第4話 ペット拾いました……ペットなの? その壱
きゅーん……
ある場所でその様な鳴き声がする。それは今まで見つかる事も無く、また動く事も出来ないモノであったが、幸か不幸かつい此間偶然にも、それに触れたものが居た事により覚醒する事になった。
きゅーん……
その鳴き声の主はその場から動く事も無く、ただ何かを待つかのように体を丸めていた。
『ぽてちを要求するのじゃ!』
開口一番にその様な事を口にする幼女神。守に憑いて着て以来、溢れる物に目を輝かせ、お供えという名の下に飲食を楽しむ。現在のマイブームはポテトチップスである。
『こーらも欲しいのじゃ!』
飲み物にはコーラを所望していらっしゃる。信仰深い者が此の姿をみたら……幼い姿なので萌えるだけだろうか? まぁ信仰を投げ捨てる者もいるかも知れない。
そんなお供え物と言うなのおやつを守から受け取り、堪能しながらも前から話そうと思ってたと言わんばかりに、今思い出した事を話し出す幼女神。
『もきゅもきゅ……守よ、もきゅもきゅ……気がついて……もきゅ……おるかの?』
「とりあえず、食べてからにしようよ」
口の中に入れたぽてちをコーラで飲み込み、何事も無かったかのように話を続ける幼女神。
『けぷっ……それでのう、気がついておるのかと聞いておるのじゃが?』
「……何事も無かったようにとは、まぁいいかそれは何に対してだよ?」
『ふむ、我と繋がったとはいえまだまだじゃの。よし、説明してやろうぞ』
「……おやつ幼女が偉そうに……」
『何かいったかのう? まぁよい。守は悪霊をみたことがあるかの?』
ゴースト、それも悪意のあるモノ。神やあやかしが居るのだから居ても可笑しくない。しかし守はそういったモノに、この幼女神に出会うまで見たことが無かった。
「無いな。なに? 今近くにでも居るのか?」
『ふふん、お主は心配せんでよい、我が憑いておるからの。神の末席におった我がその様なものを近づける訳がなかろう?』
「じゃぁ何で今そんな事聞いたんだよ?」
『いやの、如何も少し離れた場所で悪霊共が騒がしいのじゃ。此のまま行けば……魑魅魍魎の時代によくいた霊団が出来るやも知れぬのう』
「……それまずくないか?」
『今のこのような世の中では先ず見ることはないからのう、さてはて原因はなんなのじゃろうな?』
「あれ? でも前に絡新婦が言ってた、人を襲わずともってのとは違うのか?」
『アレが言うてたのは現在の妖怪のルールじゃな。同じように怪異と言うても霊と妖怪は別じゃ。そして霊でも様々での、意識と言うべきか知識と言うべきか……そう言ったものを持ち合わせておらぬモノもおるのじゃよ。それゆえ、そういったモノはただただ害を振り撒くのじゃ。もはや災害じゃな』
「霊団はそういった害を撒き散らすモノが集まった集合体って事か?」
『うむ、其の通りじゃ。あの手もモノはの、人の悪意・理不尽に殺されたモノの怨念・嫉妬や妬み等の負の感情、生への執着心まだ色々とあるのじゃが、そういったモノを無尽蔵に集めておる。核となるモノを何とかすれば散るじゃろうが……それ以外はごちゃ混ぜで自分が何者かすら全くわからぬ状態じゃな。そういう訳で説得どころか会話も無理じゃ』
そのようなモノが普通にいた魑魅魍魎の時代とは実に恐ろしい話だ。しかし人間や妖怪もソレに負けるようなほど軟弱でもなかった。軟弱であったのならば今人は存在していないだろう。
「それじゃどうなるの?」
『そうじゃの……人はあの時代よりもそういった事に対して弱くなってるおるようじゃの、妖怪の方は……その身を隠しておるゆえ動かんじゃろうな。ふむ、自然消滅を待つしかないかの?』
「自然消滅か……」
放置するしかないという幼女神。それに未だ霊団になると決まった訳ではない。暫く様子を見るしかないという事なのだろう。
『馬鹿な事は考える出ないぞ? 幾ら我が神とは言え、今はその力を落としておる、それに宝玉を与えられたとは言え、そなたは人の子じゃ。訓練もしておらぬ人の子が霊団に立ち向かうなど出来はせぬ』
「まぁ、わかってるさそんな事は」
とはいえ、納得している顔ではない。守にとって家族や知り合いがいるこの地域に、その様な災害が来るというのは許容できない。何とか出来るならしたいというのが人情というものだろう。その感情に力の有無は関係ない。
『今は様子を見ておれ、何も問題が起きると限った事ではない。そうじゃ、あの絡新婦にも話をしておくとよかろう? 妖怪の繋がりで何とかなるやもしれんぞ』
「あぁそうだな、うん、絡新婦に話をしておくよ。それぐらいしか出来なさそうだし」
幼女神によって守の少しでも何かをという、その気持ちを上手く誘導された形だが、出来る事を見つけたのか少し気持ちが楽になったようだ。
それでも問題が直ぐに解決する訳でもないので、守は直ぐに絡新婦に話をして、妖怪ネットワークにより多少ではあるが、被害を減らす可能性を見出す事となった。
きゅーん……
