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第六話 治癒

 答えられず無言で目を逸らす。

 殺人だけならまだ罪は軽い。とはいえ拷問はあるが。だが、誘拐は確実に拷問をかけられた後に死刑である。例外はない。知ってはいたけれど、あの状況ではこれが一番適切な判断だっただろう。

 しかし、意味の分からぬ法律だ。殺人は大した刑罰じゃなく、誘拐は死刑なんだから。A.a.は馬鹿しかいないから仕方ないか。それに、殺人を軽い刑にしておかないとアイツら(・・・・)が困るからな。


 メルクリオは落胆と怒りが混じった口調でこう言い放った。

「お前はどうしてこう……全く、何がしたいか分からないよ。アルジェントを滅ぼしたいのか? まぁ、俺たちも悪かったが……あぁもういい。その子を見てから判断する」

 ため息を交えながら短剣をしまい黒い髪留めで結わくと、僕の部屋へと足早に向かった。

 

*


「どこだ、その子供は」

「布団の中に潜っているよ」

「ふーん、どれどれ」


 メルクリオが布団を引きはがすと、アンヴィが丸まりながら震えていた。

 先ほどとは打って変わって青白くなっており、汗もびっしょりとかいている。

 時々苦しそうに唸りながらこちらに何かを訴えているが、上手く聞き取れない。


「ほう、女か。だいぶ顔色が悪い。外傷による熱か? 何回も言っているが、俺は外傷しか治せないからな。俺ができないことはジャーダに頼めよ」

「あいつとは気が合わないんだって……」

「俺からすれば同じようにしか見えないけどな」


 そんな会話をしながら彼は傷跡に触れて元に治していく。

 手品のように、一瞬である。

 彼のずば抜けた治癒能力は、おそろく右に出るものはいないだろう。


「この感じだと、見えている部分以外にも傷がありそうだ。女よ、どこか痛い部分はあるか?」

 アンヴィはすすり泣きながら右わき腹の辺りを摩る。

「分かった。とりあえず、ローブを脱がすぞ。お前も突っ立ってないで服を持ってくるとか汗を拭くとかしないのか」

「ふ、服? あるかな……」


 クローゼットの中にある服をガサガサと漁ってみる。

 昔着ていた服といっても、アンヴィの体格より大きいものしかない。

 あっ……僕が10歳くらいに着てたローブのセットだ。懐かしいな。

 白いローブだからだいぶ色あせて見える。そして、汚れも目立つ。

 まぁ、何も着ないよりマシかな。


 タオルと一緒に持ち寄ると、メルクリオが深刻そうな顔でこちらを見る。

 半裸になったその身体には、痛々しいいくつもの痣があった。

 日常的に暴力を振るわれているといっても、ここまで酷いとは。可憐な処女を穢すなど、狂ってやがる。


「お前、この女に何をした? 肋骨が折れているぞ」

「僕じゃなくてアンヴィの父親がな……端的に言うと虐待していたんだよ」

「可哀想だから助けたと? よりによってオーロのやつを……お前は敵か味方か分からないな。いつものお前なら両者とも殺すだろう(・・・・・・・・・)?」

「いや……僕でもさすがに理不尽に殺されそうになっている子は助けるよ。夢想家の成れの果て(オスクリタ)なら問答無用で陵辱するけどな」


 メルクリオは呆れ顔で大きくため息をついた。

「あれでも前よりは(・・・・)優しい国王だぞ。……お前は知らないだろうけど」

「アイツのどこが優しいんだよ。余興で火炙りにして、人を喰らう食人鬼だぞ? 青年の頬肉が一番美味しいとか狂気の沙汰だろ」

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