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第三話 満月の晩餐1-2

 粛々と全員が席につき、オスクリタの方を見る。

 オスクリタから見て左に仲の良い『デュンケル』、右に『トルメンタ』。

 その後ろに『プラーミャ』、『フィークス』。

 僕らの向かいにいるのは『シュピネ』……といった感じの血族順である。

 自分たちは一番下座だ。

 あくまでもオーロが考えた順番であり、強さとは比例していない。

 ただ単に服従しているかしていないかの差だ。

 あと、勝手に恨みを抱かれているというのもある。そりゃ僕たち強いしね。

 僕が思うに、強さで言ったら二番目くらいか? 一番はトルメンタだ。あいつらには敵わないな…。相性悪くて戦う気すら起きない。

 なぜならば、相手の魔法を無効化する魔法だからだ。どうやって勝てばいいのか。


「満月の夜に、我らの繁栄を願って。乾杯」


 軽くワインに口を付け、皆の様子を伺いながら野菜に手を付けていた。

 酸味の強い白いソースがかかっていて普通に美味しい。

 シュピネと僕達以外は談笑しながら食べている。時折、蔑んだような目で見てくるが。

 僕らから話しかけるのはマナー違反であるため出来ない。

 一応、一番下という扱いにされているからな。聞き手に回るしかない。

 だが、シュピネとはどうしようもなく仲が悪いんだ。互いに血族を否定しあっている。

「魔法としての概念がおかしい」と。

 虫を操る人たちに言われたくはない。明らかに向こうは魔法ではないな。まぁ、虫に変身できるのは素直にすごいと思うが。


 注がれた赤ワインを優雅に飲み干す。

 舌で転がしながら味を確かめる。

 おぉ、これは文句なしのフルボディ。辛みもあって飲みごたえがある。

 そうはいうものの、サラダと一緒に飲むものではないな。この後味付けが濃いものが出てくるのか?


 注いでくれる人はいないので、自分で注ぎなおそうとした。


 ――その時だった



 ガシャン、と大きな音をたてワインが派手に飛び散った。

 落としたわけじゃない。ワインに向かって何か魔法を放たれたのだ。

 軌道を考えると、僕から見て斜め右側から放たれたと思われる。

 トルメンタかフィークスの人間であろう。

 しかし、フィークスは中立派だからそんなことはしない。わざわざ事を荒立てるのは彼らにとって望ましくないことだからね。

 と、すると……あの二人のどちらかだ。


「あぁ、それはエシェゾー グラン クリュだぞ!! 貴様、なんてことを……」

 わざとらしくトルメンタのカリマが騒ぎ立てる。

 ボサボサの金髪で眼鏡をかけた野郎だ。

「……ディマでしたっけ。それはかなり高価なワインなのですよ。若い子には分からないと思いますが」

「オスクリタ様、ワインは好んで飲みますので価値ぐらい分かりますよ。それより、僕は割っていません。そのお二方のどちらかがこちらに魔法を放ったのです」

 トルメンタの二人を見下すように見やる。

 その嫌悪に染まった目は、彼らを挑発した。

「……本気で言っているのか! この無礼者め!!」

 机をドン、と強く叩きこちらを威嚇する。

 僕は余裕そうに鼻で笑いながら彼を軽蔑した。


「まぁまぁ落ち着いて」

 見かねたオスクリタが仲裁に入り、場を鎮める。

「ディマ、事を荒立てたくないのなら出ていった方が良いと思うが」

 ワイングラスを片手に肘をつきながら僕をじろりと睨みつけた。

 逆らえないと分かっているからか、勝ち誇ったような態度をとっている。


「おや、貴方もおかしなことを言いますね。僕は割ってないと言っているじゃないですか」

「ディマ! 煽るんじゃない……」

 統率者が急いで止めに入る。

 だが、その制止を振り切り堂々たる態度で彼へ近づく。

「ほう? 面白い新参者だな」

 彼はニヤつきながらも警戒をしている。

 左手は常に短剣を引き抜けるように添えてあるからだ。

 新参者だな、と感心(?)しながら言っているが、僕はコイツと何回も会っている。何なら一昨日も会った。


「楽しいか? 愚者の肩入れは」

「どちらが愚者かねディマよ。罪なき人々を容易く殺していく君のことかい?」

それはお互い様だな(・・・・・・・・・)


 いがみ合う二人がこの場の緊張感を高める。

 まさに一触即発といったところだろう。


「どっちつかずのステータスで、使い勝手の悪い底辺の魔術師め。私に楯突こうとは反吐が出る。何か私たちに有益な生き方は出来ないのかね?」

「残念ながら自分の身を守ることで手一杯だ。どっかの血族さんが襲ってくるもんでね」

「……不躾な奴め」


 オスクリタがパチッと指を鳴らすと、デュンケルのブレンネンが立ち上がり僕を無理矢理羽交い絞めした。

 手加減は、ない。デュンケルの輩はみんな無慈悲だからな。


「ははっ、オーロの統率者のクセに自分で手も下せないのか。大したことないなぁ?」


 オスクリタはただ無言でこちらを睨む。

 だが、不思議なことに若干口角は上がっているように見えた――


 

 冷気が沈んでいる廊下へと投げ飛ばされる。

 あの状態から受け身を取ることは難しく、腰から落ちてしまった。

 い、痛い……。いくら健康な体でもすぐには立てない。

「お前、どうしようもない馬鹿だな。そんなに死にたいのか?」

「あぁ、死にたいさ。死にたくもなるさ。あんな夢想家と話したところで意思疎通が図れないもの。少しは現実を見ろってご主人様(・・・・)に言っておきな」

 ブレンネンはヴゥゥッと唸りながら拳に力が込めたが、殴りはしなかった。

 そして軽く舌打ちをし、バンッと乱暴に扉を閉めた。


 

 ……廊下に再び静寂が訪れる。

 はぁ、まだ生きているな。いつものオーロならスパッと頸動脈を切って殺してくれると思ったが。もしくは火炙りにされるか、八つ裂きにされるか。

 切ってくれないなら仕方がない。あと100年は生きさせてもらうよ。


 さてと、ここにいても意味がないし適当に道草を食いながら帰るとするか。

 やけくそになりながら、大声でこんなことを言ってみた。

 

「今日は楽しい楽しい集団自殺マス・スーサイド! 仔羊はもうねんねのお時間! 寝てくれないそこの君達は、アルカリの海に沈めっ!!」


 うん、捉え方次第ではとんでもなく卑猥な詩になった。点数をつけるなら12点といったところか。阿保らしい。

 もちろん返事はない。残念ながら、彼らは死んでしまったようだ。あっ、我らの統率者も殺しちゃった……。じゃあ、統率者以外死んだことにしておこう。ご都合主義ってやつさ。

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