第1話 出会ったのは神様でした
昔々ある土地に一柱の神様と沢山の村人が住んでいました。
神様に見守れらた人々は、争う事も無く戦に巻き込まれる事も無く、日々穏やかに暮していたそうです。
しかし時代が流れ、科学技術が発達し、人々が田舎から都会へと出て行くのを止める事は神様にも不可能でした。
『人がどんどん減っていくのう……』
「すみません、倅達を止めることができませんでした」
『しかたあるまい、是も時代の流れなのじゃ』
「しかし……それではアナタ様の存在が」
『カカッ、我だけでは無い。我等の存在は土地に縛られておるからのう。先に行った奴等の所に我も行くのみよ』
実に物分りの良い事を言う土地神様に、村人は申し訳なさと、この心の広さが神たる所以なのかと、最早ただただ頭を下げるしかありませんでした。
そうして一人、また一人と村から出て行き、最後はもうお年寄りの神主しか居ない、そんな村になってしまいました。
「土地神様……私もそろそろ良い年齢です。もうお迎えが何時来ても可笑しくない……」
『前にも言ったであろう? 我の事は気にせず余命を全うせよ。なぁにそなたの最後は我が見送ってやるから安心せい』
「ありがとうございます」
『よいよい、それに我にはもう少し時間がある。土地に縛られ人と共にある為とは言え、地脈からの力で存在が直ぐに消えるわけではないからの。この村の最後を見守るのが我の最後の使命じゃろうて……それに、誰かがこの村に来る事もあるやもしれんじゃろう?』
「そうなるといいですなぁ……」
その後、神主だった男は土地神に見送られ旅立つ事になった。彼は薄い可能性でもこの村に誰かが来て、この優しい土地神を救ってくれる事だけを祈って逝った。
『終わりじゃな……』
一柱寂しく呟く姿が誰かに見られることも無く時が過ぎて行き、とある男子がこの村を訪れた。
「ここが、爺ちゃんや婆ちゃんの故郷か。うん、如何にも廃村って感じだな!」
彼の第一声は在り来りではあったが、実に楽しげであった。
「しかし何だろうな? 誰も手入れをしていないはずだし、こうもっと暗いというか何というか肝試しが出来そうなイメージだったのに、すごく明るい感じだなぁ」
村には土地神の恩恵もあってか、不思議な力で住民が居た当初よりは寂れている物の、まだ人が住んでいるのではないか? と思うぐらいには綺麗なままの姿で残っている。
「まぁ良い意味で期待はずれだったって事かな? これなら村の探索も爺ちゃん達の家に行くのも問題ないだろうな」
男子は楽しげに廃村を歩いていく、まるで見知った土地を歩くかのように。自分でも何故迷わず歩けるのか疑問では有った様だが、これが魂の故郷と言うものなのかと謎の割り切りしていた。
「さてはて……爺ちゃん達の家はっと、此処だな」
男子は先ず、祖父の家に入っていく。頼まれた物品が残っているかどうかを調べる為だ。
「本当に保存状態がいいなぁ。盗みとかも無かったようだし……なんというか不思議空間に迷い込んだ気分だな」
間違いなく不思議空間と言えるだろう。土地神が自分の思い出をその存在が消えるまで綺麗なまま守って行こうとしたからだ。
「爺ちゃんの頼まれ物はこんな所かな? 次は婆ちゃんの家だな」
祖母の家は隣に在った様で、迷わず男子は祖母の家だった場所に入っていく。
「婆ちゃんの頼まれ物はっと」
まるでお宝を探すかのような気分で探し物をする男子。
その姿を見られているとも知らずに。
「しかし凄いな、結構前に廃村になったんだよな? ポンプ式の井戸は使えるし、家は隙間風も無いと来た。これチャンネル板で報告しても信じるやついないだろうな」
そんな事を言いつつ、パシャリと写真を撮っていく。写真を撮っては移動してまた写真を撮る、そんな行為を楽しげに見る存在は、しかし写真に写ることがなかった。
(待望の人が来たのじゃが、今暫く様子を見ねば……どうやらこの村の出身の子孫のようじゃがな)
まるで我子が帰ってきたのを、微笑ましく見ている母親のように土地神が男子を見守る。
恐らくその姿を神主が見ていれば歓喜しただろう。
「ん? この道奥に続いている? よし! 探索だ!」
男子は冒険心がくすぐられたのか、その道を進んでいく。土地神が祭られている社へと。
「ひぃひぃ……割と長い階段だな。村に住んでた人たちって足腰強かったんだろうなぁ……そういえば爺さんも婆さんもものすごい健脚だったな」
土地神の恩恵だろうか? はたまた田舎だから自然の中を走り回る人間が多かったのだろうか? 彼等は年を召してもその足が弱る事は無かったようだ。
(どうやら此方へと向かっているようじゃの、さてはて如何したものか……)
