第四十五話 疑惑
……今気づいたけど、なんでお姫抱っこなんだ。
いつも腕を引っ張るくせに。そのせいで毎回のように脱臼していたんだけどね。
「はい到着。あとは頑張りな―」
ジャーダにかかれば、2km離れた城まで1分もかからない。恐ろしい速さである。
優しく降ろされると、僕は軽く一礼をして城内へと駆け込んだ。
「……ッ」
ジャーダは手を振り笑っていたが、どこか不服そうな目付きであった――
*
水晶を足場にショートカットして自室へと向かう。
無駄に大きな城だから着くまで時間がかかる。こういう時は大変不便だ。
「アンヴィ!!」
力任せに自室のドアを開けると、そこにはメルクリオに抱きかかえられていたアンヴィがいた。
珍しくメルクリオは髪を解いていた。
ちなみに、アンヴィは彼の腕の中で寝ている……。
ジャーダが言っていたことと違うじゃないか。
「あぁ……遅かったじゃないかディマ。泣きつかれて寝てしまったよ」
「お前は後で殺してやる……。アンヴィを返しな」
「殺される筋合いはないけどな。ちゃんと助言をしただろう」
「お前、オーロと繋がっているだろう? 外部では知り得ない情報を知っているのはおかしな話じゃないか?」
メルクリオは見下した目で僕を嘲た。
髪をくるくると指で巻きながら退屈そうに話を続ける。
「アッハハハハッ! ……そんなことか。ディマだって人のことを言えないと思うが――」
濃紺の刃がメルクリオの髪をかすめる。
……早い。避けられた。脳天を狙ったはずなのに。
不意打ちを予測されていたのか?
「まだ話は終わってないのに手を出すのはよろしくないな。言っておくが、俺はオーロと手を組んではない。盗聴器を城に仕組んでおいただけだ」
「じゃあなぜレオーネと仲がいい?」
「……アレの何を見て仲がいいと思ったんだ。技が一緒だから? オスクリタが俺をパクっただけだぞ」
「へぇ、メルクリオは魔術人形だったのか?」
「そんなわけないだろう。俺が強すぎたから真似て創ったんだ」
いつも通りの流暢さだ。嘘か誠か分かったもんじゃない。
第一、突然水銀が使えるようになったというのもよく考えてみればおかしい。
容姿が変わらないことだって魔術人形であれば説明がつく――
「――そんなに疑うのなら、やってみるか?」
メルクリオはアンヴィをベットに寝かせ、右手を差し出してきた。
傷つけてみろってことだろう。血が出れば人間であるからな。
……躊躇してはダメだ。
味方とはいえ、容赦しない――。
すぅっと撫でるようにSuiliteで手の甲を裂いた。
……一直線にじんわりと鮮やかな血が流れ出る。
レオーネとは違った反応であったが、痛そうな素振りすらしなかった。
「な、俺は人間だろう?」
メルクリオはさっと傷跡を撫でて出血を止めて見せた。
……さすがに違かったか。
「こんな時にいがみ合うより、アンヴィを慰めてあげるんだな……」
アンヴィの方を見やると、大きなあくびをしながら目をこすっていた。
メルクリオはフッ……とにやけて見せると、静かに部屋から出ていった。




