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第3話 変わりだした日常生活

『さて守よ。お主は蜘蛛と言えば何を思い浮かべる?』

「それって、普通の蜘蛛じゃないよね?」

『そうじゃのう、普通であれば我が聞くような真似はせぬ』

「……アラクネやアトラク=ナクアかな?」

『……それらは海外のあやかしかのう? まぁよい、この国発祥のモノならば、絡新婦(じょろうぐも)に土蜘蛛や大蜘蛛などもおるぞ』


 科学技術や文化に滅法弱いが、こういった伝承・伝説といった物にはかなりの知識を有している。ただし、日本国内においてと付くが。

 そういった知識を有しているのは、恐らくこの柱自身がその類の存在だからだろう。何せ元とは言え土地を管理していた神だ。


「もしかしてその気配って……」

『そうじゃのう……今挙げた三つの内の一つが当たりである可能性は限りなく高いはずじゃ』

「あれ? でも土蜘蛛って朝廷に逆らった人達じゃなかったっけ?」

『其処が人の面白いところじゃて、長い年月を掛け、物語や戯曲で妖怪として認識されるようになってのう……いつの間にか我等の世界において存在するあやかしになっておったわ』

「それって……他にもそういった妖怪とか居るって事?」

『わらわらと居るぞ? 伝承系のあやかしは生まれやすいからのう……昨今なんぞ情報の伝達が早いゆえ、思わぬ処で新たなあやかしが生まれて居るはずじゃ』


 実に恐ろしい話ではあるが多少誤りがある。伝承系と言うのは、人の認識度以外にも、存在を信じているか、神であれば信仰しているか、恐怖を感じているか等と言った感情が多くの人数からその思念を送られる必要がある。

 それらが無ければ、神であろうとあやかしで在ろうと、存在が現れる事は無い。現れたとしても直ぐに消えていくだろう。

 何故多少の誤りを放置したかと言うと、守にもある程度解り易いように、ある程度省いて説明したのだろう。


『まぁ、相手にも我の存在を察知されておるはずじゃ……力が落ちたとは言え、仮にも神の一柱じゃ、格の違いを感じて静観となればいいんじゃがなぁ』

「どんな状態なんだ?」

『相手さんは此方をじっと見て居る感じじゃの、まったく失礼なやつじゃ』


 とは言え、此処は元々相手の領域だ。神格持ちとは言えこの柱の方が侵入者とも言える。


「それにしても学校にあやかしねぇ……今まで解らなかったけど、来たばっかりとか?」

『いや、雰囲気からして長い年月此処におるようじゃの、今回何と無くではあるじゃろうがその存在を察知できたのは、我との間に繋がりができたからじゃな』


 なんの事は無い、守はこの柱の宝玉を埋め込まれたのだ、繋がり所か不法滞在である。守もこの神を結局は受け入れたがために、その繋がりが更に強くなっている。結果、今まで認識出来なかったものが解るようになってしまった。


