第二十二話 案内1-1
様々な出来事が立て続けに起きたせいか、既に眠い。
僕はしばらく動けずベットに突っ伏していた。
だが、アンヴィはまだまだ元気そうだ。
「ディマー、あそぼーよー!」
堂々と僕の背中に上り、ぽこぽこと手で叩いてくる。
「……遊ぶ? うーん、何がいい?」
「かくれんぼ!」
「か、かくれんぼは本当に隠される可能性があるからな……」
目を離した隙に攫われたら元も子も無い。何か、代替案を……。
「……そうだ、この屋敷の中の探検とかはどうだ?」
「たのしそーだね! たんけんやろう!」
ぐいぐいと腕を引っ張って早く起きるよう促してくる。
まぁ、僕が提案したことだ。やらないとな。
大きなあくびを一つして、ゆっくりと起き上がった。
*
「ねぇねぇ、まずどこから行くの?」
「一階は特に何もないからここの階から見ていこうか」
二階に部屋は九つある。
二階は統率者とイペリット以外が部屋を使っている。それと食堂、洗い場がセットでくっついている。……今じゃ空き室が目立って物寂しい雰囲気があるが。
「メルクリオの部屋はさっき行ったし……ジャーダの部屋まで行ってみるか」
ジャーダの部屋は正面(南)側の一番階段に近い位置にある。ちなみに、僕の部屋は正面から見て一番左側である。
アンヴィがドアを開けると、はしゃぎながら廊下を駆け抜けていった。
「……ちょっと、転ばないようにね」
「へいきへいきー! ジャーダのおへやどこー?」
勝手に突っ走ってしまうので追いかけるのが大変である。
「止まって! そこだから……」
僕は走りながら制止を呼びかける。
アンヴィはその場でぴたりと止まってくれた。普通、このくらいの年の子だと言うことを聞かないものだが……。もしかしたら、元々かかっている魔術の影響なのかもしれない。
「……これがジャーダの部屋。僕の部屋と一つ挟んでお隣同士だ。ドアノブに蔦が吊られているから分かりやすいな。で、向かいがランポの部屋。ヘブライ語でドアに何か刻まれているけど、僕には読めない」
「ランポってだーれ?」
「あぁ、そうだった。教えてなかったな。ランポは魔術と占星術に長けている偉大な魔術師だ。頭が上がらないね。それと、彼はほぼ物見やぐらで暮らしているからあまり部屋にはいないよ」
アンヴィはずっとドアの文字を見ている。
僕には全部ミミズみたいな字にしか見えないが、アンヴィにはこれが何か分かるのだろうか。
いや、さすがに四歳の子が読めるわけがないか。たとえ英才教育を受けていたとしてもね。
「どけっいしぃぁ……?」
「えっ、読めるの?」
「わかんなーい! ディマもよめないんでしょ?」
「あ……うん」
「じゃあわたしもわかんない」
適当な語を発しただけなのか? 意味あり気に聞こえたが……気にしないでおこう。
「……階段を挟んで左奥にあるのが食堂だ。アンヴィも次からはここで食べようね」
「やったぁ! みんなとごはんたべれるね」
みんなと言っても二人はここで食べないけどな……。それぞれ事情があるから仕方ない。
「で、食堂の前にあるのがフラックスの部屋。50歳とは思えないほど若々しく美人だから、食事の時にでも見てみるといい」
「かわいいの?」
「そりゃもう……ね。もちろん、アンヴィも負けず劣らず可愛いよ」
……女性に対する常套句である。それでも嬉しがっているから良しとしよう。
「フラックスの隣の部屋がグランディの部屋だ。ここは……特に言うことはないな。さっき見た通りの人間がいる」
「あのメガネの人?」
「そう、メガネのおじさん。あんなのでも42歳だからな。ランポと僕以外ろくな男がいないから……本当、手が焼けるよ」
情緒不安定な三十路おじさんに、能天気おじさん、ツンデレメガネのおじさん……とジジイ。考えるだけで嫌になってくる。今までよく付き合ってこれたよな。偉い、自分。
「じゃあ、次は三階に行こうか。ここは面白いものがあるからね」




