綺麗でしょ?
「私……綺麗?」
夜の街にてそのように声を掛けて来る、マスクをつけた女性が居た。言うまでも無いだろう都市伝説に出て来る〝口裂け女〟である。
そもそも〝口裂け女〟のルーツは幾つかあり、一揆の粛清を受けた農民の怨念だったり、恋人に会いに行くために山越えをした女性だったり、塾通いを親が子供に諦めさせる口車から、その逆で勉強しろ! と激怒する母親なんて物も有ったりする。
他にも幾つかあるのだが……敢えて言おう。ルーツなど関係無いと! 伝承系の妖怪と言うのは伝承の集合体の様なものだ。
それらは、くっ付いて離れてまたくっ付いて、消滅しては誕生をする。ソレを繰り返しているのだからもはや何が何だか分からなくなっているモノも多い。特に都市伝説系はそう言った物が多すぎる。
なので、この〝口裂け女〟も、もはや自分の元など何が何だか分かっておらず、最後に残った……「私、綺麗?」だけで動いていたりする。
とは言え、時代が時代だ。
正体をさらした後に「きれいじゃない」と答えたところで、包丁や鋏を使い切り裂くなど……到底出来るはずも無い。もしそのような事をすれば、他の妖怪や桃太郎の末裔などが現れ彼女を討伐してしまうだろう。
なので、彼女がやって居る事はと言えば。
「綺麗です!」
「そう、嬉しいわ!」
最初に綺麗と言われれば、満足して消える。
「マスクをつけているので解りません」
「そう……ごめんなさい。このマスクは酷い火傷で外せないの」
そういって、また消える。
そう、消えるだけなのだ。そして、決して正体を見せる事はしない。
だが、忘れてはいけない。彼女は〝彼女の受け答えをしたものの目の前で消えている〟のだ。
当然、女性が目の前から消えれば、其れを見た人は慌てるだろう。恐怖するだろう。そして……当然それらは噂となる。
『……お主ももう少し考えて行動せよ』
「……すみませんでした」
今、幼女神の前で正座をしている女性が居る。彼女は、淡々と説教をされているのだ。
それもその筈。彼女がやった行為で、妖怪達は今まで以上に息をひそめなければいけない結果となっているのだ。
『人を切り刻むなどをしないだけ良いのじゃがな……こうも、えす・えぬ・えすじゃったか? それで噂となればのう……』
「うぅ……此処まで話が広がるとは……軽率すぎましたぁ」
通信システムが無い時代ですら、彼女の噂と言うのは広まったのだ。であれば、このネット社会に置いてこのような〝美味しいネタ〟とも言える〝口裂け女〟もどきな話が広がらないハズが無い。
そして、そんな彼女を求めて、話の中心となった町では……今、大量の若者が夜中にウロウロと歩き回る現象が起きてしまった。
中には、彼女を捕まえて写真に撮る! と豪語している者も居るらしい。
『とりあえず、お主はこの流れが収まるまで……妖怪の村で息をひそめるのじゃよ』
「解りましたぁ……」
若者たちには悪いが、彼女を見つける事は出来ないだろう。
これ以上騒ぎとなれば、隠れ妖怪探しにまで発展する可能性すらあるのだから。なので、今はこの流れを終息させる為にも幼女神達が裏で寝ずに頑張ってみる。
「なんとも締まらない話だな」
『……仕方ない。それが現代妖怪の運命だから』
「家みたいに共存出来ればいいのにな」
『……それが出来れば……物凄く楽しいけど、難しい』
そんな幼女神と口裂け女を見て、守と座敷童が溜息を吐いた。
守の考えはまさに理想であり、楽園だと言える。だが、現実においてそのような事が可能なはずが無い。
人は人と違うモノを受け入れるのは難しいからだ。……まぁ、「猫耳萌え~」なんて言っている人たちもいるが。
人は恐怖する生き物だ。特に未知と言うモノに対しては殊更に。そして、妖怪達はと言えば、人に見えたり見えなかったりするし、人とは違う不思議な力を使うことが出来る。
その様な存在を恐れない訳が無い。
そして、恐れた結果……排除に向かうのは歴史が証明している。
それでも守は思ってしまう。少しでも共存できる道があれば……と。
ブクマ・評価・感想・誤字報告ありがとうございます!!
残酷な都市伝説系でも、この世界ではまったりになってしまいますwww




