第九話 布団の中
クローゼットから普段着用のローブを取り出し、急いで着替える。
身体についた血は、タオルに聖水を付けて落とす。
脱いだものはがさつに廊下へ放っておいた。
「アンヴィー、着替えたよ」
布団にのそのそと入り込むと、いきなり横からギュッと抱きしめてきた。
「ディマあったかーい!」
「は!? なっ……えぇ……」
いざ一緒に寝ると罪悪感が生まれる。
彼女は僕のことをどう思っているのだろうか。
助けてくれた救世主……とか? どうやら彼女は「死」を理解して無さそうだし。
もう、父親には会えないんだけどな……。
「ねぇねぇ、ディマのパパってどんな人ー?」
「知らないな」
「ママはー?」
「……さぁ、知らないね」
言いたくないわけではなく、本当に知らないのだ。見たこともない。
アルジェントのやつは僕以外皆知っているっぽいが、一切教えてくれない。ただ、父親がアルジェントで、母親がオーロの人間であることしか分からない。
「じゃあ、ディマってどうやって生まれたの?」
「さぁ、どうやって生まれたんだろうな」
「えー! 分からないの?」
「親すら分からないんだからな……。昔は湖の伝説になぞらえられていたけど」
「でんせつ? でんせつって?」
「話すと長いからね……今度絵本を読んであげよう」
「えーよんでよんでー」っと文句を言いながら僕の上にのしかかってくる。
可愛い……あったけぇ……助けて良かったなぁ。お互いに最悪の時まで刻一刻と進めているというのに、こんなにも呑気とは。
「まぁまぁ、それはお楽しみにとっておいて、今度は僕から質問しよう」
「なぁに?」
「君のパパは……あんな人だって分かったけど、ママはどんな人かな?」
この子の母親が分かれば、どの派閥か判別できる。……何となく察しはついているが。
オーロはなかなか複雑な環境であり、大きく分けて二つの派閥がある。
一つは、有害な「オスクリタ派」。もう一つは害悪な「アルナシオン派」。もちろん、これらに属さないやつもいる。
僕らにとってはどっちもどっちだが、百歩譲って穏便なオスクリタ派の方が……まだいい。アルナシオン派は何をしでかすか分からないから怖いのなんの。いわゆる、過激派ってやつだ。
「ママ? ママは……」
「パパとどっちが優しい?」
「……パパの方がいつもやさしいよ」
少しまごまごとどもりながらそう言った。
「そっか……。ママは優しくしてくれないの?」
「……うん、怒ってばっか。怒っているとき以外見たことない」
「あらら、それは酷いね」
「なにもまほうが使えないからって、いつもたたかれるの。いらない子だって、いつもいわれるの……」
次第に声が弱々しくなり、ぐずぐずと泣き出してしまう。
「あっ……ごめんね。悪気はなかったんだ」
背筋を撫でながら彼女をなだめてみる。
だが余計に泣き出してしまい、手が付けられなくなってしまった。
なんか、僕が虐待しているみたいに思われたら嫌だな。皆寝てるから大丈夫だと思うけど。