「それにしても、どの蜘蛛の妖怪でも危険だと思うんだけど、何で今まで事件にならなかったんだ?」


 守がふと疑問を口にする。当然な疑問ではあるだろう、あやかしでしかも蜘蛛系といえば大抵が良い伝承などなく、犠牲者が出ている話だらけだ。

 であれば、その様な存在が学校などと言う大人よりも無防備な……彼らにとって餌と言える子供が大量に居るのであれば良い狩場だろう。

 そうであるのにも拘らず、行方不明や死者が出たという話を学校に入って以来聞いたことが無い。


『はぁ……その答えは私がするわ』


 頭上からの声が其のように返答をする。どうやらお出ましのようだ。


『ふむ、ようやっと姿を見せたのう……やはりというべきか、絡新婦(じょろうぐも)であったか』

『これはこれは、どこぞの土地神でしょうか? よもや人に括り付いているとは思いもしませんでしたが』

『カカッ! なぁにこの人の子は我の地に住んでいた人間の末裔ゆえな。かわゆくて仕方ないのじゃ』

「えっと……それで答えは?」


 何やら火花でも散らしていそうな会話を中断させて本題に戻す為に守が声を掛ける。


『あら、せっかちな男は嫌われるわよ? まぁ本題だったわね、犠牲を出さないのは必要が無いのと出たら面倒だからよ』

『しかしそれでは、お主の様なものの存在意義が無いのではないのか?』

『よっぽど田舎から出てきのかしら? 今の妖怪事情は随分変ってるわよ?』

「それは一体どのように変ってるんだ?」

『そうね先ず必要がない理由は、人が増えたからよ』


 人が増えた事により、人が発する生命エネルギーの余剰分が垂れ流れ、それを取り込むだけで十分にその存在を維持できる。


『学校なんて処だと其れこそ、生命力も感情も様々な物が大量にあるから、一々直接人を捕らえて食べる必要がないのよ』

『なるほどのう、故にあやかし関連の問題を見る事が無いのじゃな』

『其れが一番大きい理由。面倒なのも人が増えたからかしら? 妖怪がその力を振るっていた時代に比べて人は弱くなったわ、それでも様々な物を作り出し、その数を増やした、そんな相手に態々危険を承知で手を出せば面倒なのよ』

「あー……兵器でどっかんと?」

『それで死ぬような事は無いけど、弱い妖怪であれば消滅していくわね。結果妖怪同士の繋がりで人間に手を出す事を禁じたのよ』

『必要な生命力はそこらじゅうに蔓延って居るから、危険を冒す必要がない……か、妖怪も変ったのじゃのう』

『まぁそれでも人にちょっかいを掛ける奴等も居るから気をつけてね?』


 色々と変らざるえなかったようだ。昨今妖怪を見た話が殆ど法螺話なのは、妖怪側がその存在を隠して過すようになったからだろう。


『まぁでもこうやってバレちゃったわね……さて私を如何する心算かしら?』

「んー……害が無いなら放置でいいんじゃない? 蜘蛛って益虫って言うし」

『っ!? 守よ! それで良いのか? 相手はあやかしぞ?』

「うん、でも話を聞く限り問題なさそうだし、騙してる感じもないからなぁ」

『う……うむ、確かにそうなのじゃが』


 幼女神の歴史の一つは、あやかしとの戦いでもあった。村人を守るために、人間を餌とするあやかしは徹底的に殲滅する対象だった。

 それゆえに、幾らその存在があり方を変えたと言っても、感情面的にもすぐさま敵愾心をなくす事はできない。


『まぁその神の感情も解るけどね? 今の私達は人間の敵ではないのよ。監視でもして、何かあれば直ぐに討ってくれても構わないから、今は引いてくれるかしら? 此処で私達が戦えば……校舎が崩れるわ』

『むむ……そうじゃのう。あい分かった、今の所は引こう』

『ありがとう。お礼に妖怪の繋がりで問題がありそうな事があったら、いの一番に教えるわ』

「それは、こちらこそありがとうございます」

『アナタみたいな人間は久しぶりだしね、偶に私とおしゃべりでもしてくれると嬉しいわ』


 何はともあれ、友好的な妖怪でよかったと言える。これが一昔……いや二つか三つぐらい昔であれば、周囲の事などお構いなしの戦闘に入っていただろう。


「しかし……妖怪全体がそんな風に変ってたなんてね。ネットに書き込んだら……うん、馬鹿扱いされるか、妖怪娘モエー! とか言い出す奴がでるだけか」

『そうじゃのう……なんとも釈然とせぬが、是も良い風に変ったと捕らえるべきかの。人の子の犠牲者が減る訳じゃし』

「まぁ、少しずつ会話でもして歩み寄ってみれば良いんじゃないかな? 色々妖怪事情教えてくれるみたいだし」

『そうするかの、しかしまもとお主も面白い奴じゃのう。絡新婦(じょろうぐも)相手に、泰然とした態度で会話できるとは……あやつも其れを好意的に受け止めておったしのう……お主からは人外を無防備にでもする匂いでも発せられておるのかの?』

「なんだか臭そうだからやめて」


 この日以来、守は学校で授業を受けてる最中に、教室の窓の外から、体育館の天井の上から、笑みを浮べ手を振り挨拶をしてくる絡新婦(じょろうぐも)の姿をよく目にするようになったようだ。

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