架空の物と思っている人が大多数。結果お互いの生活を守るに十分な状況。

 前の幼女神であれば、守る為に暴れる事も辞さなかっただろう。これもまた時代の流れといえる。


「ふとおもったんだけど、何で其処まで弱くなったの?」

『おぉ其の事か。それは単純じゃ、我等の様な人と直に接しておった神は別としてじゃ。様々なモノを司る神々が生命より少し距離を置いて見守る事にしたんじゃ』

「……なんでそんな事を?」

『やる事はやったから、後は人でいう親離れするべきでしょう。っと上位の神々は判断したそうじゃよ?』

「ならなんで俺の目の前に神様が居るんですかね?」

『せーふてぃ? じゃったか? 何かあった時に直ぐ動けるよう、地上に神が存在する場所を用意しておくという事じゃな』

「其の割には寂れてたな……」

『これもまた時代の流れじゃろうて』


 最初に出会った時の事を思い出ししみじみと呟く守。恐らく随分と地上に滞在していた神も減っているはずだ。そういった神々に用意されていた場所は、基本人は居れど少ない地に存在していたから。




『今戻ったわよ! これで何とかなるかしら?』


 絡新婦(じょろうぐも)が戻ってき、二人に持ってきた物を手渡した。それは、日本刀であった。長さが八十五センチ程で刀身が白く光っている。


『絡新婦《じょろうぐも》これは!』

『安心して良いわよ本物じゃないし、だから呪われたりしないわ』

『しかしじゃな……』

『それはね、ある妖怪とどこぞの土地神が、文献を元に遊び半分に創った模造品の一つよ』

「えっと……なにを参考に?」

『日本人なら皆しってるんじゃないかしら? 天叢雲剣よ、と言っても姿形なんてみたモノなんて、妖怪にも地上に居る神にももう居ないから完全な妄想の産物ね』


 とんでもないものを参考にしたんだなと思う守。人でなくソレをやったのが、局地に居た神と妖怪だから出来たのだろう。


『とはいえ、作ったのは大きな力を持った妖怪とその地に封じられていた神よ? その刀の力は十分な物じゃないかしら?』


 刀からあふれ出るその存在感は並の人であれば気を失うレベルだ。守が大丈夫なのは幼女神との繋がりがあったから、無ければ今頃夢の中だろう。


「それにしても恐ろしいな、手が震える」


 それでも、震えてしまう程にその存在が発する力は守に恐怖をあたえていた。


『安心せい、その刀が守を傷つける事は無いからの』

『そうよ? 寧ろ今から力を貸してくれるんだから』

『して、絡新婦(じょろうぐも)その刀の銘は何じゃ?』

『妖怪と神の合作だから私達はこう呼んでたわ。〝妖神刀・斑雲(まだらくも)〟とはいえ、未完の物らしいわよ? まだ足りないってその妖怪や神は言ってたそうだから』

『それでも、今の状況にはありがたい品じゃな』


 このクラスの神器や妖具を用意しようと思ったら土台無理な話である。今此の場に斑雲があること自体が軌跡だ。


「……この刀があれば何とかなるんだな?」

『そうじゃな。一時的にとは言え、我の全盛期の力を振るう事ができるじゃろうな』

「それなら……もう一つの問題を解決しないと」

『あれ? 何かあったかしら?』

「……銃刀法違反だよ」


 こんな時でも、日本の法律は揺るがない。見つかってしまえば守は如何言おうと逮捕されてしまう。


『……面倒な世じゃな』

「それで安全なんだから仕方ないだろ」

『今は下手したら亡国の危機なのじゃがなぁ』


 なんとも閉まらない話をしながら、ソレでいて切り札と言える手段を手に入れた守達。しかし時間は刻一刻と過ぎており、今もまた悪意は妖怪の子に近づきつつある。

 そうであるが故に守達は一刻も早く救出が出来るように家を飛び出していった。

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