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ヒェンのダメ譚 1

 目の前に差し出された木匙をジッと見つめる。


 木匙にはミルクのような白い液体が満たされていてとてもいい香りがする。

 ただその液体が何なのかわからないので、俺、森 七郎はとても困っている。

 現実逃避のため寝ていたらあの女性に再び起こされてしまった。

 しかも状況は幼児の状態から全く変わっていなかったのである。

 起こされた後は女性の膝の上で水を飲まされ、今はこのミルクのような物を飲まされようとしている。

 何を困っているかって?

 ハッハッハ、そんなこと決まっているだろ。

 これがこの女性の母乳ではないかと考えて困っているんだよ。

 ハッキリ言おう!

 俺はバブミなど求めてはいない!

 確かに現在の体は幼児体型でこんな赤ちゃんプレイのような状況だが心までは堕ちていないんだからね!

 至上はロリ!

 2次元こそ至高!

 こんな物は飲まないからなという意思をこめて上を向くと女性は困ったように眉よせてしまった。

 とりあえずそのまま見ていると女性は木匙のミルクと自身の顔が見える位置まで持ってくるとミルクを飲んで見せこちらに笑顔を向けた。

 たぶん、美味しくなさそうだから飲もうとしないのだろうと考えたのかもしれない。

 それで自分が飲むことにより美味しいということを伝えようとしているのだろう。

 もしくは水と一緒で飲めることを証明しているのかも。

 しかし、俺が問題にしているのはそこじゃない。

 口に出して伝えたいが喋れないうえに言葉がわからない。

 現状分かっているのはヒェンとよく呼ばれているのでそれが転生後の自分の名前だということぐらいだ。

 どうしたものかと考えていると女性はベビーベッドの上に置いている木皿から新しく掬ってきたミルクをこちらに差し出し微笑んできている。

 とりあえず飲みたくないのでそれを無視して見つめていると女性の表情がだんだん悲しげに曇ってきた。

 マズイ。

 正直、母乳らしきミルクは飲みたくない。

 だからといって悲しませたいわけではないのだ。

 どうしたらいい?

 というかもうこれこのミルクを飲むしかなくないか?

 この女性。

 というかもう母親でいいや。

 母親を悲しませない方法はこのミルクを飲むしかなさそうだ。

 目線を母親からミルクに移し、意を決して木匙を口に含む。

 ・・・甘い!!!

 なんだこれ!!!

 うまい物市なんかできている有名店のとても濃いアイスクリームを溶かしたものを更に凝縮したような濃さ!

 なのにすっきりした甘味にバニラとはまた違った甘い香り。

 ウマイ!美味すぎる!

 もう一杯!

 手を動かして精一杯アピールすると母親は嬉しそうに木皿からミルクをすくい飲ませてくれた。

 そのまま何杯も飲んでいるとバンと勢いよく扉が開いた。

 ビックリしてそちらを向くと小学生の低学年ぐらいの少女が壺を抱えて立っていた。

 髪の色は少し濃い緑で目の色は俺を膝に抱えている母親と同じ薄い緑の瞳をしている。

 顔立ちも母親に似ており、将来美人さんになりそうだ。

 「ヒェン!!」

 嬉しそうに俺の名前を呼びながら駆け寄ってきた。

 この子は今世の姉だろうか?

 「レシェ。Sv`o0:Zw3:wfq`/。」

 「w`mn.hmZwqto3:;utZqyq`my。」

 「レシェ。」

 「・・・b`/yuxe。」

 うん、何を言ってるかワカラン!

 ただこの子の名前がレシェというのはなんとなくわかった。

 母親とレシェの会話を聞きながらレシェが持っている壺の中身が気になりのぞき込んだ。

 中には白い液体がなみなみと入っておりいい香りを漂わせている。

 この香りはさっきのミルクの香りと同じだった。

 これは今飲んでいるミルクか?

 ん・・・ということは。

 レシェは外からやってきた。

 つまり外で手に入れてきということ。

 ということはこの母親の母乳ではないということ。

 セ――――――――フ!

 心の底から安堵をつきつつ顔を上げると少女の顔が目の前あった。

 「ヒェンn.ht`-dek?」

 何を言っているのか分からないが、まだお腹が空いているのでさっきやったみたいに手を動かしてミルクが欲しいとアピールする。

 するとレシェの表情がキョトンとしたものに変わり、ゆっくりと母親の方に目向けてしまった。

 何か幼児らしくないことをしてしまっただろうか。

 今の自分くらいの子の世話などしたことがないからどんな風に演技すればいいかわからないので何も考えず動いているがマズイか?

