第十一話 番狂わせのジャーダ1-1
機嫌悪そうに布団の中からこちらを見る。
……アンヴィとは違い殺意に近い何かを感じるが、気のせいということにしておこう。
「……何」
「アンヴィの食事をどうすればいいかなーと思った時に、思いついたんだけど……」
「食事を分けろってことだろ? それならいいんだが」
「だが?」
「彼女を独りにするわけにはいかないから、お前が食事取ってきて」
……人の使い方がうまいなぁ。こういわれたら乗るしかないじゃないか。
僕たちの部屋は地味に食堂から遠い位置にある。まぁ、仕方ない。
「……はいはい、取ってきますよ。アンヴィ、このおじさんと一緒にいてね。ご飯取ってくるから」
「うん!」
彼女がベットの方に向かって走り出したのを確認して部屋を後にする。
……なんか、メルクリオが僕に向かって「首を切れ」とジェスチャーしてたような気がするけど、無視無視。
*
怠惰そうに食堂へと向かうと、後ろから何者かに思いっきり抱きつかれた。
不意にやられると転びそうになる。そして、普通に痛い。
「やぁディマー! まーた新しい女をせしめたんだろお前ー!」
朝からハイテンションなコイツはジャーダという。こんな子供っぽいやつだが、年は35歳である。翡翠色の透き通った髪色をしている。
この血族の30代はどいつもこいつも頭おかしいし子供じみている。まぁ、半分はこの世代だから頑張って付き合わなきゃいけないんだが。
「な……何だよいきなり」
「ナニしたんだよ? やっぱり縛りプレイ? もしくは――」
「何もしてないよ……って、なんで知っているんだ」
「僕の聴力をもってすれば、この館中の物音なんて全て拾えるよ。アンヴィっていうんだろ? なぁなぁ紹介しろよー」
ほんと、コイツの能力は便利なのか不便なのか……。半径200m程度なら音を拾うからな。それに、音を選別できるという。あぁ、絡まれたら一番厄介だ。
「なんであんな夜中に起きているんだよ」
「統率者様が帰ってきたからだろ。あーそういえば、お前一緒に帰ってこなかったな。統率者様は特に何も言ってなかったけど、それが原因じゃ言いたくないだろうなぁ」
「いや、統率者はアンヴィのことを知るタイミングはないはず……なんだが」
アンヴィを連れ去った後、彼とは会っていない。
向こうがいち早く連れ去りに気づいたとしても、満月の晩餐が終わった後だ。言うタイミングがない。
「ふーん、あっそ。じゃあ皆にいつ言うつもりなんだ? 死刑執行の日を」
「今日しかないだろうな。死ねるのは本望だ」
「アンヴィちゃん可哀想に。アルジェントと関わった時点で死は免れない……と言いたいが、オスクリタは子どもと青年に優しいからな。どうせアヘアヘの傀儡に――」
「飯の前に何言っているんだか。早く飯食うぞ」
無理矢理拘束を解くと、彼の腕を引っ張って食堂に入った。




