第19話 ぷるぷるなのです? いいえ、とろとろです。
ぷるぷると言えば殆どの人がスライムを思い浮かべるだろう。とあるゲームので出てきたアレだ。
しかし現実において、スライムは脅威的な存在だ。
奴等はゲームのソレと違う、形状は固定ではなく、ありとあらゆる物を溶かしていく。
『……なぜスライムがこんな風に可愛い表現なの?』
「何故と言われてもな、ゲームだからとしか言いようが無いな」
座敷童子が件のゲームをやりながら呟いた。同じ妖怪仲間として全く違う表現をされている事が腑に落ちない。
『まぁ良いのではないか? これは所詮、物語の話じゃろう?』
『……だめ、今は違っても人と争ってた時は、とても驚異的な存在だった』
手を焼いた事があるのだろうか? 弱いスライムが如何しても許せないらしい。
「きゅー?」
「そうだな、座敷童子は嘗ての強敵が強くないと嫌みたいだな」
本当に一体、座敷童子はスライムに何をされたのだろうか? 住処が溶かされたりしたのであれば……この反応も分かる話だ。
『のう……何をされたのじゃ? 底までやつらを脅威と言うからには何かあったのじゃろう?』
『……許せない事をされた』
座敷童子の顔が苦々しいといった表情に変わる。相当な事をされたのか、思い出しただけでも負の感情を撒き散らしている。
『……あの時、私が……私の大切な……』
「……大切な?」
息を呑む。ゴクリと音が響く。そして沈黙が空間を支配した。
全員が座敷童子の言葉を待っている、正確には言葉を掛けれないでいる。
それは、座敷童子に凄まじい悲劇が起きたのだろうと予想したからだ。話終わればどうするべきかと、全員が悩んでいる。
『あいつ等、私の楽しみに取って置いたオハギを溶かしたのよ!!』
何時に無くはっきりとした物言いの内容が……オハギである。
これには違う意味で全員が言葉を失ってしまった。どうしたら良いか解らない。
しかし座敷童子の言葉は機関銃の如く続く。
『いい? オハギよ! 当時の屋敷の持ち主の奥様が丹精こめて作ったオハギなのよ! ソレを奴等は無慈悲にも全て溶かしたのよ! その時の絶望と言ったら!! お陰で、奥様は、奴等に対して武器を振り回すし! 旦那様は解けたオハギの前で膝を突いて動かなくなったのよ! 当然だけど私もあいつ等を追い掛け回したわ! でも山の中に凄い速さで逃げていって……倒せなかったのよ!!』
誰だこれは? 守達が思ったのはこの一言だろう。ソレほどまでに座敷童子の弾丸トークは素晴しいリズムを刻み放たれた。
『……まぁ今となってはどうしようもないけれどね、彼等も人とは距離を置いたみたいだし』
言いたい事を言い切ったのか、何時もの座敷童子に少し戻ったようだ。多少まだ口調が早いのだが。
「ま……まぁなんだ、凄い出来事だったんだな」
『うむ……それは何と言葉を掛ければ良いのかわからんのじゃが』
「……きゅ~」
其々が無難な言葉を選びながら声を掛ける。本当に何を言えば良いの加解らない話なのだろう。
『……ふぅ、何だかすっきりしたわね、久々にオハギが食べたいわ』
そういうと、台所からオハギがやってきた。見ただけならオハギが載った皿が勝手に動いている。
皿の下にはスライムだ。彼がオハギを運んだのだが、空気を読んだのだろうか?
実は現在スライム達は守の家で……掃除や皿洗いなどをしながら汚れを溶かし食している。そんな中での座敷童子の叫びだ、危険を察してしまったのだろうか? このオハギはきっと彼等からの賄賂なのだろう。
座敷童子の叫びの告白があり、スライムが空気を読んだとはいえ、実に平和な時間と言えよう。




