第十二話 番狂わせのジャーダ1-2
「……もう、二人とも遅いわよ。冷めちゃうじゃない」
いつも食事を作ってくれるフラックスが、スープをよそいながら僕たちに文句を言った。
「ごめんごめん、色々あってな……」
「そうそう、腰振りすぎて筋肉痛になっ――」
「やってもないことを言うな。少しは黙ってろ」
場が失笑でざわつく。なんでこんな目に合わなきゃならないんだ。あとでうさぎでも狩ってきてもらおう。
申し訳なさそうに席につき、今日のメニューを確認する。
ししゃもの塩焼きと、野菜のスープ、硬いパン。
この前大量にししゃもが取れたからその余りだろう。卵嫌いなんだけどなぁ……。
「とりあえず、いただくとするか……早く食べてメルクリオに食事届けないと」
「あの女の子に届けるんだろ? メルクリオと楽しそうに遊んでるけど」
ジャーダが言ってはならないことを堂々と言ってしまった。
この一言は僕にとって致命傷である。内心この場で始末したかったが、言ってしまったことはもうどうしようもならない。広がり続けるだけだ。
「女の子……だと!? 人体錬成でもしたのか?」
一番早く反応したのはグランディだ。赤髪メガネのいじわるなやつだ。
「そんなことはしてないけど。色々あって、だね?」
「ディマは虐待されてた子を救ってきただけだよー。すごくなつかれているけど、オーロの子なんだよねぇ」
『オーロっ!?』
皆一斉に声を上げる。
あぁ、終わった。生まれてきたときから決まっていたことだけど。
ジャーダは口笛を吹きながら悠長そうにフォークを回している。僕に何の恨みがあるというんだ。
「やっぱり売国奴かよ。アルジェントの恥さらしが」
煙草を吸いながらグランディが睨みつけてくる。
コイツとは一番仲が悪いからなぁ……嫌な予感しかしない。
「まぁまぁ落ち着いて、ね? 彼は良心に抗えない子だから……」
イペリットが制止に入るが、ますます怒号をあげる。
「お前はディマの肩を持つよなぁ。そりゃそうだよ、腹ん中にディマの子がいるしな。もう血が絶えることは分かっているくせに、わざわざ孕む理由なんてあったか?」
「この子は関係ないわ……。同じ血族で争ってどうするの」
「それをお前の口から聞くとはな。第一、お前はデュンケルとトルメンタの混血だろう」
「その話は今関係ないでしょう?」
……こうなったらどうにも収束できない。天に身を任せるしかない。僕が突っ込んでも死ぬし、突っ込まなくても死ぬ。
この問題を持ち上げた張本人に小声で話しかける。
「おい、ジャーダ。どうしてくれる。穴という穴に水晶ぶっ刺すぞ」
「どうしてもなにも、言うのを手伝ってあげただけだよ」
「お前は墓穴を掘っただけだ。どうしかしろ」
「えー、じゃあししゃも一本くれ」
「それならいくらでもくれてやる」
ジャーダは手早くししゃもを3つ取ると、次々に口の中へ放り込んだ。よくそんなに食えるよな……。
「はいはい言い争ってないで聞いて聞いて。まだ話には続きがあるんだよ。その子アンヴィっていうんだけど、オーロに戻りたくないんだって。だから、アルジェントに残ってくれるかもよ?」
そういう問題じゃないだろうと突っ込もうとしたが、それ以前に気になることがあった。
僕、彼女から「オーロに戻りたくない」なんて聞いてないんだが……。




