第四十七話 生誕の儀1-1
暖かな日の光を感じ目を覚ます。
あぁ、寝てしまっていたのか。こんなに不規則な生活をしてしまっては、魔術師として失格だな。
「起きて、アンヴィ。もう朝だよ」
そっと額にキスをすると、アンヴィは目を覚ました。
そして、アンヴィも首筋にキスしてくれた。
「おはよーディマ。のどかわいたー」
「あれだけ泣いたらそりゃ乾くよね。ちょっと待ってて」
近くにあったティーカップに魔法で生み出した水を注ぐ。
魔法だからといい、不味いものではない。安全な水である。
「はい、どうぞ」
「わー! すごいねディマ!」
一口でゴクゴクと飲み干し、空っぽになったカップを見せつけてきた。
……もっと飲みたいようだ。
また水を注いであげると、興味津々に魔法について聞いてきた。
「どうやって水を出してるの?」
「どうやって……と言われると難しいな。意志すれば自由自在に」
水で魚の形を作り泳がせてみせたり、鳥を飛ばせて頭に乗せてあげたりした。
キャッキャと喜んでくれるのでこちらとしても嬉しい。
……混血であっても、こうやって役に立つならまだ良かったのかもしれない。
「アンヴィもやりたい!」
「うーん……じゃあ、まず水の流れを意識してみよう」
「流れ?」
「川とか海を想像するんだ。それを自分の中で形作ってあんな風に」
「でも、まほうできないよ?」
「練習すればできるようになるさ。心配することないよ」
とは言ったものの、かけられた魔術を解かない限りは魔法は使えない。
魔術も基礎的なもの以外使えないだろうし、少々無責任な発言だっただろうか。
……問題は山積みだな。一つずつ解決しなければ。
「ディマー! 朝ごはん出来てるよー!」
……ジャーダの声だ。相変わらず声がでかい。
「一緒に行こうか、アンヴィ」
「うん!」
元気よく返事をすると、ドアを開けて廊下を駆け出して行った。
子供は元気だねぇ……。僕はこんなに動けないよ。
*
欠伸をしながら食堂に入ると、粛々と各自で食べていた。
適当にスープをよそうと、パンとウサギ肉を皿に乗せてアンヴィの側に座った。
「ディマー、なんかこの肉草の味がするよ?」
「ウサギだからね。野性味が強いよ」
「はじめてたべた! どこにいるどうぶつなの?」
「この辺りにはちらほらいるけどな。都市部じゃまず見ないだろうけど」
……ウサギを食べたことがないって、どれだけ豪華な生活を送っていたんだ。
この辺りじゃ一般的な食材なんだけどな。30km以上離れていたらもう別世界なのかもしれない。
「ケッ、都会っ子アピールかよ」
苛立ちながらグランディが茶々を入れてきた。
「まぁ、オーロだからな。食べたことがなくても不思議ではない」
「というより、何でお前ら死んでないんだよ」
「馬鹿な国王の匙加減じゃないか?」
「クソみてぇな理由だな。さっさと死んでくれれば面倒ごとが減って楽なんだが」
ほんと、口だけは達者な奴だからな……こっちが面倒だよ。
そんなに嫌なら殺してくれた方が僕としては嬉しいんだが。
あっ、でもアンヴィが可哀想か……。死ぬにも死ねない地獄というのは酷なものだ。
「グランディ、口を慎みなさい。今日は祝う日だ」
統率者が止めに入ると、ワンドを二回叩いて全員の気を引かせた。
祝う……? 何をするんだ?
「今日は、アンヴィを正式にアルジェントとして迎え入れる日だ。生誕の儀を行う」
「えっ、生誕の儀を?」
普通、名前の通り産まれた時にやる行いだ。
各自持っているものを赤ん坊に渡して、魔術的な加護を施す。
実際に祝福は受けているはずだが、僕の記憶にはない。覚えていたら怖いけど。
今は亡き子供達にはやったがな……。
「せーたんの日?」
「アンヴィを祝う日だ。まずは僕から渡さないとな」
「おいわい? やったぁ!」
ぴょんぴょんと飛び跳ねて全身で喜びを表現している。
可愛いアンヴィには何を渡そう……。
「両手を出してごらん」
アンヴィは手を高らかに上げてアピールしてくる。
パチンッ、と指を鳴らし、最も綺麗な状態と言われるシングルポイントと呼ばれる形状の小さな水晶を作り出した。
「わーぁっ! すごーい!」
「……君に月の加護があらんことを」
十字を切り、祈りを捧げると頭を撫でてあげた。
「皆から色々もらえるから、大事にするんだよ」
「うん! 分かった!」
キラキラした水晶を手に愛くるしい表情を皆に振りまいていた。