「おっし、此処が階段の終点か……おー、綺麗な鳥居だな……神様っているのかな? 爺様達は居るって行ってたし……挨拶してっと写真を撮らせてもらうって言っておこう」
まず男子が社の前に進む。良く言われている参拝の礼儀に沿ってだ。
「えっと……此処で手と口を漱ぐんだったな、それで真ん中は歩かずに左右どっちだったっけ? まぁ片方を行き、片方を帰りに使うんだったっけ」
微妙に覚えてる所と忘れている所があるようだが、ここの土地神はそんな事気にもしない。
(ふむ……礼儀を弁えるか。これはいいのう)
「此処で確か……二礼ニ拍手一礼だったっけ? あれ? 場所で微妙に違うんだったっけ…あー爺様達に聞いとけばよかった。まぁ今回は御免なさいと言う事で!」
手順どおりの礼を示し、挨拶をしていく。
「えっと、この村出身者の孫で大原 守です。今日は祖父母に頼まれてこの地へ来ました。短い時間ではありますが、宜しくお願いします。後写真を撮るのをご了承ください」
(大原の倅の孫か! あやつは面白かったからのう……そうかそうか、元気に過して孫を寄越して来たのじゃな、顔見せだとしても嬉しいのう)
土地神にとって土地を離れたとは言え、故郷を思い孫に足を運ばせる、そして違う土地とは言え元気でやっていると言う知らせは、思った以上に嬉しいものだったようだ。
(よし決めた……こやつにしようぞ)
土地神は守にこの土地に居ついてもらおうと画策する。
『のう、其処の男の子よ』
「誰か居るのか!? ソレに俺の事か?」
突如聞こえた謎の声に慌てる守。廃村だと思っていた場所で声を掛けられれば仕方ない事だろう。
『お主じゃお主、守と言っておったかの? 主に頼み事があるのじゃ』
「頼み事ってなんだ? 金を寄越せとかそういう話だったら断固断るぞ?」
『その様な事ではない、なぁにちょっとこの村の復興に力を貸してくれぬか?』
「……電気も水道も通ってないこの村をか?」
そう……この村は随分と昔に廃村になった為、電気も水道もガスも通ってない。完全な陸の孤島なのだ。
『此のままでは、この村は忘れ去られてしまうじゃろうな……お主何とかできぬか?』
「……無理です、ただの学生だしって、それ以前にあんた誰だよ?」
『我か? 目の前に社があるじゃろう? 其処に住んでるものじゃ』
「社って此処は神様の……ってえええええ!?」
行き成り自分は神だ等と言われ、信じる者が居るだろうか? いないと断言できよう。
「嘘だ! どこかに隠れているんだろう? 姿を見せろ!」
『まぁ普通は信じないじゃろうな……お主も此の村の者の血が流れておるなら解るはずじゃ……刮目せよ!』
社が突如光だし、一陣の風が守の側を駆け抜ける。
光と風が収まると、其処には綺麗な着物を着た……幼女がいた。
『この様な姿で済まぬな、どうも人が居なくなってから幼子のような姿になってしもうたようじゃ』
神を名乗る幼女がのたまう。とは守の感想だ。しかし、神が起こした奇跡と言えるような光景の後に出てきた幼女が、守にはこの土地の神だと判断する事が出来た。起きた奇跡と守に流れる血によって。
「……爺様達が言ってた土地神だというのは理解しましたが、俺にはこの土地の復興は無理です」
しかし、守にも無理なものは無理である。この土地神の願いは到底叶えれるものではない。
『しかたないのう……なれば守よ。社にある宝玉を持って我を連れて行くのじゃ』
「……はっ? 土地神を連れて行く?」
行き成りの提案に困惑する守。土地に縛られているはずでは? と思うのは仕方ない事だろう。
『なぁに、宝玉と人が居れば如何とでもなる。さぁ連れて行くが良い』
「えっと……お断りします?」
普通断るだろう。だがこの土地神、世界の終わりかのような顔でショックを受けている。
『な……何故じゃ! お主の家系は我の社の守りぞ! 為れば我を守り共に在るのもまた道理! 連れて行くのじゃ!』
「いやいや! 土地の神ですよね! 連れて行いったら結局は、この土地に戻ってきて俺一人寂しく過す事になるんじゃないか!?」
守の疑問もまた当然だろう。土地神相手なのだから。
『いやじゃいやじゃ! 憑いて行くのじゃ! このままでは我は消えてしまうのじゃ! もう一人は嫌なのじゃ!』
言うや否や宝玉を守に押し付け……宝玉が守の体内へと消えていく。
『これでお主が死ぬまで我はお主と一心同体じゃ! さぁ憑いていくぞ!』
「何でこうなったあああああああああああ! 神様って一体なんなんだ! 最初の威厳は何処行った!」
こうして、土地神だった幼女と守は出会い、守は憑かれてしまう事になった。
しかして是は、これより始まるどたばた劇場の始まりに過ぎない。
守の生活は一体どうなってしまうのだろうか?
しかしこの幼女神……一人の時間が長くて寂しかったせいか、かなりキャラが崩壊したようだ。