 だが出来ない演技をしても余計不審がられるだけだろうからこのままでいいか。

 そんな事を考えながら精いっぱいアピールしていると母親がレシェから壺を受け取り木皿へミルクを注いだ。

 とりあえず母親には通じているしこれでいこう。

 

 ミルクを飲み終えた後、ベビーベッドに戻された。

 レシェは扉の向こうに行き、母親はベッドの横で唄を唄っている。

 たぶん唄っているのは子守唄で、俺を寝かしつけようとしているのだろう。

 だが正直いまは眠たくないので困っている。

 このまま寝なかったら母親は困ってしまうだろうか?

 寝かしつけた後、何かすませたい用事でもあるのかもしれないし。

 う〜ん、だったら寝たふりして離れてもらおうか。

 眠たくなってきた子供みたいにゆっくりと瞼を閉じて寝たふりをする。

 ふふふ、寝たふりに関しては自信があるのだよ。

 きっと見事に引っかかってくれるだろう。

 しばらくすると唄がやみ、足音が向こうの方へと遠ざかっていく。

 そして扉を静かに閉める音が聞こえた。

 それを聞き終え少したった後、寝たふり作戦が成功した事を確信して目を開ける。

 母親もレシェの姿はなく、扉の向こうから声だけが聞こえてくる。

 何か話でもしているのだろう。

 とりあえず一人になれたので自分が置かれている状況を確認しよう。

 まずは体から。

 生後どのくらいかはわからないが首が動くことから半年くらいは過ぎているはず。

 四つん這いになってハイハイをしてみる。

 うん、普通にできるな。

 なら立ってみるか。

 足に力を入れバランスをとりながらゆっくりと立ち上がる。

 少々バランスがとりにくいが立つことも歩くこともできそうである。

 年齢的に1歳くらいの年だろうか?

 子供がどのぐらいから歩き出すのかわからないので、憶測ではあるが多分それくらいだろう。

 立ったままベビーベッドの柵を掴んで辺りを見渡す。

 部屋はあまり大きくなく、中央には先程まで母親が座っていた丸椅子があり、壁際にベッドや箪笥などの家具が並んでいるような配置になっている。

 窓はないようで扉だけが唯一の出入り口になっているようである。

 その扉は装飾がされている大きなもので子供が開け閉めするのに大変そうなものだった。

 レシェが扉を蹴って入ってきたのも納得がいく大きさだった。

 壁や床の材質は木の様で、壁にはカラフルなタペストリーのようなものが掛けられており、他にもほのかに明かりを灯す照明のような丸い玉が設置されている。

 ベッドに座り考え込む。

 ここは寝室のようだ。

 部屋の感じから日本でないのは確実だろう。

 異世界かどうかは分からないが、ここが元の世界かどうかも分からない。

 まぁ異世界転生したとみて動いていこうかなと、方針を決めたところで重大なことに気が付いた。

 そうだよ、異世界転生ならあって当然だよな!

 転生特典、チートなスキルorステータス!

 もしくはその両方!

 あるよね!

 もちろんあるよね!

 まずは確認だ!

 期待に胸を膨らませながら心の中で大きく叫ぶ。

 ステータスオ――――プン!

 あれなにもでない??

 言葉が違うのかな。

 それじゃあ鑑定!

 アナライズ!

 メニューオ―プン!

 何も出ないだと・・・・・。

 そうか!

 ステータスやスキルはないけど力や魔力がスゴイ系なんだ!

 そうとわかれば目の前の柵なんか簡単に壊せるうううウウゥゥゥゥ。

 曲がりもしないだと・・・・・。

 なら魔力か!

 体の力の流れを感じて・・・放出!

 ファイアアアアアァァァァァァァァ!

 何も起きない・・・・・。

 え・・・まさかただの幼児に転生しただけ?

 嘘・・・だろ。

 そんな・・・人生イージーモード、人生勝ち組の異世界転生あるあるがないだと・・・。

 嘘だろ・・・誰か嘘だと言ってくれ!

 こんな・・・こんな異世界転生があっていいものか!

 誰か俺を日本に戻してくれええええええええええええええええええ。

 「ふえええええええええええええええええええええええええええええ!」

 「ヒェン!!」

 その後、俺は泣き続けた。

 泣き声を聞き駆け付けた母親にあやされながら、俺はそのまま眠りに落ちたのだった。


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