第十八話 反逆罪
……しばらく見ていたが、4歳とは思えないほど重く暗いストーリー展開している。
テーマは「反逆狩り」。今の僕には聞きたくもない言葉である。いや、アルジェントのやつらは常にこれに怯えて生きているんだけどな。
「この中でだーれがはんぎゃくしゃでしょうか?」
ここまだ残っている登場人物は5人。
僕とメルクリオ、オスクリタ……とアンヴィの兄弟と思われるデセオとアレペンテである。
……最初は9人いたんだが。
アンヴィは今おそらくオスクリタになり切っている。
それで、なぜ反逆狩りが起きたかというと、オスクリタのスープに毒が仕込まれていたからだ。
毒見をした家臣はそのまま死んでしまった。
「……状況的に、アレペンテが怪しい。彼は食事の配膳をしていた」
「ほう、ならやつの首を今すぐ切りおとせ! きさまははんぎゃくざいだっ!」
アレペンテが投射されていた長方形の積み木が、アンヴィの手刀で横に倒される。
「はっはっは、わたしにちゅーせーをちかわぬやつなどいらんわ!」
メルクリオは神妙な面持ちで倒れた積み木を見ている。
そしてかすかに聞こえる声で「Differire……」と呟いた。
きっと、オスクリタはそんな奴ではないと言いたかったのだろう。個人的にはアンヴィの真似が完璧すぎて拍手したいところだが、気持ちに余裕がない。僕もこうやって殺されるのが目に見えているのだから。
「ねぇねぇ、ディマもいっしょにやろー?」
半ば強制的に引き寄せられ、この狂気に参加することになってしまった。
メルクリオにそれとなく合図を送ってみるが、意味ありげな笑みを見せるだけで何も言わない。
僕、死亡フラグ立ちまくってません……? それとも、アンヴィは予言者か何か?
「これがディマね」
指を指した先には、水銀の入った小瓶があった。
危なっかしいものを使ってるなぁ……。どうか、割れないことを祈る。
「メルクリオ、さいきんわたしの命をねらっているものがいるらしい。だれだか知らないか?」
「陛下、この男が怪しいですよ」
メルクリオは迷うことなく水銀の入った小瓶を指差す。
「はぁっ!? ちょっお前……」
「この男は過去にオーロの民を何十人と刺し殺しては嗤い狂っていた精神病質者です。それに、陛下へ対する怨恨もあるとされております。そんな男を野放しにしている方が異常です」
おままごとに事実を持ち込むな……。アンヴィだって困るだろうよ。
まぁ、あの時はちょっとだけ技を試したくなっただけなんだ。そうしたら、偶然死んじゃっただけで……。アイツら本当に無能だから、他の人を逮捕して処刑してたよ。
「ふむ……よくわからないが、あぶないやつなんだな?」
「えぇ、誠に。神に誓って」
先ほどとはうって変わって迫真の演技をしている。メルクリオ、僕に何の恨みがあるという……。時々鋭いナイフを刺してくるから恐ろしい男だ。完全に悪意がある。
「ほんとーか、ディマ?」
「……三割は嘘」
「ほら、こうやって逃げだそうとしていますよ。怪しすぎませんか?」
「ああ言えばこういう。僕は一方的に嵌められているだけじゃないか!」
「もう! 二人ともだまってて」
アンヴィから一喝。弁証など不要ということか。
考えること10秒。彼女の答えは――
「うーん、別にしょけいしたいと思わないからなぁ。いいんじゃない?」
「えぇっ!? 嘘だろおい……」
思わず自分で突っ込んでしまった。こんな白痴は知らない。大丈夫かこの国?
メルクリオは笑い転げてるし、これじゃ収拾がつかない。
「……ダメ?」
「いやぁ、ダメとは言わないけどさ……ハハッ、完璧だよ! あっはははははっ!! 面白すぎるだろう? オスクリタに言ってやりたいくらいだよ」
……これぐらい平和に解決する優しい世界なら苦労はしないよ。