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第十七話 叫び

 ……予想通りの答えであったが、余計に胸が痛む。もうすぐ僕は死ぬというのに、彼女に求められるのだから。

 助けた僕が悪いんだけどな。今更悔いてもしょうがない。


「一緒にいたいなら、パパとママとお別れしないといけない。それでもいいのかい?」

「えっ……どうして?」

故郷オーロを裏切ることになるからだ」


 アンヴィは今にも泣きそうな目で僕をじっと見つめてくる。

 さすがに親の方が大事であろう。どんな仕打ちを受けてきたといえど、それしか世界を知らない彼女にとっては全てである。


「……ディマ、どっちも選んじゃダメ?」

「無理だろうね。和解できるとは到底思えない」

「いやだ……ディマともいたいし、パパとママともいたいの」

「……じゃあ、どっちが大切かい?」

「どっちも……大切だもん……」


 入り交じる葛藤に押しつぶされ、彼女は赤ん坊のように大きな口を開けて泣き喚く。

 今までの苦悩を全て吐き出しているかのように。

 慌てて抱き寄せて慰めようと試みるが、泣き止む気配がない。


「――統率者ドゥクトル


 僕はそうただ一言発した。

 その言葉の意味は統率者にちゃんと通じたようだ。これ以上話しても無駄だと。


「……行くぞ、ジャーダ」

「は、はい、統率者様」


 ジャーダが真っ先にドアを開け、統率者を誘導する。

 そして彼も一緒に出ようとした時、不意に声をかけた。


「ジャーダ」

「えっ、な、何?」

すぐに持って来いよ(・・・・・・・・・)?」


 彼はひぃ、と短く声を上げ足早に立ち去って行った。


*


 彼らが立ち去った後もアンヴィは相変わらず泣き続けている。

「い”やぁあぁぁぁっ! ディマとい”だいのぉぉぉぉっ!!」

「ぼ、僕といたいのは分かってるよ。でもね、パパたちとは……」

「いやぁだのぉっ!! いやぁぁぁぁぁっ!!」


 耳を劈く叫び声。これがずっと続いたら僕の気が持ちそうにない。


 そんなこんなであたふたしていると、それを見かねたのかメルクリオが部屋に戻ってきた。

 ……さっき見た時よりも不機嫌になっている。いや、これは殺意というべきか。触れたら殺されそうな気がする。

 その殺意を持ったまま近づいてきたので咄嗟にアンヴィをローブの中へ隠した。


「……なぜ隠す?」

「その顔で言われたら誰だって守ろうとするよ」


 一瞬だけきょとんとした表情を見せた。

 そして、思い立ったかのように姿見を見て確認している。



「……そんなに酷い顔してるか?」

「あぁ、酷いのなんの。今にも数百人殺しそうな顔だ」

「あのジャーダ(パラライザー)が余計な口叩くからだ。次会ったら殺しておくが……それより」


 オスクリタはローブの中で泣きじゃくるアンヴィの方を覗き込んだ。

 妙に煌めく碧色の瞳がアンヴィの目を捉える。

 その途端、なぜかぴたりと泣き止みメルクリオの瞳をじっと凝視している。



「何、怖がる必要はないよアンヴィ。おままごとの続きをやろうじゃないか」

「……うん」


 目をこすりながら僕の元を離れると床の上にぺたりと座り込み、先ほどまで遊んでいたと思われる積み木や瓶など色々な雑貨をいじり始めた。



 ……理解が追い付かない。

 なぜ、メルクリオがあやすとすぐに泣き止むんだ? 何かしらの魔術を使ったのか?


「……ディマ、驚いているようだな。一応俺だってお前を育ててきたんだ。これぐらいのことはできる」

「は、はぁ……そうなのか?」

「育てていくうちに分かるようになるさ」


 そう言い残すと、自然とアンヴィのおままごとの世界に入って一緒に遊びだした。

 僕はどうやって入ればいいか分からず、ただその光景をベットの上に座って見ていた。

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