妖怪が奏でる楽器で無く、楽器の妖怪です
悪霊退散! そんな歌が一時期流行ったが、別にその歌に悪霊を払うだけの力はない。
どちらかと言えば、歌う側に力が有れば意味のあるワードが混ざっている歌であれば効果は発揮する。
それこそ……。
「悪霊を滅したかったな~嫌でも……」
何処かで聞いたような歌の替え歌を、声高らかに歌う妖怪が居た。
正直、妖怪がそのような歌を歌ったら自滅では? と、少し前の守であれば考えただろう。しかし、妖怪と悪霊が明確に違うと言うのを、幼女神に出会ってから口を酸っぱくするほど聞かされている。
そしてまた、今、この歌を歌っている妖怪の傍では、黒い靄が浄化されているのを見れば……そんな知識は間違っていたと考えを修正せざる得ないだろう。
しかし……守は思ってしまう。
「よくそんな歌で浄化出来るな」
「ふっふーん。当然でしょう? 魂を思いを込めれば何でもいいのよ! 言霊にさえなればね。まぁ、その為には使う言葉は選ばないといけないのだけどね」
そう豪語する彼女は、見た目大和撫子といった感じで着物を着こなしている。
そして、彼女の目の前には琴が鎮座しており、彼女はその琴を奏でながら歌っていた。
『それにしても、妙な音楽を選ぶのう……お主、琴古主じゃろう? 姿形も変化しておる故に一瞬何の妖怪か悩んだのじゃが』
「流石神の一柱ね。そうよ、琴古主で合ってるわ。まぁ、人間の世界が変わっちゃったからね……妖怪もそれに合わせないと!」
琴古主。
破損した琴に目や口が有り、糸が髪の様に見える妖怪。……として、描かれている。
筑紫箏が変化した妖怪と言われていたり、徒然草には「常に聞きたきは琵琶和琴」などと書かれているが……相手は妖怪だ、その姿が固定なんて事は無いだろう。
それに、他にも色々と諸説があるので、この琴古主がどの話の発祥元なのか、それとも新たに生み出された物なのかそれは誰にも解らない。それこそ、本妖怪にも。
「私ってば、いつの間にかに此処に居たからね。何処かで眠ってた気もするけど……兎に角、音楽を奏でて歌えればいい訳!」
『ふむ、で、何故悪霊になる前の卵と言える靄を浄化しておるのじゃ?』
「ん? だって、そんなの残してたら、楽しく音楽を聴いてくれる人が居なくなるじゃない!」
実に欲望に忠実である。
とは言え、その根源は音楽を聞いて欲しいと言う事で、野心などが有る訳でもない。寧ろ、その行為で清々しい空間を作るのだから良い事尽くしと言えるだろう。
「なるほど……で、琴古主は今後どうするんだ? このまま全国回って浄化の旅でもするのか?」
「んー……何処かで落ち着いてなんて思えないからね。とは言え、私みたいなのが歩き回っても……」
良い事をしているとは言え琴古主は妖怪だ。人の世で堂々としているなど出来るはずも無い。
『それじゃったら、儂等のネットワークを使うといいじゃろ。鬼やら雀やら絡新婦等と連携しておるのじゃよ。特に悪霊関連はの』
「へぇ……そうなんだ。面白そうね! うん、入っちゃう! 今は言ったら、どんなお得ポイントが付いちゃったりする?」
『……お得ポイントは無いのじゃよ……お主、思った以上に人の世に通じておるのう』
「音楽も情報も鮮度が命だからね」
その割には、歌っていた歌も随分古い物をベースとした替え歌だった気もするが。
とは言え、こうしてまた、一体の妖怪が守達の味方となったようだ。まぁ、全国を歩いて回るようだが……。
「そうだ! 鬼さん此方っと歌ったらカッコいい鬼さんが護衛に来てくれるかしら?」
『それは……どうじゃろうなぁ』
なんともまぁ、実に軽いと言うかノリの良い妖怪なので上手い具合いに世渡りが出来そうな気がする。そんな妖怪だ。
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音楽を奏でる妖怪がふえてきたなぁ♪




