第七話 思いがけぬ幸運1-1
「統率者」と「統率者様」の読みはどちらも「ドゥクトル」です。
話し手のニュアンスで変わります。
「統率者様を悪く言わないで……」
か弱い声でアンヴィが話を遮る。
あぁ、しまった。殺したいくらい憎い相手は、彼女が心より崇める人だったな。
と、思ったと同時にメルクリオに頭を叩かれた。
コイツの一撃は頭がくらくらするくらい痛い。加減というものが全く分かってないのだ。
「痛っ」
「すまないなお嬢さん。この凡骨がオーロの統率者を貶すようなことを――」
「統率者様はいい人だよ……? いい人だもん……」
涙ぐみながら僕へ訴えかける。そんなことを言われたら彼女を肯定するしかない。
「あーうん、そうだね……さっき侮辱されたけど」
「一言余計だ」と、足を蹴り飛ばされる。小声で言ったから許してくれよ。
「統率者様はね……助けてくれたの。お兄ちゃんたちにいじめられてたときにね、止めてくれたんだよ」
絶対それは偽物だ……そんな善行するわけがない。
メルクリオは感心している様子である。なんだかなぁ、僕から言わせてみればお前こそ敵っぽいよ。
「そっ、そうか。よかったね」
素っ気ない返事しかできなかった。変に偽っても疑われるだけだというのは分かっていたからだ。
「……もう痛いところはないか?」
「うん、ありがとうお兄ちゃん! キレイになったよ!」
先ほどよりも顔色が良くなり、起き上がってバンザイして見せた。
「お兄ちゃん、なまえはなんていうの?」
「メルクリオだ」
「メルクリオ……? なんか統率者様と名前が似てるね」
一瞬、メルクリオの顔が強張る。
アンヴィは何気ない一言のつもりで言ったと思うが、本人が一番気にしていることを言ってしまった。
メルクリオとオスクリタ……発音の仕方が似ているからね。
そして、何よりも外見が似ている。髪切って後ろ姿だけ見たら勘違いするだろう。目の色くらいしか判別方法ないんじゃないか?
「ま、まぁよく言われるよ。それより、真っ裸じゃ寒いだろう。ディマが代わりのローブを用意してくれたからそれに着替えようか」
「早くやれ」と言わんばかりに僕を睨みつけてくる。
うぅ……いつも以上に怖い三十路だな。子どもの前なんだから、少しは笑えよ。
「これ、男物だけど……一日だけ我慢してくれないかな?」
「いいよ。ディマのおようふく着るー」
ブーツカットパンツを穿かせようとした時、少しだけ彼女が全裸であることを意識してしまった。
その意識は、まだ清らかな花弁へと目を向かせる。
……そういう趣味はないんだが、一度意識すると恥ずかしくなってきて見悶えてしまう。
「……どうしたの? ディマー」
「あぁいや、何でもない」
彼女となるべく目を合わせないようにして服を着させていく。
最後にローブを着てもらって、さっきまでより身なりが整った。
……ちょっとぶかぶかだが、寝る分には困らないだろう。
「わーい! ディマのおようふくかわいい!」
「し、質素だし可愛くはないと思うが……まぁ、気に入ってくれたならよかった」
なんだかんだいってデレデレしてしまう。だって、可愛いもん。
そのうえに、次に言い放った言葉が僕の理性を蒸発させた。
「ねぇねぇ、みんなでいっしょにねよう?」