第八話 思いがけぬ幸運1-2
二人の顔が固まる。
そして、同時ににやけた。
「いいぞ! こんな幼女と寝れるなんて最高だ!」
「何言ってるんだディマ。そんな血だらけで一緒に寝るな。よーし、俺の部屋で一緒に寝ようか。ディマの部屋より綺麗だぞ」
「どうせお前は魔術用の血が欲しいだけだろ。そんなものにアンヴィを使うな」
「魔術で女の血なんて使うか? まぁ、彼女は処女であろうから使えるが滅多に手に入らないから鶏でいいよ」
がみがみと二人で言い合っていると、アンヴィが心配そうになだめてきた。
「けんかしないで……?」
「ははは、けんかはしてないよアンヴィ。ただ、このジジイと寝るのは勘弁だ」
肘でいじわるそうにメルクリオをどつく。
「じ、ジジイ……俺はまだ30歳だぞ!? こんな腐れ外道に言われたくはない。あと突くな!」
「ここの連中はみんな外道だけどな」
「いや、お前だけだから。大人になったのにここまで上に楯突くヤツはいないだろう……」
楯突いているわけではなく意見を言っているだけなんだけどな。
あぁ、ちなみに僕は18歳だ。この国での成人は16歳である。
……言うのが遅いって? タイミングがなかったんだ。申し訳ない。
「うーん、じゃあじゃんけんして勝った方といっしょにねるー!」
彼女は名案発明しすぎだな? これじゃ僕たちが馬鹿みたいだ。
「ほう、じゃんけんか。恨みっこなしだぞディマ」
「僕は明日生きているかも分からない身だからな。本気でいかせてもらう」
数秒間の静寂、目を瞑り右手に己の意思を込める。
三分の一を当てるだけでいい。これ以上の運はいらないから叶えてくれ――!
「最初はグー、じゃんけん――」
相手は策士だ。最初にグーを出すとは思えない。
安直に考えればチョキが安全である。負ける可能性がないのだから。
だが、相手も同じことを考えていたら……グーを出されるかもしれないのか。
ならパーでいくべきか? いや、裏をかかれたら――
……あぁもういい、考えるだけ無駄だ。適当こそ最善の一手だろう!
「……ポンっ!!」
咄嗟に開いた手。相手の手はグー。
「は……勝ったぞ! 勝った!! 文句はないなメルクリオっ!?」
「はいはい、潔く去りますよ」
「メルクリオは明日いっしょにねようね!」
「なんと、ありがたき幸せ……。血が違えど可愛い者は可愛いな」
彼は髪を解き照れ隠しをしながら部屋から去っていった。
何照れているんだか。あんなに文句言ってたくせに。中身も16歳のまんまだな……。
*
「ディマー、ねよ?」
ローブをパタパタさせながら僕をベットに誘ってくる。
……正気に戻れ、僕。彼女を売春婦そのものとか思ったりしてないからな。
第一、どういう状況なんだこれは? 父親を殺したやつになんでこの子は懐いているんだ?
じゃんけんで勝ったのは嬉しかったよ。それは紛れもないが、よく考えてみたらおかしなことになってるぞ。
やましいことはしないけどさ……そういう問題じゃないよな。カオスだね、カオスだよ。
「着替えるからちょっと待っててね。布団にもぐってて」
彼女はキャーっ、と言いながら布団にもぐった。
もう……よく分からない子だな。