鳴いているソレは動く事がまだ出来ない、色々と足りていないからだ。それゆえに、母親でも呼ぶかのようにか細い声で鳴き続ける。
きゅーん……
ソレは自分に少しずつ近づいてくる悪意を認識していた。動けない自分に近づいてくるのだ。一人では寂しく、一人だと心細く、呼びかけに答えるモノが居ない環境で、悪意が側に来るのはただただ怖いと感じていた。
きゅー……
来ないで、誰か助けて。とただその一心でソレは鳴き続けている。
『大変よ! アナタ達から聞いたあの霊の話、どうも生まれたばかりの妖怪を狙ってるようなの!』
『なんじゃと!? という事は乗っ取るつもりかの!?』
『力は生まれながらに強いタイプみたいだから、餌にする心算かも知れないわね』
『それで、その妖怪は何モノぞ? 種族次第ではとんでもない事になるのじゃ!』
『それが解らないのよ……どうも新種らしくて。千里眼で確認したみたいなんだけど、丸まってて良くわからなかったそうよ』
「なぁ、少しでも特徴はないのか?」
『えと……そうね、なにかもふもふしてたとか』
『もふもふだけでは絞れぬのじゃ! 四足系の動物という事ぐらいしか解らぬぞ!』
慌てる一柱と一匹、落ち着いて思考しているのは守のみ。それもその筈、守だけがその恐ろしさを理解していない。
悪意をばら撒くソレ等が妖怪なり力を持つ人間の体を奪うか、餌として食ってしまったら災害が災厄になる。ソレを例えるならば素体となった者次第では、竜巻のF2がF4クラスになるような話だ。最低でもF3クラスにはなる。相手が妖怪であれば寧ろF4クラスの可能性が高い。
「とりあえず……その生まれたばかりっていう妖怪を此方で保護できれば良いんじゃないか?」
『それもまた問題ぞ! 向かったモノの残り香が残るゆえ……狙われる事になるのじゃ』
『そうね……こちらも今は監視で手が一杯だわ。救助をしたくても保護する場所や保護に向かうモノを如何するかで纏らないのよ』
「それでも、放置してたらその霊団未満とやらがパワーアップしてしまうんだろ?」
『それは解ってるのよ。だからこうして相談しに来たのよ』
『我の力が全盛期であれば如何とにでもできるのじゃがな……今では出来る事が少なすぎる、もう少し何があれば良いのじゃが……』
無力な状態になってしまった自身に苛立ちを覚える幼女神。絡新婦にしても似たような感情を抱いている。妖怪達が動けば、人にその存在を知られて大変な事になるか、取り込まれて自らが災厄になってしまうからだ。
何とか出来そうな妖怪達は、完全に人の世から離れており連絡すら取れない。完全な八方ふさがりである。
「なら、力もない俺が救出に向かうのはどうだ?」
『駄目じゃ! 守には我の宝玉が入っておる、ソレを奴に奪われたら……災厄なんてものじゃ済まぬぞ?』
曲がり形にも、神の宝玉を宿している守だ。それゆえに今狙われてる妖怪よりも餌として実に美味しい存在だろう。
「それじゃどうするんだよ?」
『まて、落ち着いて待っておれ、今手を考えておる!』
そういう神が一番落ち着いていないのは仕方が無いだろう。自らの力が使えればという思いが大きすぎるのか、どうしてもと焦ってしまう。
『……そうね、神としての力が少しでも使えれば何とかなるのかしら?』
『む? そうじゃな……何とかなる矢も知れぬな』
『なら、少し待ってもらえる? 何とかなるかもしれない心当たりを思い出したわ』
『そうか……そうか! 頼んだのじゃ絡新婦』
『えぇ任せて頂戴。ただ一つお願いがあるわ』
『なんじゃ? 出来る事であれば叶えるのじゃ』
『成功したら……名前で呼んで?』
「……名前聞いた事無いんだけど」
『当たり前よ、妖怪にとっての名前はとっても大切なものよ? 認めた相手以外が呼んだら、殺してしまえと許可されるぐらいに』
「それは……恐ろしいな」
『当たり前じゃ、神とて同じよ。直接相手から名前を受け取りその名で呼ぶという事は、特別な繋がりができるのじゃ』
「なるほど……そんな大切な名前を聞いても良いのか?」
『アナタとそこの神であれば……ね、寧ろ神との繋がりが出来るのは私にとって良いことよ?』
『ふむ……まぁいいじゃろ、お主の気は悪くないからの』
『ふふ……ありがとう、それじゃ行って来るわ』
そうして絡新婦は駆け出していった。鳴き声の主には少しまた少しと悪意が近づいている。間に合うかどうかは彼女次第だろう。
「それはそうと、俺あんたの名前しらないんだけど?」
『当たり前じゃ繋がりがあるとはいえ、今のお主が我の名前を知れば……耐えられずに色々なものが破裂するのじゃ』
「色々……」
『うむ、体の一部だったり精神だったり何が破裂するかは解らぬがな』
「そ……そうか、なら今は聞かない」
神を知ろうとすれば其の身を焼かれる等あるが……その名すらヤバイモノのようだ。
『安心せい、教えれるようになれば自ずと理解できるからの』
それを知ってしまったら、人と言えるのかはまた別の話。